記事

市販のカゼ薬も医師の処方するカゼ薬も、どちらもカゼは治せない

1/2

カゼを早く治すためにはどうすればいいのか。医師の木村知氏は、「市販のカゼ薬にも、医師が処方する薬にもカゼを治す効能は一切ない。むしろ有害となることさえある。ゆっくり身体を休めることしかない」という――。

※本稿は、木村知『病気は社会が引き起こす』(角川新書)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vm

あのCMは真っ赤なウソ

カゼの症状が出たときに、医療機関にかかる前に、とりあえず市販の薬を飲むという人もいるだろう。総合感冒薬のCMで、「速攻◯◯アタック」とか「効いたよね、早めの◯◯」というキャッチコピーを繰り返し聞かされ続けていれば、「カゼを引いたら早めに薬で症状を抑えないと長引いてしまう」「早く治すためには、症状の出始めに薬を飲むべきだ」と思ってしまっても仕方ない。

たしかにこれらの総合感冒薬に含まれている成分は、解熱鎮痛剤、鎮咳薬、去痰剤、抗ヒスタミン剤、気管支拡張薬など、カゼの諸症状を力尽ずくで抑え込もうとミックスされた最強の布陣ともいえる。

しかし、これらの総合感冒薬がカゼに著効したという経験を持っている人は、多くないはずだ。それもそのはず、これら各々の薬剤はカゼを治す効能を持っていない。長引かせない効能もない。つまり早めに飲んだからといって早く治るわけでもないのだ。多少は症状が一時的に緩和されることもあろうが、大した効果を期待できるものではない。

事実、2017年、米国胸部医学会の専門家委員会は、「カゼに効く」とされているあらゆる治療法には、効果を裏付ける質の高いエビデンスがあるものは一つもなかったとし、「カゼによる咳を抑えるために市販の咳止めやカゼ薬を飲むことは推奨されない」との見解を示している。つまり、これらの薬の服用は無意味であり、CMのキャッチコピーは真っ赤なウソ、効能・効果に関して虚偽または誇大な広告の流布を禁ずる薬事法第66条に抵触し得るのだ。

「市販薬は弱いから効かない」は誤解

患者さんの中には、市販薬は「弱い薬」だから効かない、医療機関で処方される薬は「強い薬」だから効くと思っている人も少なくないのだが、市販の総合感冒薬に入っている個々の成分と、医師がカゼの患者さんに出す処方薬の成分とに大きな違いはない。むしろ私はカゼの患者さんに、ここまで多くの薬を組み合わせた最強の処方をしたことはかつてない。

いくらこれらの薬を組み合わせたところで、カゼの症状を早期に改善させることが不可能であると知っているからだ。そもそも自己防衛反応ともいえる発熱や咳を、解熱剤や鎮咳薬で無理やり抑え込もうとしてはならないのだ。

効かないばかりか、各々の成分による副作用の方が懸念される。特に乳幼児には市販の総合感冒薬シロップは飲ませてはならない。これらの多くの製品には、解熱剤がすでに混入されているからだ。解熱剤はできるだけ使用しないか、仕方なく使用する場合でも、頓服とすべきである。朝、昼、晩など定時で飲ませるべき薬ではない。

どうしても何か処方するならば、市販薬のミックスされた成分のうち、症状から見て不要な成分を抜いて処方するということになるだろう。乳幼児をカゼと診断した場合には、私は薬を出さないか、出しても去痰剤の一剤くらいとしている。

いずれにせよ、市販薬にも医療機関で処方される薬にも、カゼを早く治す効果は一切期待できないのである。

ウイルス感染症であるカゼに抗菌薬は効かない

なぜカゼを治せる薬はないのだろうか。いわゆるカゼというのは、ウイルスによる感染症だ。原因となるウイルスは、少なくとも200種類は存在するといわれており、しかも、カゼの半数以上の原因ウイルスであるといわれるライノウイルスには、それだけでも、少なくとも100種類の遺伝学的に異なるウイルス株があるとされる。

この数百というウイルスをすべて個別に識別して駆逐してくれる薬剤を作ることは事実上、不可能であるし、そもそもカゼという自然治癒する病気を根絶するために、多額の研究開発費を投じて薬を開発しようと考える製薬会社が現れることもないだろう。ウイルスゆえに抗菌薬(抗生物質)も効かない。抗菌薬が効くのは、ウイルスとはまったく異なる構造を持った病原体である「細菌」に対してだ。

昔はカゼの場合でも、医師から抗菌薬が処方されるケースが多かった。私の祖父は父方・母方の2人とも医師(内科・小児科と耳鼻科)だったが、幼いころ頻繁にカゼを引いていた私も、そのたびに抗菌薬を飲まされていた。明治時代生まれの医師たちには、抗菌薬濫用による薬剤耐性菌発生リスクという認識がなく、むしろ抗菌薬に対する期待の方が強かったのかもしれない。

説得に時間をかけずに不必要な処方をしてしまう医師

実は、現在もルーチンワークのようにカゼに抗菌薬の処方をする医師はいる。抗菌薬信仰ともいえるような科学的根拠に乏しい慣習が代々引き継がれてきているのだ。加えて、「せっかく医療機関に来たのだから、市販では買えない成分である抗菌薬を処方してあげないと、患者さんは満足して帰ってくれないだろう」という、極めて非科学的なサービス精神によるものである可能性もある。

診察所見からはまったく抗菌薬を必要としない患者さんから、抗菌薬の処方を強く要求されることも少なくない。抗菌薬が不要であることを説明しても納得してもらえないときに、さらに時間をかけて理由を説明するよりも、要求のままに処方してしまったほうが時間的ロスも精神的ストレスもない、という医師の声も聞く。

実際の現場を知っている私自身、そのような処方を頭ごなしに非難できない。特に、冬場などインフルエンザやカゼといった発熱を伴う急性疾患が急増する時期には、一人ひとりに十分な時間をかけていられないため、押し問答になるくらいなら、要求のままに処方してしまうという致し方ない状況もあるだろう。しかし、そのような悪循環をどこかで断ち切らないと、不要な抗菌薬の使用が今後も続けられてしまうことになる。

あわせて読みたい

「医薬品」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    昭和の悪習 忘年会が絶滅する日

    かさこ

  2. 2

    早慶はいずれ「慶應一人勝ち」に

    内藤忍

  3. 3

    「Mr.慶應」性犯罪で6度目の逮捕

    渡邉裕二

  4. 4

    医師が語る現状「医療崩壊ない」

    名月論

  5. 5

    再び不倫 宮崎謙介元議員を直撃

    文春オンライン

  6. 6

    宗男氏 桜疑惑めぐる報道に苦言

    鈴木宗男

  7. 7

    感染増の原因はGoToだけではない

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  8. 8

    医師 GoTo自粛要請は過剰な対応

    中村ゆきつぐ

  9. 9

    テレビ劣化させる正義クレーマー

    放送作家の徹夜は2日まで

  10. 10

    貯金がない…京都市を襲った悲劇

    PRESIDENT Online

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。