- 2020年02月18日 16:30
静かなクーデター
1/2東京高検検事長の定年を、国家公務員法の特例で延長しようとしている件はあまりに酷いですね。本質的には「桜」の比ではないです。民主主義とか、法治国家とかいった先人の積み上げを否定するものです。法律は厳格なプロセスを経て作られます。内閣法制局で一言一句詰めます。世間的には色々と批判を浴びる事の多い内閣法制局ですが、誤解が生じる可能性が無いように最大限のエネルギーを注ぎます。
まず、一般の公務員に適用される国家公務員法を見てみましょう。この規定によって、東京高検検事長は定年を延長してもらった事になっています。
【国家公務員法第81条の3(定年による退職の特例)】
任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
ここにある通り、退職の特例(定年延長)が適用されるのは「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべき事となる場合」です。では、「前条第一項」に何が書いてあるか見てみましょう。
【国家公務員法第81条の2(定年による退職)】
職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
一般的な定年退職について書かれていますが、重要なのは「法律に別段の定めのある場合を除き」です。そういう場合はこの一般的な定年退職の規定は適用されないという事です。そして、この「法律に別段の定めのある場合」が検察庁法です。この法律には例外規定が一切ありません。
【検察庁法第22条】
検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。
私には、検察官に対して国家公務員法の定年延長の特例が適用される可能性があるようには思えません。当然、国家公務員法改正の審議できちんとそういう答弁がされています。それは「解釈」というよりは、「解釈するまでもなく、読めば論理的にそれ以外の可能性が無い」ものです。つまり、安倍総理は「解釈変更(で特例が適用されて、検察官の定年延長が可能になった)」だと答弁していますが、これは「解釈変更」ではないはずです。解釈で越えられない限界を解釈の名の下に越えようとしています。法治国家の構造を、民主的プロセスに依らず覆そうとしているという意味において、静かなクーデターと言っていいでしょう。