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精神疾患と労働法 ~具体的な紛争の場面と対処法~ - 尾畑亜紀子(弁護士)

 日々労働事件に関与している中で,最近増加傾向にあるのが,労働者がうつ病等の精神疾患に罹患することによって発生する案件である。

 労働事件においてよく見る精神疾患の病名は,うつ病,適応障害,不安症,自律神経失調症である。

 精神疾患に罹患することによって発生する労働事件への対応を行うにあたって,当該精神疾患が発症した原因を考えなければならない。というのは,原因によってその対処法が異なるからである。

 労働事件としての対応を考える際に,精神疾患発症の原因は2つに分けることができる。すなわち,私病による場合と,セクハラやパワハラ,過重労働,あるいは昇格,降格等による業務内容の変化等によって業務上発症する場合である。

ケース1:私病である場合

 それではまず,当該精神疾患が私病による場合の対応を検討する。

 この場合は,休職発令のタイミングと,休職期間満了時の復職の判断が問題となる。

 うつ病等の精神疾患を発症した場合,労働者は欠勤するようになるが,欠勤の理由は最初体調不良というような,何がいかなる疾患に基づくものか判然としない場合が多い。

 そこで,使用者としては速やかに欠勤している労働者から診断書の提出を求めることが肝要である。

 この点,有給休暇を取得する場合においては理由を求める必要はないが,長期の有給休暇消化は時季変更権の行使をする契機にもなるので,有給休暇消化中であっても,診断書の提出を求めなければならない場面は出てくると思われる。

 診断書においては,たいてい「自宅療養1ヶ月」等,まとまった休養が必要であるとの内容となっていることが多い。

 多くの企業の就業規則には,例えば連続3日欠勤する場合には診断書の提出を求める,などという規定があるので,うつ病等の精神疾患による欠勤の場合も主治医の診断書を求めることとなる。

 そして,休職発令の際も,主治医の診断書に基づいて判断することになる。

 もっとも,当該労働者が労務提供を怠る算段として精神疾患を利用することもありうる,つまり詐病の場合がありうるので,休職発令の際には念のため産業医あるいは産業医が紹介する専門医の受診を指示することも検討に値すると思われる。

 ちなみに,産業医あるいは産業医が紹介する専門医の受診を指示するにあたっては,受診した結果の照会について予め当該労働者から同意を得ておく必要がある。患者の情報は個人情報に該当するからである。

 休職発令の後は,就業規則に則り,休職期間満了まで傷病手当金の受給にて対応することになる。

 そこで,精神疾患に罹患した労働者の多くが休職期間満了まで休職することになるので,休職期間満了時の復職の問題が発生する。

 問題なく復職できればよいのだが,やはり休職期間が1年や1年半など,長期にわたることが多いので,突然復職,というわけにはいかないのが実情である。しかも,精神疾患は,一度罹患すると,悪化することや,再発することも多く,復職が難しい疾患ともいえる。

 ところが,多くの主治医は,復職期間満了に合わせて治癒,ないしは軽快した旨の診断書を作成するので,復職の判断においてトラブルになるケースが多い。

 つまり,使用者としては,一時的に軽快したとしても,これまで長期にわたって休職していた労働者を,突然復職させるという判断をすることが難しい。一方で,休職期間が満了すると,就業規則上退職となることから,労働者としては是が非でも復職を望み,主治医も患者である労働者の意向に従った診断書を作成するために,トラブルとなるのである。

 復職の判断の場合も休職の際と同様、産業医あるいは産業医の紹介する専門医を受診してもらい、セカンドオピニオンを取得することが肝要である。

 もちろん、セカンドオピニオンも復職可との診断であれば、初めからフルタイムとせず、短時間から始める復職プログラムを準備しなければならない。その場合、休職前と同じ職に復帰させる必要はない。

ケース2:労災である場合

 次に、当該精神疾患が労働災害により発症した場合の対応を検討する。

 原因としては、前述したとおり、セクハラ・パワハラ、あるいは過重労働が挙げられるが、無視できないのは過重労働である。

 時間外労働は割増賃金の問題がメインではあるが、月100時間を超えるような時間外労働を強要すれば、単に割増賃金未払いの問題だけでは済まされず、うつ病罹患、さらには自殺の恐れまで考慮しなければならない。

 というのは、労働災害が発生した場合は、被害者は労災保険給付を受給できるが、さらに使用者に当該労働者の発症あるいは自殺に過失、すなわち安全配慮義務違反が認められれば、労災保険給付を超えた損害に対して損害賠償義務を負わなければならない。

 もっとも、被害者にも過失が認められる場合は、過失相殺が認められる。

 その場合、過失相殺のよる減額と、労災保険給付控除の先後が問題になるが、判例は、被害者が取得する損害賠償請求権が過失相殺による減額後の額であるとの考え方から、まず過失相殺をして損害賠償額を減額してから労災保険給付の控除を行うべきであるという立場を取っている。

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