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霞が関崩壊の危機は止められるのか? 「ブラック」職場を変えないと政策立案機能が維持できない - 中西 享 (経済ジャーナリスト)

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国の政策を決める中央省庁が集まる「霞が関」がいま「ブラック」職場と化し、エリート職場とみられていた国家公務員キャリア職の離職が相次いでいる。「霞が関」の職場環境の実態について、昨年の9月末に厚生労働省を退職した前医療政策企画官の千正康裕氏(44歳)にインタビューし、外から職場を変えようとする本音を聞いた。

(kanzilyou/gettyimages)

業務プロセスの見直し

千正氏は2月4日、AbemaTVにも生出演し、霞が関の職場環境を変える必要性を強く訴えるなど東奔西走の毎日だ。「これは単に官僚の労働問題ではなく、『霞が関』が疲弊すれば、国の政策の立案、執行の機能が壊れて、国民に迷惑がかかるという深刻な問題だ。官僚の仕事は一般の人には内容が見えにくいが、例えば厚労省の場合でも、年金、介護、医療、保育、働き方など国民の生活に密着した大事なことをやっている」との思いから、改革を叫んでいるという。

職員が健康や家庭を壊したり、若手の離職が増えている状況を変えるためには働き方を変える必要があるが、「業務プロセスを見直し、国民生活と直接関係のない作業を徹底的に減らし、必要な作業であっても、役人でなくてもできるものは外注化を進める必要がある」という。

こうした観点から、実際に厚労大臣への説明や国会答弁作成などの内部手続きのペーパーレス化などの取り組みを進めている。しかし「役所だけで根本的に解決できない国会との関係で減らせない業務の負担が極めて大きい。『永田町』(政治)と『霞が関』(行政)との関係は、重要な取引先と下請けとの関係に通じるものがあり、『永田町』の理解を得ながら仕事のやり方を変えなければならない」と主張する。

重荷になる国会業務

中でも、「深夜に緊急的な仕事の入る国会関連業務を減らすことが最重要だ」という。

「国会の質問通告の日時を公表すことにより、各議員の通告は与野党の申し合わせでは委員会の2日前の正午までに行うことが原則とされているが、実際には全く守られていない。前日の夕方から夜にかけて行われるのが通常であり、内閣人事局の調査では、ある委員会においてすべての議員の質問に通告が完了する時刻は平均21時ごろである。その時間から翌日朝の委員会に向けて答弁を準備していたら深夜残業は避けられないので、委員会の質問通告の早期化が不可欠である。

ただ、それを実現するためには、そもそも委員会日程を計画的に決めなければならない。現状では、委員会日程そのものが政治的な取引の対象になっているので、与野党間でぎりぎりまで調整した結果、前日になって翌日の委員会日程が決まることもある。これでは、質問者の議員が頑張っても早く通告することは難しい」と話す。

「例えば、通常国会は1月に召集され、6月まで150日間の会期があるが、冒頭から会期中にどの法案が提出予定なのかは見えている。この法案についてはいつどのくらいの時間審議をして、いつ採決する、といった具合に、本来あらかじめ日程を決めておくことができるはずだ。そうすれば、国会議員も役所も計画的かつ効率的に準備ができる。質問する議員の側も急に日程が決まるので、質問案を徹夜して作ることもある。このような議員の働き方は、子育て中などの女性議員が増えない問題にもつながってくる。

しかし、これを実現するには政治的なハードルがある。あらかじめ採決などの日程が決まってしまうと、法案を通したくない野党としては“攻め手”がなくなってしまうので、なかなか応じられない。野党に応じてもらうためには、与党側も日程を最初に決めてしまう代わりに、内容面で野党の少数意見を必要に応じて取り入れるような工夫が必要になるかもしれない。今のやり方は、長年の国会運営の中での与野党の均衡点であり、変えることは与野党双方にとって難しい面があり、話し合いには時間がかかるだろう」という。

まずはルール作りから

「だからまずは委員会開催が決まった日時と、個々の議員の質問通告日時公表だけでも先にやっていただいて、実態を把握するとともに課題を洗い出していただけたらと思う。こうした国会のルールは議員の先生にしか変えられない。どんなによい議論をして政策を決めても、実際に手を動かす『霞が関』が機能不全に陥っては、結局国民に迷惑がかかるのだから、危機感を共有していただいて、各党の先生方にルール作りを議論するテーブルについていただくことが重要だ」と訴える。

国会ではタブレットやスマートフォンの持ち込みは禁止されている。だがデジタルの時代のいま、タブレットの持ち込みが認められれば、現在、大臣などが答弁に対応するために準備しているメモや資料の前日深夜の大量コピーという無駄な仕事がなくなる。紙資源の節約やコピー経費の無駄も省ける。委員会前の早朝に行われる大臣との答弁に向けた勉強会で修正指示が出ても、修正したメモを慌ててコピーする必要もなくなる。

民間企業では当たり前になっていることが、『永田町』では「資料は紙で持参するか、FAXで送信してくれないと困る」などといった時代錯誤的な反発があるのが不思議である。「FAXで送られると、誰かがそのデータを入力する手間がかかる。データ化しておけば最新情報を瞬時に送信することもできる。国会議員の多くは、有権者への情報提供に選挙期間中はSNSなどを利用しているにもかかわらず、日常の業務では、依然として紙に頼るなど遅れている」と話す。

この問題は10年以上前から度々話題に上るが、こうした課題は数年前から与野党に要望してきているにもかかわらず、なかなか前に進んでいないのが現状だ。与野党は政治的な駆け引きは抜きにして無駄な事務作業をなくすよう真摯に話し合うべきではないか。

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