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特集:米民主党、「5候補+1」の行方

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●有力な「5候補+1」を診断してみる

ワシントンポスト紙がNH州予備選挙で出口調査を行い、「どの候補はどんな人たちが支持しているか」を分析している2

これを見ると、サンダース候補は「とてもリベラル」「18歳から29歳」「年収5万ドル以下」「国民皆保険に賛成」「格差問題が最大の課題」という属性の層から強い支持を得ている。ウォーレン候補も同様な傾向にある。

これとは対照的に、ブティジェッジ候補は「年収10万ドル以上」「国民皆保険に反対」「気候変動が最大の課題」という層の支持を得ている。また、ここへきて急激に追い上げているクロブシャー候補は、「毎週教会に通っている」「65歳以上」といった保守層の支持を受けている。さらに5位に終わったバイデン候補は、「外交が最大の課題」という層の支持を得ていることが分かる。

こうしてみると、左派の「サンダース/ウォーレン」と中道派の「ブティジェッジ/クロブシャー/バイデン」の支持層はあまり重なっていない。候補者は最終的にだれか1人に絞られるわけで、その場合、相手側がどういう態度に出るかが悩ましいところとなる。

以下、有力候補の今後の選挙戦略を考えてみよう。

バーニー・サンダース(78):前回の2016年選挙では、大本命のヒラリー・クリントン候補を相手にアイオワ州で49.6%、NH州で60.4%を獲得した。25%前後という今回の成果は不満が残るところであろう。今後、戦いの場が南部に移ると、マイノリティの支持が弱いというマイナス面が出てくるが、同じことは4年前にも経験済み。一匹狼タイプなので、とにかく簡単にはギブアップしないはず。どこかの時点でウォーレン支持者を取り込まねばならないが、両者の関係は良好とはいいがたい。

ピート・ブティジェッジ(38):アイオワ州から後の準備はあまりできていないが、このまま一気に勢いに乗りたい。資金の集まり具合も以前から良好。若さが弱点と見られる恐れがあるので、今後は民主党内の大物たちからエンドースメントを受けたいところ。LGBTという「属性」は序盤戦では有利に働いたが、今後、選挙戦が保守的な南部に移るにつれてマイナスに作用するかもしれない。

エイミー・クロブシャー(59):ここへきて急上昇中。NYタイムズ紙などの支持もあり、「現実的な女性候補」の選択肢となりつつある。資金も集まり始め、ネバダ州などで選挙スタッフを増員中。他の候補者が70代もしくは30代という中で、50代は目立つ。次の目標はスーパーチューズデーに、地元ミネソタ州以外の州で首位に立つこと。

エリザベス・ウォーレン(70):一時はトップに立ちかけたが、現在は支持率が低下気味。サンダースと差別化するために、”Warren has a plan for that.”(ウォーレンにはプランがある)と改革を理詰めに訴えたが、これがかえって裏目に出た。左派の支持者はもっと「共感」を求めており、「中途半端な改革者」に見られてしまったようだ。

ジョー・バイデン(77):「マイノリティに強い」候補者として、黒人比率の高いサウスカロライナ州を「防火壁」とする予定。しかし緒戦の躓きによるネガティブ報道が多く、ここから挽回できるかどうかは微妙。「豊富な政治経験」が売りにならないという昨今の風潮は、ワシントン暮らしの長いバイデンにとっては辛いところ。

上記5人の混戦が続いた場合、現実味を増してくるのが「後出しジャンケン」組のマイケル・ブルームバーグ(78)だ。とにかく底なしの資金量が強みである。時間がたてばたつほど有利になることを自覚しており、“Contested Convention”にもつれ込んだ場合の最有力候補と言える。以上、民主党は「5候補+1」に絞り込まれたと考えていいだろう。

●「社会主義」は米国の解決策足りえるか?

こうしてみると、「共和党支持者の9割以上がトランプ大統領支持」と言われるほど、共和党が一本化しているのに比べ、民主党内の対立は深刻である。今週のThe Economist誌にある通り(次ページ参照)、民主党の急進派が大統領候補になるようだと、トランプ氏の再選確率は高まるだろうし、彼らの公約はいくつもの誤算の上に成り立っている。

特にThe Economist誌が心配しているのは、「民主社会主義者」(Democratic Socialist)を自称するサンダース候補である。しかしサンダース氏自身は、以前から同じことを言い続けてきただけであって、そこに若い世代の支持が集まっていることの方が重要だと言えよう。2018年8月のギャラップ調査によれば、民主党支持者のうち社会主義をポジティブに捉えている者は57%に達し、逆に資本主義をポジティブに捉えている者は47%に過ぎなかった。ひとつには冷戦時代が過去のものとなり、社会主義の失敗を知らない世代が増えていることもあるが、それだけ資本主義が魅力を失っているからであろう。

現在、民主党候補が議論している国民皆保険制、公立大学の無償化、富裕層増税といった政策は、日本の感覚から言えば「社会主義」というほどではあるまい。しかし米国の政治的伝統から言えば、十分に「社会主義的」であるということになるだろう。

その昔、ドイツの社会学者ヴァルナー・ゾンバルトは、「なぜ米国に社会主義が存在しないのか」という論文の中で、「米国における社会主義は、ローストビーフとアップルパイの前に頓挫する運命にある」と喝破した3。すなわち、米国社会はそれだけ豊かであり、誰もが社会的上昇感を得ることができる。そんな国では労働運動が盛り上がるはずがなく、社会主義の方向に向かうはずがない、というのである。実際に冒頭で紹介したチームスターがそうであったように、米国における労働運動とは権利獲得の歴史であり、どうかするとホッファ委員長のように私利私欲を追求した者さえいたのである。

ただし米国における豊かさが失われ、社会のモビリティが低下すれば、この限りではなくなる理屈である。これまでの米国では、常に新たな移民がやってきて社会の最下層を形成してきた。するとそれ以前の移民は自動的に中流化し、次の世代は確実に親の世代よりも豊かになることができた。これが「アメリカン・ドリーム」なるものの正体であったとすれば、この図式は既に怪しくなっていると言わざるを得ない。

既にトランプ政権は別の解を提示している。それは新たな移民を制限し、保護主義を発動し、外国に責任を転嫁するというものである。これは経済学的には間違っているはずなのだが、政治的には一定の成功を収めているように見える。

民主党左派は、2020年選挙でこれに代わる案を示さなければならない。ただしサンダース/ウォーレンが主張している内容は、どうにも「空想的社会主義」に留まっているように思われて仕方がないのである。


1 現にアイオワ州の人口300万人のうち、党員集会に参加したのは17万人のみであった。これに対し、NH州では人口130万人のうち約30万人が予備選挙に参加している。

2 https://www.washingtonpost.com/graphics/politics/exit-polls-2020-new-hampshire-primary/

3 中山俊宏「アメリカに社会主義はない?」(『外交』2020年1/2月号)

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