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特集:米民主党、「5候補+1」の行方

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アイオワ州党員集会、ニューハンプシャー(NH)州予備選挙を過ぎると、案の定、米大統領選挙は違った景色が見えてきました。SNS時代になると、有権者がメディア情報に左右されなくなるので、序盤州の重要性は低下するという事前予測もあったのですが、終わってみれば今まで同様、「伝統の力」が遺憾なく発揮されたように感じられます。

とはいえ、トランプ大統領は弾劾裁判で無罪となり、2月4日の一般教書演説ではやりたい放題。ここへきて11月の本選挙における再選確率はかなり上昇している感があります。ここは民主党予備選挙の盛り上がりに期待したいところですが、目下のところは混戦模様です。今後の「5候補+1」の戦いを展望してみました。

●「労働運動」が華やかなりし時代

今週2月9日に発表されたアカデミー賞は、韓国映画『パラサイト――半地下の家族』が4部門を受賞した。非英語圏の映画が、アカデミー作品賞や監督賞を受賞するのは初めてとのことだそうである。が、あいにく筆者の関心はそこにはなく、「やっぱりハリウッドは、ネットフリックスの映画に冷たいなあ…」であった。

筆者のイチオシ映画『アイリッシュマン』は、実に10部門でノミネートされていたのに、まったくの空振りに終わった。巨匠マーティン・スコセッシ監督、主演はロバート・デニーロとアル・パチーノ、加えて引退していたはずのジョー・ペシまで登場する。費用が掛かり過ぎるという理由で、映画製作会社がさじを投げていた企画に、ネットフリックスが巨費を投じて製作にこぎつけた。ところが劇場公開が少なかったために、「そもそも『映画』ではない」として、アカデミー賞の選考対象から外せという強硬意見さえあった(なんともケチくさい)。たまたま筆者は、映画館でこの3時間29分の大作を見ることができたのだが、空腹時に豪華ディナーをガッツリ食べたような満足感を覚えたものである。

この『アイリッシュマン』、舞台は1970年代、トラック運転手の労働組合「チームスター」をめぐる物語である。特にアル・パチーノが演じるジミー・ホッファ委員長は、実在の人物であるのだが、まことに戦闘的で、絵に描いたようなポピュリストなのである。

ホッファは政府や経営者を平気で敵に回し、「エルヴィスやビートルズのように人々を熱狂させ」、「大統領に次ぐ権力者」とまで呼ばれた。一例を挙げれば、当時建設中であったラスベガスのカジノでは、まともな銀行が資金を貸してくれなかった。そこでホッファは150万人の組合員の年金を流用し、マフィア関連の企業に貸し付けていた。もちろんリベートを受け取って(!)である。ホッファはついにはマフィアから狙われるようになり、1975年には行方不明となってしまうのだが、この映画はその謎も解き明かしている。いわば半世紀前の米国社会の裏面史を描いている。

つくづく感心するのは、半世紀前の米国の労働運動はまことに派手で華やかなのである。カリスマ的な弁舌で組合員を掌握したホッファは、1957年から71年まで組合のドンとして君臨した。そしてチームスターのストライキは、米国経済を危うくするものとして連邦政府が恐れるものであった。

面白いことに、チームスターは民主党支持だったわけではない。特にロバート・ケネディ司法長官は裏社会とのつながりを問題視し、その告発を受けてホッファは収監されてしまう。ところがその後、ニクソン政権下で特赦を受けて出所している。今から半世紀前の米国はまことに野蛮で、粗野で、無茶苦茶なのだが、変に魅力的なのである。

なぜ、こんな話を冒頭から延々と続けているかというと、今や米国の労働組合は組織率1割程度まで低下している。そして今回の米大統領選挙においては、ほとんどの組合がどの候補者を支持するかを明確にしていない。

そのことは、民主党予備選挙の序盤戦にも影を落としている。2月3日のアイオワ州党員集会、2月11日のニューハンプシャー州予備選挙を終えた時点で、序盤戦の候補者選びは「混戦」と見るべきであろう。そして「国民皆保険制」(Medicare for all)や「グリーンニューディール」といったアジェンダは、組合としての判断が悩ましいのである。

一例を挙げると、この次に予定されているのは2月22日のネバダ州党員集会である。同州で影響力を持つ料飲食業組合は、「サンダース候補に反対」のビラを配布した。なんとなれば、ホテルやカジノで働く6万人の組合員は、既に優良な民間保険でカバーされている。ところがサンダース候補の公約では、全ての保険を国有化して民間保険を廃止することになっている。この場合、組合が既得権の保護に動くのは当然であろう。何しろ長年にわたる苦労の末に勝ち取った成果なのだから。

つまり労働組合と言っても、半世紀前とは違って今ではさまざまな事情を抱えている。民主党の候補者で労働者の味方だから支持する、という単純な図式ではなくなっている。

ことによると、トランプ現政権の方が組合の利益になるかもしれない。保護貿易や強硬な対外通商姿勢、移民制限といった政策は、特に製造業のブルーカラー層にとっては歓迎されるところであろう。

●アイオワとNHを組み合わせて考えると…

さて本誌の前号でもお伝えした通り、緒戦のアイオワ州、NH州の選挙を終えると、大統領候補者は世論調査の数字ではなく、「〇〇州で×位だった」ことで格付けされるようになる。その結果は案の定、事前の想定をかなり裏切るものとなった。

それというのも、全国規模の世論調査は所詮、候補者をメディアやネットを通じたイメージで捉えている。一度出来上がったイメージは簡単に崩れるものではなく、例えばバイデン候補は副大統領として8年間の実績があるだけに、討論会で失言をしてもすぐに挽回することができた。あまりにも失速と再浮上を繰り返すので、「バイデンは(傷がつかない)テフロン候補者か?」という声が出たほどだった。

ところが緒戦の2つの小さな州では、有権者が候補者を間近に見て投票している。となると、「前副大統領もさすがに年をとった」「無名の候補者だが、話を聞いてみると意外と良かった」式の印象が、ダイレクトに投票結果に響くことになる。往々にして、その結果は世論調査とは違ったものになる。

特にアイオワ州は「党員集会」であり、平日の夜に集会所に集まって、時間をかけて「誰を選ぶか」を討議する形式である。「ご近所の人と政治の話はしたくない」という人は、最初から集会に参加してくれない1だからユニークな結果が出やすい。少し語弊のある言い方を許してもらえば、「(内心では)LGBTの候補者は選びたくない」という人は沈黙し、「(敢えて)LGBTの候補者を選びましょう」という人の意見が通りやすくなる。

次のNH州予備選挙は普通の秘密投票なので、結果は違ったものになりやすい。2つの州の結果を併せて候補者をふるいにかけるのは、米大統領選の伝統の知恵と言えよう。


さて、この結果を見ると「最大でも25%前後」の候補者しかいない。個人的には、これでサンダースやブティジェッジを「フロントランナー」と呼ぶのは抵抗を感じるところで、最低でも3割以上を確保して後続に差をつけないと、他の候補者がなかなかあきらめてくれない。2020年の予備選挙は長期化しそうである。


事前の予想では、3月3日のスーパーチューズデーで全体の3分の1以上の代議員数が一気に決まるので、ここで候補者が2~3人に絞られ、後は早々に決着がつくのではないかと見られてきた。

しかるにこのままいくと、7月の民主党大会まで決まらないというシナリオも無視できなくなってきた。党大会当日に候補者を決めることを”Contested Convention”とか”Brokered Convention“と称する。この場合、支持者に「スッキリしない」印象を与えるので、その後の本選に悪影響を残すことは言うまでもないだろう。

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