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「情報は共有しないほうがリスク」の徹底が、米軍を強い組織に変えた──「見守りつつ手は出さない」元司令官の覚悟

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歴史上の偉大なリーダーと聞いて、軍の司令官を思い浮かべる人は少なくないのではないでしょうか。

映画や小説では、戦場の英雄たちがすべての情報を掌握し、決断する姿が数多く描かれてきました。経験と実績を兼ね備えたリーダーがすべてを一任し、彼らの判断のもと、組織や軍隊は効率的に規律正しく運営されていました。

「それはインターネットが登場する前の話だ」と話すのは、スタンリー・マクリスタル元米軍司令官です。

現代の脅威はいつにも増して複雑で、戦争で勝つために必要な情報を1人のリーダーが効率的に管理することは非現実的だとすら言えます。

マクリスタル元米軍司令官とサイボウズの代表取締役社長 青野慶久による対談。前編に続き、後編では、透明性と情報共有の必要性によって再定義されるリーダーシップについて語ります。

※この記事は、Kintopia掲載記事New Risks, New Challenges, New Leadership: Lessons on Organization from a U.S. General (Part 2)の抄訳です。

組織では、情報を共有しないほうがリスク

マクリスタルさんの著書 『TEAM OF TEAMS 複雑化する世界で戦うための新原則』で特に興味深かったのが、米軍では情報漏えいのリスクがあってもなお、情報共有を増やしたという点です。

軍隊で、誤って情報が漏えいした場合、打撃は相当大きいはずです。

米軍が扱う情報だけでなく、そもそも組織の存在自体が極秘でした。外部の人間に一切の情報を共有せず、自分が所属していることを口外することもありませんでした。

ところが、扱う情報の大半は、私たちが思うほど極秘にする必要がなかったのです。状況が刻一刻と変わっていくため、ある情報が今日は極秘だったとしても、2日後に公になったところで、支障はありませんでした。

スタンリー・マクリスタル。元米軍司令官であり、国際治安支援部隊の一員。統合特殊作戦コマンドの元司令官。軍の司令官を引退後、2011年にアドバイザリーサービス、経営コンサルティング、およびリーダーシップ開発会社であるMcChrystal Groupを設立。また、イェール大学ジャクソン・インスティテュート・フォー・グローバル・アフェアーズの上級研究員としてリーダーシップに関する授業を開講。著書に『TEAM OF TEAMS 複雑化する世界で戦うための新原則』(日経BP社)など

「私たちは、常に変化している。仮に、今の居場所を誰かに伝えたところで、24時間後には移動しているのだから問題ない」

組織内部から情報共有に抵抗が出始めたとき、彼らにまずこう伝えました。

そうだったのですね。

ええ。次に優先したのは、何が本当に機密なのかの見極めです。絶対に漏れてはいけない情報と、一定期間後なら漏れてもいい情報を見極めたのです。

例えば、私たちのエージェントの名前が公になったときの打撃は計り知れないため、その点は念を押して教育しました。「極秘の環境下で、情報共有を頻繁にしつつ動いてほしい」という彼らへの期待値も明確にしました。

基準を明確にしたんですね。

そうです。そして、敵を捕まえる手柄ほしさに情報をとどめておく文化を乗り越える必要がありました。

各組織がそれぞれパズルの1ピースを抱えている限り、全体像は見えてきません。お互いのピースを共有することで、より良い成果が生まれることを伝えました。

これらの手順を踏んだ結果、私たちのオペレーションの効率は急激に上がりました。

そして、内部競争を減らすために、個人や小規模のチームではなく、かかわった全員の貢献を認めるようにしたんです。

そこまでのレベルの情報共有に慣れるハードルは高そうです。

正直に言って、一番のハードルは米国政府全体から理解を得ることでした。「米軍の統合特殊作戦コマンド(JSOC) はスピードを落とし、情報共有を控えるべきだ」という意見に対しては「情報共有による痛手はないこと」また「前代未聞の成果を上げている」ことを示すだけでした。

反論のしようがない返答ですね。

当時、情報漏えいに苦しんでいた米国政府は「これ以上、情報共有しない」という姿勢でした。

彼らに対して、情報を共有するリスクより、共有しないリスクのほうが上回るという点をしっかり伝える必要がありました。

その当時のエピソードはありますか?

2007年のことです。私がイラクの人事記録を見ている中で、アルカイダのメンバーを見つけたんです。その時、諜報部員には「この情報をパートナー国に知らせれば、イラクへの外国人戦闘員の入国を防げる」と伝えたんです。

すべての情報が機密扱いされていたのに、結局どの情報にも機密性はなかった

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

反対意見はありませんでしたか?

「それは機密情報だから口外すべきではない」との意見もありましたが、諜報部員の「この情報を得たのはあなたです。機密かどうかは、あなたが決めることです」という言葉をもとに、情報をパートナー国に共有しました

そうなんですね。

最初、中央情報局(CIA)などは、怒りをあらわにしました。でも、これはあくまで敵の人事記録です。

アルカイダのメンバーは当然、その中身を把握しており、情報が私たちの手に渡っていることも知っています。口外しないことで、一体何を守ろうというのでしょうか?

これが数年前なら、情報が外に出ることは決してなかったでしょう。組織の文化が変わったからこそ、入手した情報を有効に活用できたのです。

最終的に、一時的にでも機密だと判断された情報は多かっただろうと想像します。その重要な情報をどう守りましたか?

機密情報が大きな場で議論されることはありませんでした。

なぜなら、厳しく制限された一部のグループだけに情報がとどめられ、漏れた場合は、極めて厳しい処罰が待っていることを全員が理解していたからです。

真の機密情報だけに注意を払うことで、関係者全員がその情報を敏感に扱うことができたのです。

多くの組織には、ひたすら情報を隠そうとする傾向があります。

しかし、統合特殊作戦コマンドの場合、隠すものと共有するものを積極的に決めることで、機密情報の保持をより厳格にできるようになったんですね。

そうです、それは不可欠な変化でした。

以前は、情報を隠そうとするのがデフォルトの文化でした。どんな情報共有もトラブルにつながる可能性があると考えられていたのです。

一方、私たちは「その情報を必要としている人に共有しないとトラブルになる。ただし、一部の機密情報だけは、共有する前に特別な許可を得てほしい」ということを明確にしました。

すべての情報が機密扱いされていたころは、結局どの情報にも機密性はありませんでした。ですから、絶対に漏れてはいけない情報を明らかにする必要があったのです。

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