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「不倫しても人気者」がいた時代はいずこ - 花房観音

今はじまったことではないが、ネットでは今日も芸能人の不倫叩きで活気づいている。

ひとつの話題が終わりつつある頃に、また新たな話題が投入されて、大忙しだ。

今、話題の50代同士の俳優の不倫なんて、週刊誌がほじくらなければこそこそ楽しんでいただけだから、さすがにほっといたれよと思うのだが、謝罪して番組降板にまで至り、「裏切られた奥さんが可哀相!」コールを続ける人たちもいる。

当事者以外の人間が、そこまで人の不倫に怒る気持ちは、わからない。

ましてやこの世から消え去れ! とばかりに罵倒したり、出演番組や事務所に抗議するエネルギーも、理解できない。

裏切られた妻がかわいそうだと、自分たちの怒りの理由を作るけれど、世の中には、たとえ悲しい出来事があっても、悲劇のヒロインになりたくない、被害者になりたくない、ましてや同情という娯楽の道具にされたくない人だっている。無責任な同情を屈辱的に感じる人も。

結局「不倫叩き」は娯楽なのだ。そして同情は、正義に酔わせてくれるので、たいへん気持ちがいい。お金のかからない、自分が正しいことをしてる気になれる娯楽のネタを、毎週のように週刊誌が提供してくれる。 

けれど、みんなそんなに人を叩けるほどに、品行方正で、パートナー以外の異性に、実際に行為には及ばぬまでも好意を抱いたこともないのか。

あなたはどれだけ正しいのか

そもそも「不倫をバッサリ!」断罪する芸能人たちには違和感がある。美男美女で魅力的な色気のある人たちだらけの芸能界、その世界で生きていく人たちは、そんなにも正しく道を踏み外さずに生きているのか。

ごくごくたまにテレビやイベントなどに呼んでもらい、本物の芸能人と遭遇したことは何度もあるけれど、圧倒されるような美男美女、漂う色気、また成功している人たちは、内面も魅力的だったりする。こんな世界にいたら、私なら理性を抑えきれる自信がない。

だいたい、ワイドショーで、芸能人の不倫がどうこう言う人たちだって、過去にいろいろあったでしょ? と、ツッコみたくなるのは私だけではないだろう。自分のことは棚に上げて、しらっと他人事のように、「ご家族がお気の毒ですねー」などと口にできる厚顔無恥な人じゃないと、無理な仕事なのでしょうね。

夫婦でも恋人でもセフレでもなく

そんな不倫叩き真っ最中の中、新刊が出た。

「情人」というタイトルで、阪神淡路大震災から東日本大震災、1人の女性の20年の恋愛や結婚、家族との向き合い方などを描いている話だが、まあ基本的に不倫の話です。

新聞広告も出してもらったが、「不倫、浮気、略奪愛。みんなしてることやんか――」と、タイトルの隣に大きく出て、我ながらタイムリーだなと思った。

結婚という制度と、性愛の快楽は、別のところにある。

そのふたつが上手く結びつけばいいけれど、それだって年月を経て変化もする。

出会ったときから、死ぬまで、心も体も深く愛し合ったままの夫婦は、どれだけいるのだろう。

好きで好きで心底惚れてはいるけれど、一緒に生活できない、結婚したらきっと関係は破綻するであろうことが見えている恋愛というのもある。

タイトルを「情人」としたのは、恋人でもなく、夫婦でもなく、セフレという言葉を使うのには重苦しく、肌が合って離れがたく、その人とのセックスが何よりも大切で、救いだったりする、そんな関係ってあるよね、という話だからだ。

わからないって言われたら、はいそうですねとしか答えられないのだが、私はそういう制度や道徳を超えるほどの力がセックスにはあると思っている。



阿部定は人気者



今年のお正月明けに、大阪此花区の「此花千鳥亭」に足を運んだ。

昨年オープンした、上方の講談師たちが自らの手でつくった講談の小屋だ。

ここで、旭堂小南陵さんの「阿部定」を聴いた。

大正時代、芸者や娼婦などの職を転々とし、勤めた料亭の主人・石田吉蔵と恋仲になり、ふたりで旅館に籠り朝も昼も晩もひたすらまぐわい、ついには戯れに首を絞めてそのまま殺してしまった阿部定の名はよく知られている。

男が死んで、その遺体を男の妻がさわるのが嫌だと、阿部定は男の局部を切り取り懐にいれ、シーツに血で「定吉二人きり」と書き、男の太ももに「定吉二人」と刻み、逃げる。

ひとりではなかった。自分の中に出たり入ったりして悦ばせてくれた、自分も散々しゃぶったり手で弄んだ男のものが懐にあるから、寂しくはない。愛おしくて可愛くて大好きな男のペニスが一緒だ。

定は逮捕されたが、「不倫の末の殺人」のはずなのに、世間の人気者となった。

人の夫だけれども、好きで好きで、抱き合うと身も心もとろけてしまい、離れられなくなって、一緒にいるときはずっと肌を合わさずにいられなくて、もう世間とか、仕事とか、家族とか、すべてのものがどうでもよくなって――そんな快楽の果ての人殺しに、人々は熱狂した。

不倫はいけない。残された妻が気の毒すぎる。

それでも、人々が阿部定に夢中になったのは、社会性をかなぐり捨ててセックスに溺れた男女へ焦がれたからではないか。

小説は道徳の教科書ではない

小南陵さんが熱演した講談「阿部定」に、観客たちは圧倒されていた。

男に惚れて惚れぬいてセックスに溺れた末に破滅した女――。

阿部定を演じる小南陵さんから発せられる色気に呑み込まれた。

阿部定がやったことは、それこそ「不倫、浮気、略奪」しかも犯罪ではあるけれど、羨ましいと思う自分がいた。

結婚して子どもを産み家族を作り、ひとりのパートナーと平和に暮らす「女の幸せ」よりも、破滅的な阿部定の「女の幸せ」に焦がれてしまった。

不倫はいけない。

人を傷つける。

わかっている。

でも、人は正しく生きられない生き物だ。

そのために法律やルール、道徳がある。

人が欲望のまま生きると、世の中は無茶苦茶になる。

でも、私が書きたいのは、正しい人ではなく、わかっていても道を踏み外し、苦しみ悩みながらも、快楽に身を沈める幸せを選択する人たちだ。

道徳の教科書を書いているわけではない。

だから、「私は正しく生きています!」なんて顔をして、他人の不倫を断罪するようなまねが、できるわけがない。

(最近食べて美味しかったもの。白子と蛤の酒蒸し)

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