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『パラサイト』が見せつけた“韓国映画の底力”――日本はこれからも負け続けるのか? 韓国コンテンツが世界でウケる“必然” - 「文春オンライン」編集部

 第92回アカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞・国際長編映画賞の4冠に輝いた韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。アカデミー賞の歴史において、非英語圏の映画が作品賞を受賞したのは史上初のことだ。韓国映画がカンヌやヴェネツィアなどの国際映画祭で大きな賞をとるようになったのは比較的最近のことで、主に2000年代に入ってからだった。そこからわずか20年ほどでの快挙に、驚いた人も多いだろう。

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 かつては、長らく日本がアジア映画を牽引していた時代があった。黒澤明、小津安二郎、溝口健二など、日本映画界が世界に与えた影響は絶大だった。しかし、今では韓国映画の勢いにおされ、日本映画は世界での存在感を失いつつあるようにも感じる。

 この日本と韓国の“差”は一体いつ、どこで生まれてしまったのだろうか。アジア映画研究を専門とする、立教大学の李香鎮(イ・ヒャンジン)教授に、「韓国映画の“急成長”の秘密」について聞いた。


©AFLO

◆◆◆

――この20年ほどで韓国映画が急速に進化している印象があります。その背景には、どんな要因があるのでしょうか。

李 「なぜ韓国のコンテンツが世界で評価されるようになったのか」というテーマを語るとき、日本でよく言われるのは「国が金銭的な支援をしているから」という理由ですよね。

――人口が日本の半分以下しかない韓国では、国内市場が小さいため、海外でも“ウケる”コンテンツを作って輸出しないとなかなか稼げない。そのため、国が力を入れてエンタメ産業をサポートしている……という話ですね。

政権の「ブラックリスト」に載っていたポン・ジュノ監督

李 ただ、『パラサイト』のポン・ジュノ監督や主演のソン・ガンホなどは、朴槿恵政権時代には「ブラックリスト(※)」に載っていた人たちです。「国が支援したから」という論理でいくと、ではなぜブラックリストに載っていたような人たちが素晴らしい作品を作れたのか、という疑問が出てきますよね。

 もう一つ例を挙げると、同じくブラックリストに載っていたイ・チャンドン監督の『ポエトリー アグネスの詩』という映画があります。当時、彼は制作費を支援してもらおうと、公的機関である韓国映画振興委員会にシナリオを提出していましたが、そこである委員が下した評価はなんと「0点」。結局、全く支援を受けることができませんでした。しかし、完成した映画はカンヌ映画祭で脚本賞を受賞しています。

※ブラックリスト:朴槿恵政権時代(2013~17年)に作られていた、「文化芸術界のブラックリスト」。政府の支援対象から排除することを目的に、政権に批判的な文化人がピックアップされた。ポン・ジュノは李明博政権時代(2008~13年)にも、同様のブラックリストに入っていたことが判明している。

「あー、面白かった」では終わらないコンテンツ

――なるほど。国のサポートと映画の評価は、全く別の問題だということですね。

李 そうですね。逆に国が莫大なお金を支援しても、興行的には大失敗した映画もたくさんあります。だから、ここは直接的な因果関係で語ることはできないと思うんです。

――では、韓国映画がここまで世界的な評価を得るようになったのは、何がきっかけなのでしょうか?

李 BTS(防弾少年団)などのK-POPでも同じことが言えるのですが、「グローバルなトレンドを読める人」が、業界の主流になってきたことが大きいと思います。映画で言えば、いま世界的に注目が集まっているのはどんなタイプの作品なのかを見極める。そしてそのジャンルの中で、自分が伝えたいメッセージを、独立系の映画ではなく、あくまでメインストリームに留まりながら、エンターテインメントとして発信しようとする。そんな監督がたくさん出てきました。

 彼らが作る映画は、単純に「あー、面白かった」というものではありません。今回の『パラサイト』では、「あの“半地下”は何を象徴していたんだろう?」といったように、観た後に思わず誰かと語りたくなりますよね。

『パラサイト』が描いた貧困は“韓国特有の問題”ではない

――「観たら終わり」の映画ではなく、むしろ「観てから始まるものがある」と。

李 彼らはそのようなコミュニケーションが生まれるように、意図的に映画を作っているんです。今回、ポン・ジュノは“貧困”を描いていますよね。でもこの問題は韓国特有のものではなく、グローバルな問題です。アメリカでも、ヨーロッパでも、日本でも、身近な問題として受け止められる。

 それと同時に、映画が発するメッセージは一方的なものではなく、多様な解釈ができるようになっている。だから、観た後にディベートが生まれるんです。他の映画と比べたときに、一番の違いはそこにあるのではないかと思います。

――なぜ韓国には、そうした“グローバルなトレンド”を読める人材がたくさんいるのでしょうか?

70年代まで“文化の輸入”が制限されていた韓国

李 2つの要素があると思います。ひとつは韓国という国が歴史上、「複雑な国際関係の中での自国の立ち位置」を意識しつづけて、生きてきた国であるということ。もうひとつは、韓国には世界への興味を無理やり遮断された時期があったということです。

 70年代末まで続いた軍事独裁政権下では、一般的な韓国人が簡単に国外旅行をすることはできず、国外の文化を輸入したりすることも制限されていました。でも、80年代に民主化が進むと、その反動で一気に世界への関心が花開いた。だから、「自分たちはグローバルな世界に住んでいる」という感覚は、韓国では映画監督に限らず、皆が普通に持っているものなんです。

――そして80年代以降、韓国の映画文化も急速に成熟してきたと。

李 そうですね。その間、「ブラックリスト」に象徴されるように、国が文化を締め付けようとした時期もありました。でも、制作者側はそんなことには左右されなかった。一方、国からの“支援“で言いますと、さきほど申し上げたとおり、制作費の補助といったような“直接的なサポート”には、そこまで効果はなかったと思います。ただ、広く映画文化を支えようとする“間接的なサポート”には、かなり効果があったのではないでしょうか。

――それは具体的にどういったものでしょうか?

映画文化を盛り上げる“土壌”を作る

李 たとえば韓国の文化庁に当たる文化体育観光部には、韓国映像資料院という機関があります。ここがYouTubeのチャンネルを持っているんですが、ぜひ見てみてください(https://www.youtube.com/user/KoreanFilm/featured)。映像資料院が著作権所有者に連絡をとり、権利関係をクリアして、過去の韓国映画を全編無料で観られるようにしているんです。

――これはすごいですね!

李 大学の授業で映画を扱いたいときは、事前にYouTubeのリンクを学生に送っておけば簡単に観られます。チャンネルが開設したのは2011年ですが、これができてから韓国映画を学ぶ学生は増えています。映画好きの若者にとっても、最高のページですよね。

――映画業界を盛り上げる“土壌”が、こうした取り組みで作られているのですね。

李 やはり、国は制作者とは少し距離を置きながら、彼らにとって良い環境を作ることにこそ、お金をかけるべきじゃないかと思います。一見遠回りに思えるかもしれませんが、こうした支援が韓国映画のレベルを底上げしているのは間違いないと思います。

(「文春オンライン」編集部)

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