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東電家庭向け電気料金値上げの問題点

 政府は20日、東京電力が申請していた家庭向け電気料金の値上げを、申請されていた平均10.28%から8.47%に圧縮した上で承認する方針を決定した。

 また、東電が4月以降順次実施している企業向け電気料金の値上げ幅も、当初予定の平均16.7%から約14.9%に圧縮されることが決まったという。

 報道などでは東電の経営合理化努力が不十分である点や、値上げの根拠となっている不足金額の積算根拠が不透明であることなどが問題点としてあげられている。

 地域独占を認められている電力会社が値上げを求める以上、こうした指摘はあって当然だ。しかし、それはあくまで平時の値上げの場合の話であり、今回の東電の値上げにはそれとは異次元の、現在の原発事故の賠償のあり方に関わる根本的な問題がある。メディアがそれを指摘しないのは、現在の東電処理のスキームを根本からちゃぶ台返しをするような指摘をすることによって影響を受ける財務、経産の両省庁や、融資の焦げ付きを恐れる大手金融機関などへの配慮があるように思えてならない。

 今回の値上げの根本的な問題とは概ねこういう点にある。

 今回の値上げは明らかに場当たり的なものだ。まず、今回の値上げでいつまで会社を回していけるのかが、はっきりしない。例えば、今回の値上げの積算根拠では柏崎刈羽原発の7つの原子炉が2年以内に再稼働されることが前提となっている。異なる原発とはいえ、福島第一原発事故を起こした東京電力が再び原発を運営することに世論の反発がないはずがない。また、ここにきて日本中の原発が活断層問題を抱えていることが明らかになっており、相次いで再調査が進められることが決まっている。来年から柏崎刈羽が再稼働できることを前提とした事業計画にどれほどの現実味があるのか。言うまでもないが、柏崎刈羽が東電の期待通りのスケジュールで再稼働できなければ、今回の値上げでは追いつかず、再値上げが必要になる。

 また、そもそも論になるが、今回の値上げには今後兆円、あるいは数十兆円単位でのしかかってくる事故の賠償金や除染費用は含まれていない。算入されている廃炉費用も明らかに大幅に過小評価されている。何れの費用も最終的に一体どのくらいの規模になるのか想像さえつかないレベルなので、それが算入されていないこと自体はやむを得ないとも言えるが、それらを繰り入れて計算した場合、必要となる値上げは今回のとは比べものにならないレベルになるはずだ。軽々に言うべきことではないが、常識で考えても、恐らく今回の値上げとはゼロが一つ二つ違うレベルになるのではないか。

 賠償金については、第一義的には政府が設置した原子力損害賠償支援機構を通じて支払われることが決まっているが、債務者である東電という会社が存続する限り、東電はこれを返済しなければならない。そのために東電は相当の利益をあげなければならず、当然それは電気料金によって支えられることになる。要するに支援機構というのは被害者への賠償の支払いが遅れることを防ぐために設置された融資のスキームに過ぎず、電気料金を通じて東電が賠償金を支払わなければならないことになんら変わりはないのだ。

 更に、今回の値上げには家庭向けと大口向けの間のバランスという意味でも問題がある。今回は家庭向けが8.47%の値上げ、大口が最終的に約14.9%の値上げとなっているため、一見企業向けの値上げ幅の方が大きく見えるような形で発表されている。しかし、東電の場合、元々の家庭向け電気料金と大口向け電気料金の間には1.6倍ほどの価格差があるため、割合では大口の値上げ幅の方が大きく見えても、金額ベースでの値上げ幅はほぼ同じ水準になる。東電も経産省もメディアも、値上げ幅をパーセントでばかり表示していて、実際の金額で表示しようとしないのはなぜだろうか。

 この問題は今後の電気市場の競争環境の整備という別の意味で重要だ。元々1.6倍もの価格差がある時に値上げ幅がほぼ同額では、当初の価格差はほとんど変化しない。しかし、ご存じのように、電力市場は大口向けは曲がりなりにも自由化されており、PPSなどが算入しているのに対し、家庭向けは完全に地域独占のままだ。結果として東電は全体の売り上げの4割に過ぎない家庭向け市場で利益の9割強をあげ、売り上げの6割を占める大口市場では1割しか利益をあげていない。

 要するにこういうことだ。家庭用では地域独占が認められているため、消費者は電力会社を選ぶことができない。だから、値段を高くしても、逃げられる心配がない。一方、大口向けは、数々の厳しい制約があるとはいえ、競争相手であるPPSが算入しているため、価格を高く設定すると電力会社といえどもPPSに顧客を奪われる恐れがある。だから、大口は安く家庭用は高い。

 これは二重の意味で問題だ。そもそも選択肢の無い家庭に対して割高な電力を売りつけていること、そしてそれを経産省が認めている(家庭向けの電気料金は経産大臣の認可が必要)ことはもっての他だが、その一方でそのような優越的な地位を使って安い金額で大口向けに電気を売る行為は、PPSに対して公正な競争を阻害する恐れがある。

 今回の値上げでは、事実上値上げ幅がほぼ同額であるために、そのいびつで不公正な価格構造が維持されてしまうことになる。政府としては企業活動を優先するという考えでそのような料金体系を認めているということなのだろうが、であるならばそれを消費者に正直に説明した上で、消費者の納得を得た上で値上げを認めるべきだ。重要な情報を知らせないまま、いやあえて値上げ幅をパーセント表示にすることで、あたかも家庭よりも企業により重い負担を強いているかのような情報操作を行った上での値上げは、騙し以外の何物でもない。

 結論としては、今回の原発事故は電力会社が従来の値上げだけで乗り切るには余りにも大きなものだった。ジャーナリストの町田徹氏らが繰り返し指摘しているように、今からでも遅くないので東電を法的整理する以外はこの問題を解決する手段はないように思う。

 先の見通せない弥縫策としての東電の値上げと、なぜかその事実をきちんと報じないメディアについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

 その他、「児童ポルノサイトにリンクで有罪判決」の続報、「国会記者会館の屋上は誰のものーアワプラが撮影許可を求めて仮処分申請」などを取り上げる。

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