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「認知症になると死は怖くなくなるか?」91歳専門医が出した結論

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自身が認知症になった専門医の長谷川和夫さんは、認知症をどう考えているのか。長谷川さんは「ボクは心臓に病気があって、発作に備え、いつも薬を持ち歩いています。だから死について考えることも多い。そんなボクにとって、認知症は、死への恐怖を和らげてくれる存在のような気がする」という――。

※本稿は、長谷川和夫・猪熊律子『ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Neil Bussey

認知症になると、死は怖くなくなるのか

ある講演会に招かれたとき、「認知症になると何もわからなくなるから、死は怖くなくなるのですか。認知症でないときよりも、むしろ楽なのでしょうか」と尋ねられました。ボクが自分のことを認知症だと思いはじめていたころのことでした。

ボクはこんなふうに答えました。

「正直、わかりません。でも、重い認知症になっても、自分がされたら嫌なことや、自分の存在が消滅してしまうのは恐ろしいという気持ちは残るのではないかと思います」

耳から聞くことは死ぬ間際までわかっているらしい、とよくいわれます。だから、死が間近な人のそばで下手なことはいわないほうがよい、と。母親が死ぬ間際に娘が駆けつけて、大丈夫? A子よ、わかるなら手をぎゅっと握ってみて、といったら、母親が手を握ったというエピソードを聞いたことがあります。

目で見えることはわからなくなっても声を聞くことはできるし、いっていることもわかる。認知症の人も、恐らくそうなのではないかと思います。

認知症について正しい知識をもってほしい

生きることは老いること。老いることは生きることで、死を迎えることでもあります。その準備をしようと、もう20年ほど前に遡りますが、家内と一緒に日本尊厳死協会に入りました。

ただ生かされているだけの状態になったら延命治療はしないでほしい。それを表明したカードもつくりました。いまでもその考えに変化はありません。子供たちにもそう伝えてあります。

長生きすると認知症になりやすくなるから、ボクがなったのもそう不自然なことではないと思います。ただ、生きているうちは少しでも社会や人の役に立ちたい。身体も不自由になってきたけれど、周囲の助けを借りながらその思いを果たしていきたい。

やはりいちばんの望みは、認知症についての正しい知識をみなさんにもっていただくことです。何もわからないと決めつけて置き去りにしないで。本人抜きに物事を決めないで。時間がかかることを理解して、暮らしの支えになってほしい。そうしたことをお伝えするのが、自分が生きていく道であり、死んでいく道にもなると思っています。

幸い、ボクには家族やぬくもりのある社会との絆があります。それに感謝しながら。体験というものには、温度差があると思います。たとえば、あなたが今日ここに来てくれたとしたら、それはボクにとっては「温かい」という感じです。

嬉しくて、一緒に話すのが楽しい。そして別れの時間が近づいて、「さようなら」といわれたら、がっくりです。温度が下がっていくのを感じます。人と会ったら温度が上がるし、人と別れて寂しく感じたら下がる。だからこそ、温かい体験や、温かい絆をできるだけたくさんもっていられたらと思います。

でも、死ぬのはやはり怖い

芥川龍之介の有名な小説に『蜘蛛の糸』があります。

主人公が蜘蛛を見つけ、その命を踏みつぶそうとしたのをやめたのを見た釈迦が、地獄に落ちた彼に慈悲をかけ、長い糸を垂らした。彼は、「これは幸い」と糸につかまって地獄から地上に上りはじめたけれど、ふと後ろを見たら、たくさんの罪人が彼に続いて糸をよじ上ってくる。「だめだお前たち、そんなことしたら糸が切れちゃうじゃないか。降りろ」と彼がいった途端、自分のところからぷつんと糸が切れ、彼は元どおり、地獄に戻ってしまったという話です。

「蜘蛛の糸」は1918(大正7)年に、児童向け文芸雑誌『赤い鳥』に発表された芥川龍之介の作品。地獄に落ちたカンダタという名の泥棒の男が、かつて蜘蛛を助けたことがあったことから、釈迦がこの男に救いの手を差し伸べるという内容。

死については、昔からよく考えます。死んで戻ってきた人がいないところを見ると、よさそうな場所に思えるけれど、地獄に落ちてしまうこともあるから、こればっかりは死んでみないとわからない。天国に行くか、地獄に行くか。いずれにしても、死ぬのはやはり怖い。

ボクは心臓に病気があって、発作に備え、いつも薬を持ち歩いています。だから死について考えることも多い。そんなボクにとって、認知症は、死への恐怖を和らげてくれる存在のような気がするのです。心臓や、死のことばかりを考えなくて済むようになったという意味で。

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