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高等教育修了者を活かせない社会

高等教育修了者を95%に…民主次期公約へ(読売新聞)

 民主党の「大学改革ワーキングチーム」(座長=鈴木寛・元文部科学副大臣)は12日、高校生の学力を等級で示す「高校教育検定」の創設や、大学や短大などの修了者を同学年人口の95%に増やす高等教育の量的拡大を柱とした大学改革の報告書をまとめた。

 新たに4兆円を投入する内容で、今月中にも党内の機関決定を行い、次期総選挙のマニフェストに盛り込む方針だ。
 
 「高校教育検定」は、高校生の学力を教科ごとに「1~5級」で示し、級取得者に大学受験を認める仕組み。取得者には、各大学が論文や英検などで思考力や語学力を問うことで、2段階の選抜方法に転換する考えだ。
 
 また、全国約800の大学を「学修大学」と「研究大学」に分けて機能を強化し国際競争力を高める。さらに、同学年の約70%にとどまる高等教育修了者を増やすことで、若年失業者を現在の約10%から3%へ減らす目標を掲げた。

 さて、改革と名の付くものでマトモなものには滅多にお目にかかれない我が国ですが、この「大学改革ワーキングチーム」のプランはいかがなものでしょうか。確かに、現時点でも日本の大学卒業者は5割程度と少なめです。これを短大込でも95%に増やそうというのは、国民の教育水準を引き上げるという意味では肯定的に評価できるものです。ただ、そのための方策としてはどうなのでしょう、日本の場合バブル崩壊後の90年代以降にこそ大学進学率が大きく上昇しているという実情もあります。高卒でも就職先に困らなかった時代が終わり、より良い就業機会を求めて、あるいは大学在学中に景気が好転することを期待しての時間稼ぎとして進学が選ばれている側面も決して否定できないはずです。なぜ進学が選ばれるのか、その辺の「ニーズ」をくみ取る努力も求められるように思います。

 「高校教育検定」「学修大学」「研究大学」などと新語が並べられていますけれど、読売の報道だけでは具体的にどういうものなのかよく分かりません。ちょっと検索した限りでは民主党なり「大学改革ワーキングチーム」なりがweb上などで報告書を公開していたりもしないようです(所属議員の公式サイトを見ても「参加しました!」みたいな中身のないものばっかりで…)。単に私の探し方が足りないだけかも知れませんが、ともあれ現時点では具体的なものが見えてきません。だからこそ新聞にはより詳細な報道が求められるように思うのですけれど、その辺もまた、あまり意識されていないようです。

 とりあえず理念として高等教育修了者を増やす、それはいいとしましょう。一方で「高等教育修了者を増やすことで、若年失業者を現在の約10%から3%へ減らす」ことが目標に掲げられているそうです。まぁ失業が減るのは悪いことではないのかも知れません。ただ、それを高等教育修了者を増やすことで実現できると考えているとしたら、見込み違いではないかと言わざるを得ないところです。確かに高卒と大卒であれば、基本的には大卒の方が就職には有利でしょう。しかるに大卒者が希少な時代には大卒と言うだけで下駄を履かせてもらえる一方、大卒が多数派ともなると今度は大卒が最低条件になったりするものです。かつては他人に差を付けられるようなスキルや資格であったとしても、いずれそれは陳腐化してしまいますから。

 当たり前のことですが、企業は必要以上に人を採りません。大卒者2名を募集していて、そこに大卒2人と高卒1人が応募してきたとしましょう。そこで採用されるのは大卒2人で高卒の1人はあぶれてしまうわけです。では、高等教育修了者を増やす、従来は高卒だった人が大学あるいは短大まで進学するようになった場合を想定してください。今度は大卒者2名の募集に対して、大卒3名が応募してくることになります。採用されるのは――やっぱり大卒2名で、1人はあぶれると考えるのが筋です。大卒が増えたからといって採用を増やす、そんな雇用主を想定するのも無理のある話です。果たして高等教育修了者を増やすことで失業は減るのでしょうか?

 例えばユニクロのように、大学1年や2年の段階で採用を決定し、大学卒業後に入社なんて仕組みを作ってしまう会社すらあるわけです。その段階では大学で何を学んだかなど問えないですし、高卒を雇っても同じではないかと思うところですが、でもそれこそ日本的な採用を象徴するものなのかも知れません。大学で何を学んだかは関係ない、ただ大卒であることを条件とする、それが日本的採用なのではないでしょうか。このような環境下で大学進学率を引き上げる、それは機会均等という面では悪くないことと言えないでもありません。でも大学の機能強化だの国際競争力云々とは、あまり結びつかないような気がします。

 ともあれ大卒者を増やしただけでは、今まで大卒と高卒で争っていた椅子を大卒同士で争うことになるだけです。失業率を下げるには、椅子の数を増やさなければなりません。でもそれは、高等教育を受ける人を増やしただけではどうにもならないでしょう。売り手が競争力を身につけても売り手同士での競争が激化するだけ、買い手側が変わらないことには打開できないもののはずです。まぁ、その辺は民主党にとってもアンタッチャブルな聖域なのでしょうか。大学で学ぶ人が増えても雇用側が求めるのは馬鹿の一つ覚えのようにコミュニケーション能力ばかり、高度な専門性を有した人を増やすよりも一握りのエリートと低賃金労働者の組み合わせを好む、高学歴の労働力より低賃金の労働力を求めるような社会なら、大学進学率の上昇など豚に真珠と言わざるを得ません。まぁ、進学してしまえば失業者としてはカウントされないですから、進学する人が増えた分だけ見せかけ上の失業率が下がると言うことはあるかも知れませんが……

 

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