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「勝てるゲームが目の前にある」10年で売上げ4倍超のホストクラブ経営者が語る歌舞伎町経済の最前線

  • 2020年02月13日 11:19
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新宿・歌舞伎町のホスト業界に大きな波がきている。クラブ経営などを手掛ける「Smappa!Group」は10年間で、4倍超の成長を遂げた。その売上げの8割以上がホスト事業によるものだ。

同グループの手塚マキ会長は「いま、勝てるゲームが目の前にある。経営に集中したい」と力を込める。

当初、同グループの人気店「APiTS」の移転を取材するつもりだった編集部は、空前の“ホストブーム”を知り手塚氏や現役ホスト、そして周辺の関係者に取材を拡大。ホスト経済の最先端を追った。

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ホスト新時代 広告で力を入れるのはYouTube

BLOGOS編集部

19年12月27日正午過ぎ、歌舞伎町ゆきざきビル内の工事現場に“イケメン”5人が姿を現した。手にした色とりどりのペンキや塗料を、むき出しのコンクリートの壁に向かって自由に塗りたくる。その様子を取り囲む動画スタッフらが撮影していく。

さながらミュージックビデオの撮影現場のようだが、笑顔を見せながら無邪気にはしゃぐ彼らは、歌舞伎町のなかでもトップクラスのホストたちだ。なかには月1,300万円を売り上げるエースもいる。

彼らが所属するホストクラブ「APiTS」は事業拡大を目指し、今年5月に歌舞伎ソシアルビルから移転する。新店舗の広さは現在の50坪から80坪に拡大され、ホストの数は20人から50人に増やす予定だ。撮影された動画は年明け、新店舗移転の告知ムービーとしてYouTubeなどで公開された。

「既存のホスト経営へのカウンター」を目指した

新時代のホストクラブ経営に手腕を振るう手塚マキ会長 ©利根川幸秀

Smappa!Groupは03年、歌舞伎町でホストとして活躍していた手塚氏が独立し、26歳で立ち上げた。現在はメインのホスト事業のほか、介護事業やバー、寿司屋などの飲食店、ネイルサロン、書店などを手がける。

現役ホスト時代、多くのホストクラブがまだマーケットの小さいホスト業界で顧客を奪い合っている状態を目の当たりにしてきた手塚氏は、既存の客層とは異なる「歌舞伎町外の人間」を呼び込める可能性に注目。「既存のホストクラブ経営へのカウンターになろう」と独立を決意した。

一流シェフを呼び、店の食事や酒の質をあげたり、接客サービスの向上、ソムリエ資格取得に力を入れたりと、「お客さまファースト」のホストクラブを目指した。しかし、地域内に独自の需要が育まれてきた歌舞伎町のホスト業界では「お客さまのことを第一に考えた」サービスはことごとくうまくいかなかったという。

APiTSの移転に関して、手塚氏は「ホストたちの『店を大きくしたい』という要望を取り入れた」と語る。そこには「お客さまファースト」から「ホストファースト」を取り入れたホスト経営者ならではの背景があった。

マーケットが急拡大したホスト業界 「勝てるゲームが目の前にある」

©利根川幸秀

「お客さまファースト」のホストクラブ経営を行っていた手塚氏は、業界の盛り上がりとともに、約3年前から歌舞伎町の主流である「ホストファースト」の経営を取り入れた。客にとって居心地の良い空間やサービスを提供することよりも、まず接客する側のホストたちにとって居心地の良い空間を演出することに主眼を置いたのだ。

手塚氏は客側のニーズも「ホストファースト」の空間にあるのではないかと考えるようになったという。キャバクラとホストクラブの違いを例にあげる。飲み会の二次会として男性客が複数人で来店することも多いキャバクラとは違い、ホストクラブの客層は女性のひとり客がほとんど。女性客は指名ホストとの時間を求めて何度も店に足を運ぶ。

「お客さまが食事やサービスで店のファンになって、それを理由にお店に通ってもらうことはほぼなかった。それよりもホストにとって居心地のいい『家』のような店舗づくりをして、そこに『俺の部屋に来いよ』という感覚でお客さまを招待する形を整える。それが最近のニーズなのだとわかってきた」

手塚氏は「もちろん、これからも歌舞伎町で面白い試みはやっていきたいし、お客さまファーストの文化はうちの店舗に染み付いている。だからこそ、乗れば勝てるゲームが目の前にある以上、保守的な時流に合わせたホストクラブ経営に集中する」と力を込めた。

方向性を変更した背景にはマーケットの拡大もある。手塚氏は「ここ2〜3年で、ホスト市場はもはや無視できない規模になった」と語る。需要が高まり、歌舞伎町のどのグループも新しいホストの採用に力を入れる「売り手市場」となった。手塚氏は「経営側はホストたちの機嫌をいかにとるか、彼らがいかに働きやすいかを考えざるを得ない」と明かす。

ホスト業界全体に吹く追い風と経営方針の転換によって、Smappa!Groupは19年、過去最高の売上げを記録した。

SNSの普及で変化する女性とホストの関係 ブーム到来の背景はマッチングサイト?

Getty Images

では、なぜ現在、ホスト業界は盛り上がりを見せているのか。

手塚氏は理由のひとつに「SNSの普及」をあげる。いまやインスタグラムなどを通じて、事前にホストの顔や個性、生活の一部を垣間見ることができる。来店前にホストと直接メッセージをやりとりすることも可能だ。情報にアクセスしやすくなったことで、来店のハードルが低くなり女性客の数は急増。09年には9,548人だったグループ全体の年間来客数は、10年で2万2,352人(19年)と2倍以上に増えた。

SNSの影響は「ホストと女の子の繋がりやすさ」を生んだだけではない。手塚氏は「推測だが」と前置きした上で「マッチングサイトで女性とお金持ちの中高年男性の出会いが増えたことにより、中高年の男性からお金をもらった女の子がホストクラブに通うという流れが多くなっているような印象を受ける」と話した。

「かっこよく稼げる」ホストに憧れる若い男性たち 平均年収は640万円

一方、ホストを目指す若い男性も増えている。“現代ホスト界の帝王”として芸能活動を行うローランドなど、ホストのメディア露出が増え、「憧れのホスト像」が若者の間に生まれた。

手塚氏がホストをしていた時代には、身分を隠すために源氏名を使って働くことが主流だったが、いまや本名で勤務する若いホストも多い。「ホスト」は周囲に隠す存在ではなくなった。むしろ「かっこよく稼げる」職業になりつつある。19年、グループに在籍していたホスト約120人の平均年収は638万円だった。

だが、経営者としての手塚氏の目には現代ホストの課題も眼に映る。「お客さまの数が急増したことにより接客や気配りがおろそかになっている。昔よりもサービスの質は確実に落ちています」

そういった事態の改善のためお客さまファーストの意識を忘れないよう、Smappa!Groupでは、ホストのためのワイン講習会を設けるなど接客マナー向上に力を入れるほか、教養を身につけるための短歌会など、さまざまな試みを行っている。

月の売上げ1300万円 グループナンバー1ホストに密着

2019年グループNo.1ホストの風早涼太さん

私生活はもちろん、これまで仕事でもホスト業界と関わることのなかった筆者にとって、取材前のホストクラブに対するイメージは「とにかく派手」。頭に浮かぶのは「イケメンでチャラいお兄さんが、女性を楽しませるためにコールをしながらシャンパンを一気飲みする」というテレビ番組でよく使われるような光景だった。

だが、インタビューを通して手塚氏が見せたのは、客・部下(ホスト)・会社のことに思慮を巡らせる冷静な経営者の顔。象徴的だったのは1月中旬に歌舞伎町内で行われたグループの新年会だ。およそ200名の従業員やホストたちが並ぶなか、乾杯前に手塚氏はパワーポイントを使い、データを示しながら昨年の反省や今年の目標などを語った。まさに「企業の新年会」の風景が目の前に広がっていた。

経営者としての手塚氏を知るにつけ、「プレイヤーとして活躍するホストの横顔も知りたい」という思いが筆者の胸に沸き起こった。

そこで昨年、月の売上げ最高1300万円超えを記録し、グループナンバー1ホストとなった風早涼太さん(APiTS)に密着。動画撮影を行った。(動画は後日公開)

撮影中、シャンパンコールやマイクパフォーマンスなどイメージ通りの明るいホストとしての姿を見せながらも、「(ほかのホストに)勝つためにやっているわけではなく、負けている自分を見たくないから努力を続けている」とストイックな一面を見せた。

「サボろうと思えばいくらでもサボることのできる仕事です」と口にしながらも、自分を指名してくれる客との連絡をこまめに行う涼太さんに実質の休みはほとんどない。

夜遅くまで酒を飲み続けるホスト。肉体的な負担が大きいかと思いきや、「精神的にキツいと口にする後輩も多い」と吐露する。美しい外見と軽快なトークで女性客からの羨望を毎晩集めるホストたちは、しかし、客との関係が永遠に続かない限り、最後には別れを切り出されることになる。長い間、自分を指名してくれていた女性が「もうこれ以上は無理」と突然、来なくなる。失恋にも似た大きな失望感に耐えきれないホストも多いという。「寂しいですね。だからこそ切り替えるメンタルが必要な仕事なんです」と涼太さんは口にした。

「ホスト業界自体がすごく綺麗になった」

取材を通じて周囲に涼太さんの魅力や人柄を尋ねるなかで、関係者から見た現代のホスト像が浮かび上がってきた。

自身もホスト経験を持ち、現在はAPiTSの経営を担う店長の蓮さんは「昔のホスト業界は理不尽で暴力的な世界でした」と振り返る。ホスト=厳しい世界と知りながらも、稼ぐためにと業界に飛び込む「不良」が成り手の大半だった。しかし、時代は変わり「いまは優雅にお金が稼げて、楽しそうという考えでホストになる子が多い」と話す。敷居は低くなったが、新人の多くが挫折し辞めていく。その際、周囲の環境のせいにする人間も多い。

そんな風潮のなかで涼太さんがホストになって約3年半でグループナンバー1になれた理由を蓮店長は「自分を信じる気持ちが飛び抜けて強かった」と指摘する。

「ホストクラブに通う女性は空間や時間、お酒ではなくてホスト個人にお金を払っている。自分を信じていないホストにはお金を払いたくないでしょう。彼は自分に自信を持っているからこそ、その姿に女の子は価値を見出します」

涼太さん(右)がNo.1になれた理由に「自分を信じる姿勢」をあげる店長の蓮さん

夢がある世界という印象が強くなっていった反面、甘い考えを抱くホストも増えた。「結局、環境が変わっても売れるホストの条件はいまも昔も変わりません。涼太は失敗を他人のせいにせず、自分を信じる姿勢を継続できるからこそ、グループ年間1位の座を取れたのではないでしょうか」

歌舞伎町でアパレル店を経営し、APiTS移転時の内装デザインにも携わっている藤田圭佑さんは「涼太くんは売れていない新人のときから、1番になろうという姿勢を貫いていた」と振り返る。当時、大学生だった涼太さんは大手ファッション誌の専属読者モデルの最終選考まで残っていたという。藤田さんは「ホストとモデルという方向性が全く違う仕事を、対極的にとらえずに天秤にかけていた。その価値観がすごく現代的ですよね」と話す。

「彼は人に理解してもらうための努力を惜しまない。自身の演出に対してプロフェッショナルな姿勢を新人のころから変わらずに持ち続けています」

13年間、業界誌のカメラマンとしてホストたちの姿をレンズ越しに捉えてきた伊藤達也さんは「(涼太さんのような)いわゆるホストっぽくない子が入ってくるなど業界は随分変わりました」と指摘する。

「以前は人前でホストに行ってることを隠す女性が大半でしたが、いまはSNSや友人との会話のなかで気にせずホストクラブの話をするライトな層が増えてきました。業界自体がすごく綺麗になったような印象を持っています」

愛や夢をお金に換えるホストたち。時代に合わせて経営者やプレイヤー、そして女性たちを取り巻く環境は変化している。そのなかで訪れた業界の隆盛のなかで成功をつかもうと突き進む人間たちの姿が、歌舞伎町にはあった。

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