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アカデミー賞は『パラサイト』一人勝ち 外国語映画初の作品賞受賞でハリウッドにも変化? - 田近昌也

今年も映画のアワードシーズンの締めくくりとなるアカデミー賞授賞式が終わった。とにかく、今回のアカデミー賞は歴史的だった。

事前の感触では、今年のアカデミー賞作品賞候補10本の中で、カンヌでパルムドールを取った『パラサイト 半地下の家族』、ゴールデングローブで映画部門作品賞と監督賞を受賞した『1917 命をかけた伝令』、トロント国際映画祭で最高賞にあたる観客賞を獲得した『ジョジョ・ラビット』、そして今回最多の11部門ノミネートされている『ジョーカー』の4作品が拮抗していたが、蓋を開けてみると『パラサイト』がノミネートされた6部門中、国際長編映画賞、作品賞、監督賞、脚本賞を獲得し、ほぼ一人勝ちの印象だった。

BLOGOS編集部

その日暮らしの貧しい一家が、徐々に富裕層の家庭に身分を偽って「寄生」していく姿を描いた本作は、格差と貧困という社会問題に切り込みながらも、笑いと緊張感が全編を支配しており、確かに衝撃の連続であった。

アカデミー賞のトレンドは「居場所のない弱者」へ

アカデミー賞授賞式ではその年々の業界のトレンドや出来事が色濃く反映され、そこで発信されるメッセージは毎年変わっていく。

ここ数年の映画で多く取り上げられてきたLGBTQや人種差別など、マイノリティーのリアルを描くような作品は、『ムーンライト』や『ゲットアウト』『ブラック・クランズマン』などのタイトルを経て、今年は落ち着いたように見えた。

代わって、貧困や社会の隅で人知れず虐げられている人たちなど、これまでいわゆる「マイノリティ」という枠で語られてこなかった社会的弱者たちを描いた作品が注目された。まだ問題は完全になくなったとは言えないながら、人種・性的マイノリティの人々は様々な形で声を上げて、自分たちの居場所を勝ち取ってきた。

『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督(Getty Images)

しかし、ここで描かれている弱者には、社会の居場所は与えられていない。例えば『パラサイト』の登場人物たちは、富裕層の家に寄生することで、自分の居場所を探しつつ、やはり社会の陰で生きるしかない、本当の自分に対するやり場のない怒りと社会の理不尽さを感じた。

『パラサイト』の強力なライバルであった『ジョジョ・ラビット』も、やはり虐げられた弱者を描いている。タイカ・ワイティティ監督は、歴史への明確なメッセージを発しながら、普段はとてもジョークにはできないような内容を、映画というメディアを通じて、皮肉を伴った笑いで全編をまとめた。

若い主人公ジョジョは、空想上のヒトラーの助けを借りて立派な兵士を目指しながらも、家に匿われたユダヤ人の少女と向き合い、本当の自分の姿を見つめ直すことになった。現在の世の中は、誰もがある意味で厳しく監視されており、SNS上での投稿や公の場での発言内容によって、人生を棒に振ってしまう可能性がある。

そんな若干抑圧された社会に生きる人々に、突如もたらされたこれらのダークコメディに、思わずハッとした観客も多かったのではないだろうか。また、同様に社会的弱者の怒りを、バットマンシリーズのヴィランのオリジンストーリーという形で提示し、インパクトを残したのは『ジョーカー』であった。これは誰もが期待していた通り、その演技に対して、ホアキン・フェニックスは主演男優賞を獲得した。

外国語映画初の作品賞でハリウッドにも変化?

ところで『パラサイト』は昨年の『ROMA/ローマ』に続き、英語以外の作品で、2年連続作品賞へのノミネートとなった。

Getty Images

アカデミー賞はもともとアメリカ映画業界の賞であるだけに、英語以外の作品ではこれまで『ライフ・イズ・ビューティフル』など10作品しかノミネートされたことがなく、受賞作は一本もなかった中で、『パラサイト』の歴史的な受賞へ向けて、アメリカ国外からも、大きな期待が寄せられていた。

これも多様性の波の一つと言えるだろうが、ここで越えられた壁は非常に大きいと言える。今回の成功を受け、ハリウッドは外国映画の配給に対してより積極的になり、ノミネートされる10作品のうち、最低でも1作品は英語以外の作品が入ってくることが普通になるかもしれない。

テーマの多様性は進むが制作側に残る不平等

一方で、作品の多様性は進んでも、ジェンダーの不平等の問題は依然として存在している。映画芸術科学アカデミーは2016年以降、候補作品の投票を行う会員の多様性を確保するべく、組織の改革につとめてきたが、今年も男女別になっている俳優部門以外のカテゴリーでは、ノミネートされた女性の割合が30%に止まっている*。

例えば、『ストーリー・オブ・マイライフ』で絶賛を浴びたグレタ・ガーウィグは監督賞にはノミネートされていないし、公開時にはオークワフィナの演技とともに絶賛され、作品賞候補の一つと思われていた『フェアウェル』は、ノミネートすらされなかった。これは特に「悪意を伴う差別ではなく、無意識的なバイアスである」と、『ストーリー・オブ・マイライフ』のプロデューサー、エイミー・パスカルは述べている**。

これらの女性監督たちが重要と感じるストーリーは、いまだに多数派となっている白人男性にとって、それほど重要に感じられないから、そもそも自発的に作品を観て評価を行うまでに至らないのだ、と。

ここ数年では、毎年のように「Me Too」「Time’s UP」など、多くのタレントたちが声を上げてきた。自分個人のことだけでなく、自分たちのいるコミュニティに対して責任をもって声を上げ、変えていこうとするのがハリウッドの映画業界の眩しいところである。

監督賞受賞が決まってステージに上がったポン・ジュノは、受賞スピーチの中で「最もパーソナルなことこそ、最もクリエイティブなこと」というマーティン・スコセッシの言葉を引用しつつ、タランティーノやドット・フィリップスなど、共に作品賞にもノミネートされた監督たちへの敬意も示した。アカデミー賞という場が決して競争などではなく、それぞれの映画というアートに対する愛が感じられた瞬間であった。『パラサイト』の歴史的快挙によって新たな時代に入ったアカデミー賞、来年はどのような授賞式が見られるのか、今からすでに楽しみである。

田近昌也(たぢか・まさや)
映画プロデューサー。北海道出身。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で映画プロデュースを学び、その後メジャースタジオの長編映画企画開発部門などで経験を積む。

参照:
* https://deadline.com/2020/02/oscar-female-nominees-study-womens-media-center-1202853419/
** https://www.vanityfair.com/hollywood/2019/12/little-women-awards-season-men

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