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話題のレストランを続々展開! WDI清水謙「店作りってトライ&エラー。だからあまり儲からない」


世界中から魅力あるレストランを見つけ、その世界観を変えることなく、日本、そして海外に展開している企業がある。食の文化で世界をつなごうとする、その伝道師的な心意気を持つ集団、WDI代表取締役の清水 謙とは――。

将来的に“可能性のあるブランド”を見極める三本の矢

2020年、オリンピックイヤーがスタートした。オリンピック景気という言葉に浮かれる一方で、昨年は消費税増税や軽減税率制度の開始など、飲食業界はさまざまな対応に翻弄された年であった。そのなかで、海外店舗の売り上げ比率32%という数字を追い風に、今後の展開に注目を集める会社がある。

1970年代に『ケンタッキーフライドチキン』のフランチャイジーとして飲食業界に参入して以来、『ハードロックカフェ』や『ウルフギャング・ステーキハウス』など、世界各地から “個性ある” “美味しい” 店を次々と発掘し展開する、WDIである。

「ダイニングカルチャーで世界をつなぐ」という理念のもと、代表取締役の清水謙氏は銀行員から転身し、34歳で創業者である父親から会社を継いだ。

清水氏は惚れた飲食ブランドに出合うと、自ら乗りこみ直談判。口説いて、口説いて、口説き落とす、熱く、粘り腰のある男である。その清水氏が率いるとあって、WDIグループのブランド展開は、ユニークかつグローバルだ。昨年は食で注目を集める台湾から『富錦樹台菜香檳(フージンツリー)』を引っ張ってきた。世界中のレストランから1ブランドを選ぶ嗅覚はどういったものなのか。

「僕自身の嗅覚もあるけれど、あとはネットワークであり、人の連鎖でしょうか?娘や妻のインスタでトレンドチェックもしていますよ(笑)。そしてWDIは手をつなぎたいと思うブランドには、まず「ホスピタリティ」「本物感がある」「他国でも展開できるか」の3本の矢を放ちます。その条件をクリアしない相手とは、交渉に入っても契約にいたらないことが多いですね。僕らは海外ブランドを日本で展開する際、決してジャパナイズさせず、WDI風にもしない。個性と本物感があるニッチを攻めていこうと思っているんです」

WDIのブランド展開における要件に“多店舗化”はない。そのブランドが持つ世界観を大切にし、1店舗ずつ育てていきたいと考える。

「ブランドオーナーには、『僕たちは店の世界観を、国も地域も違う場で実現する力を持っている』と伝えます。1店ずつお客様の反応を見ながらやっていきたいと、展開の方向性も話します。だから多店舗化を期待するオーナーさんとは、たいていここで交渉が決裂します」

そんなやり方で今成功しているのが、国内5店舗、ハワイに1店舗を擁する『ウルフギャング・ステーキハウス』である。

「いや、最初は失敗だったんですよ」と、清水氏は笑う。

次の狙いは台湾とヴィーガン

’04年、ウルフギャング・ズウィナー氏がブランドを創業した 2ヵ月後、運よくコンタクトできた清水氏は、息子のピーター氏と契約交渉を始めた。しかしそんなタイミングで、あのBSE問題が起き、米国産牛肉の輸入が禁止となったのだ。

「ピーターも『合弁事業は様子を見よう』と二の足を踏みました。でも僕は2、3年後には輸入禁止は解除になるだろうと考えた。さらに僕らには『トニーローマ』をハワイに出店させたノウハウがあり、海外展開を長年やっている強みがある。まずは日本とアメリカ本土の真ん中に位置するハワイに出してみようよ、とピーターに提案したんです」

’08年にビバリーヒルズ、翌年にワイキキ店をオープン。

「リーマンショック直後もあって、ビバリーヒルズは鳴かず飛ばず。3億円ぐらいかけて作った店を、最終的にブランドオーナーにただ同然で売却しました。ワイキキも最初の3年はほぼ赤字。さあ、存続するかどうするかという時に日本のテレビ番組で紹介され、認知度が一気に高まった。そして地道に作ったウルフギャングの世界観を『あのハワイのステーキ屋さん、面白いし美味しいね。ニューヨークの店だって』と日本人のお客様が認めてくれたんです」

今や月商2億円を上げる大繁盛店。毎夜、店の前には席待ちの大行列。しかし清水氏は「店作りってトライ&エラー。だからあまり儲からないんですよ」と笑う。そんな清水氏が次に注目しているのは台湾。

「先日も2泊3日で台湾の店舗を15軒ほど巡りました。行動をともにしたジェイ・ウーは、台湾の富錦街でセレクトショップやカフェなどの人気店を手がけるクリエイター。彼の案内で面白い店を回りました。彼とは台湾の食文化を日本に持ってこようと、そのプラットフォームになる合弁会社を作ったんです。シェントウジャン(鹹豆漿・朝食で人気の豆乳のスープ)やホットポット(鍋)とか、台湾には今の日本にはない、面白い食文化がまだまだ眠っています」

さらにアメリカでは世界的なヘルシー志向に対応するべく、ヴィーガンレストランのプロジェクトも進行中という。マルチブランド戦略を掲げるWDIには進行中の案件が国内外に点在する。

指揮する清水氏の労力たるやと案じると、「数年前、僕は何にでも首を突っこむコントロールフリークでした。そこで1年間、エグゼクティブコーチングをつけたんです。このままじゃ僕も疲れるし、幹部社員も指示待ちになり能率が悪い。コーチングで意識改革を試み、少しずつ人に任せられるようになってきました」。

自らを変えたうえで、清水氏は人財こそが今後の課題と、あらゆる試みに取り組んでいる。

「今は人財の採用、育成、定着が最大の課題。うちはアルバイトからの引き上げ雇用が多く、定着率も高いんです。また外国人の採用も増えている。そういう意味で、雇用の入り口の多様化が必要だと考えています。入り口を広げたら、その方々が活躍できるような定着と育成が僕らの経営課題。ブランドを輝かせるのは人財力。店にいらっしゃるお客様の感情を揺さぶるような魅力は人が作るもの。それこそがWDIのブランド力。僕らが抱えるいろいろなブランドを、その個性を際立て、ファンとなった方々に長く愛していただく。食をブームにするのではなく、文化として定着させたいと願っているんです」

ウルフギャング・ステーキハウス代表取締役 ピーター・ズウィナーが語る、清水謙の人物像

「15年以上の付き合い。今やかけがえのない、大切なパートナーです」

謙と僕は、ともに前職が金融マン。そのせいか、いろいろな角度から物事を分析できる、とても近い価値観を持つ人だなと。彼は2代目ながらも起業家のスピリットを持つ希少な人柄です。最初の取り組みは、2004年にウルフギャング・ステーキハウスのパートナーシップを組むかどうかのシビアなミーティングでした。

今では15年以上の付き合いですが、さまざまな取り組みのなか、意見が異なる場合も、何度もディスカッションを繰り返して解決し、最終的に揺るぎない信頼関係を築けていると思います。

現在、『ウルフギャング・ステーキハウス』は全世界で9ヵ国、25店舗を展開していますが、シンガポール、韓国、フィリピンへの展開の際、現地のパートナー会社がいるにもかかわらず、WDIはかなり力を貸してくれました。

そして今現在、最も売り上げを上げるのは、WDIと運営するワイキキの店舗なんです。

ピーター・ズウィナー/1965年ニューヨーク生まれ。パイロット免許を取得後、銀行員として勤務。その後、ニューヨークの老舗ステーキハウス『ピーター・ルーガー』に勤めていた父のウルフギャング氏と『ウルフギャング・ステーキハウス』をオープンさせた。

Ken Shimizu 1968年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、さくら銀行(現三井住友銀行)入行。’98年にWDI入社。常務取締役経営企画室長、兼営業本部長、兼事業開発部長を経て、2003年から現職。全世界に186店舗を擁する。

Text=今井 恵 Photograph=本間 寛

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