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【佐藤優の眼光紙背】玄葉光一郎外相の訪露と犬外交

玄葉光一郎外務大臣。

佐藤優の眼光紙背:第132回
 玄葉光一郎外相が、ロシアのソチを訪問することになった。

玄葉外相、27日から訪露…プーチン大統領と会談
 玄葉外相は20日、27日から30日の日程でロシアの黒海沿岸ソチを訪問し、プーチン大統領、ラブロフ外相らと会談する方針を固めた。
 6月にメキシコで行った日露首脳会談では北方領土問題の交渉を進めることで合意したものの、ロシア側はメドベージェフ首相が7月3日に北方領土の国後島を訪問するなど強硬姿勢を崩していない。玄葉氏は、今回の大統領らとの会談を通じて事態打開を図りたい考えだ。(7月20日、読売新聞電子版)

 もっともロシア側は20日時点で、玄葉外相がプーチン大統領と会談するという情報を確認していない。

 現在、外務官僚は、必死になって玄葉・プーチン会談を取り付けるべく腐心している。それは、6月18日(日本時間19日)に行われたメキシコのロスカボス日露首脳会談で、北方領土交渉の再活性化に合意したというのが、外務官僚の作文であるということが明らかになったからだ。

野田佳彦首相とロシアのプーチン大統領が6月18日にメキシコで初めて会談した際、実際には両首脳とも北方領土交渉の「再活性化」とは発言しなかったにもかかわらず、日本側が再活性化で一致したと説明していたことが4日、判明した。複数の日露関係筋が明らかにした。首相の年内訪露で合意したことも、大統領が原子力エネルギー協力を提案していたことも明らかにされていない。これまでの首脳会談でも事後説明と実際の会談内容が異なることはあったが、政府内からも「これほど実態を反映していないのは珍しい」との批判が出ている。
 両首脳の会談はメキシコでの20カ国・地域(G20)首脳会議の際に行われた。
 首相は会談後「領土問題の議論を再活性化することで一致した」と記者団に表明した。会談に同席した長浜博行官房副長官は記者団への事後説明で「再活性化を図ることは日本側からの発言だ」と説明した。外務省幹部も「続いている話し合いを実質的な、かみ合った議論にする姿勢の表れが『再活性化』という表現だ」と述べていた。(7月5日付産経新聞)

 北方領土交渉の再活性化について合意したことを、ロスカボス日露首脳会談における最大の成果として日本外務省は宣伝したが、キーワードとなる「再活性化」という言葉がなかった。これは明白な虚偽発表だ。前出の産経新聞は、<先月の日露首脳会談で北方領土問題の「再活性化で一致した」という実際とは異なる日本政府の説明は、あたかも停滞が続いていた日露関係が動き出すかのような印象を国民に与えた。会談から1カ月もたたないうちにロシアのメドベージェフ首相が国後島を訪問したことは、日本政府の説明が早くも破綻したことを意味する。ロシア側の対応は容認できないものの、日本側が誤った情報を内外に発信したツケは大きい。>と指摘しているが、その通りである。

 玄葉外相の訪露で、日本外務省はつじつま合わせを画策している。恐らく、メドベージェフ首相が7月3日に国後島を訪問したことについては、形だけ「遺憾の意」を表明し、あとは何としても北方領土交渉の再活性化という合意を明示的にして欲しいと、ラブロフ外相にお願いするのであろう。

 さらにロスカボス日露首脳会談で野田首相がプーチン大統領に寄贈を約束した秋田犬を玄葉外相が運ぶので、5分でも10分でもいいからプーチン大統領と玄葉外相を会わせてくれという「犬外交」を外務官僚は画策しているようだ。

 こんなことをしているとロシア人から「日本は犬を献上して、クリル諸島(北方領土)を取ろうとしている」と揶揄されるだけだ。

 玄葉外相は、外務官僚の辻褄合わせに利用されてることに気づいていない。(2012年7月20日脱稿)

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プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「予兆とインテリジェンス」(扶桑社)がある。

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