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カメラと生きる46歳の子供部屋おじさん「無敵だからね、俺」

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 そもそも、レイヤーはアニメやゲームのキャラクターになりきってはいるが、二次元ではなく三次元で、生身の感情をともなった人間だ。勝手な行為を押しつければリアルな被害者となり得る。しかし串田さんはそんなことは気にしない。ブレることなく欲望優先。欲望を優先して生きるあまり、串田さんは定職についたことがない。都内の実家で暮らしているが、アルバイトを転々としてきただけ。その中には私がライターとして出入りしていた出版社のプレゼント発送などの短期アルバイトも含まれる。もちろん確定申告などしたことないし、ずっと親の扶養に入ってきた。

「商業カメラマンなんかなりたくないね。他人の結婚式とかガキとか撮りたくない」

 中退だが写真専門学校で学んだこともある串田さん、かつてカメラマンを仕事にするのはどうかと提案したこともある。本音のところは知らないが、欲望のまま好きなものを撮りたいだけ、カメラでまっとうな仕事をする気はないと言う。

「まっとう」というのは串田さん、実はカメラで小金を得ている。昔はコスプレの写真を雑誌や同好のマニアに売ってお小遣いにしていた。

 1990年代、まだ個人情報もコンプライアンスへの認識もゆるかった時代、「アクションカメラ」(1982~2003年)や「熱烈投稿」(1985~1999年)などの投稿雑誌に投稿すれば規定の謝礼が貰えたし、「じゃマール」(1995~2000年)などの個人向け売買情報誌などで売ることも可能だった。ネット社会が浸透する以前、はるか昔の話である。

「いまじゃファイル交換に重宝するくらいで昔ほどの金にはならない。掲示板で『神』なんて言われても一円にもならない」

 ネット掲示板では、飛び抜けて素晴らしいことに対して「神」と呼んだり形容して褒めたたえる習慣がある。有名人のファンサービスが完璧だったことを「神対応」とSNSで呼ぶのもそのひとつだ。もちろん、見事な出来栄えの写真に対しても、その提供者を「神」と呼び賞賛する。串田さんもコミケのあとしばらくはアングラ画像掲示板で神と崇められる。言い方は妙だが「人気者」だ。とはいえ、会心の一枚が撮れても、おおっぴらに披露すると身バレするし金にはならないのでファイル交換や古くからの同好との取引が主だという。業者は一度怖い目にあったので売りたくないそうだ。それにしても、そんな女の子たちの画像を下心を隠しもせず待っているような連中に提供することで神と崇められて、嬉しいのだろうか。

「ネット乞食に与えてやってる感はあるよね。俺の創作活動で」

 ネット乞食とは、みずからは何も発信せず、無料で画像や情報などを欲するだけのユーザーのことを指すネットスラングだ。それにしても、串田さんが被写体として素人の若い子、それもレイヤーにこだわるのはどうしてなのか。最近は、プロのアイドルや声優がモデルになる個人撮影会が増え、アマチュアでも参加しやすい。撮られるプロではだめなのか。もちろん、彼女たちには撮影料を支払わねばならないが、美しくみせる技術を持っているプロフェッショナルたちだ。

「あいつらプロは恥じらいがないからね、だからおおっぴらに露出するおばさんレイヤーも用はない。ウブなところがいいんだ。かわいそう? おかしいでしょ、彼女は直接被害にあってないし、俺は直接なにもしてない」

 では、恥じらいのあるウブな女の子たちとの出会いなどを求めているのか?

「それはしない。俺は現場じゃ匿名であることに徹してる。有名カメコになったら最悪だから、名刺も渡したりしないし、名乗りもしない、身バレは気をつけてる」

 実際はこれだけ長くカメコを続けていればレイヤーたちの間でも知られていそうなものだが、その他大勢のカメコならば目立つことはないのかもしれない。みな同じような格好で、同じような容姿だ。

 それにしても、実家暮らしで定職に就かず、カメラと女の子の撮影に夢中の日々は充実しているだろうが、将来はどう考えているのだろう。串田さんとこんな突っ込んだ話をしたことないが、答えてくれた。

「実家にいるから生活には困らないけど、最近は母親がうるさいんだ、いい加減どうすんだって」

 そりゃそうだ、母親の気持ちはわかる。串田さんの父親は2年前に亡くなったそうだ。葬儀は串田さんの弟が喪主となって済ませたそうだが、串田さんは親戚一同から葬儀の後、ネットスラングで言うところのフルボッコ、袋だたきにあってしまった。「いい加減働けだの、長男だから母親の面倒はお前がみろって無茶苦茶だ」

 串田さんの弟は地方に転勤しているサラリーマンで、妻も子もいる。転勤族だから母親を引き取るのは難しい、何もしていない同居の串田さんが面倒をみろ、ついでに働け、ということか。無茶苦茶ではないと思うが、串田さんにしてみればたまったものじゃないのだろう。

“生・老・病・死”のリアルの前に、串田さんのような人は無力だ。自立しないにせよ、母親の面倒やそのための自活が串田さんには待ち受けている。いずれ介護ものしかかってくるかもしれない。厳しい現実を承知しておくべきだろうと思い、「嫁を貰って介護させる」とかトンチンカンなことを言わないうちに、高齢の母親と暮らす独身無職では難しいと釘を刺した。

「そんなことわかってる」

 串田さんはふてくされた。さすがにそのくらいはわかっているか。

「でも妄想は自由だからね、ウブなレイヤーにあれこれするのは妄想なら自由」

 被写体が想像したのとは異なるアングルの写真を撮り、それを売っていることは妄想では済まない立派な迷惑行為だろう。しかし、それは犯罪とまでは言えないことなので、実際に手をくださないだけマシと考えるしか無いか。串田さんは昔のコミケの思い出や、コスプレを前提としたアニメやゲームのキャラクターのどんな衣装がエロいかなどの話をまくしたてる。新しいカメラは父親の生命保険の一部で買ったという。その額からしたらたいした金額ではないが、さすがに閉口した。

 ところが、串田さんはその父親のことはかたくなに話そうとしなかった。父親は大嫌いだったという串田さん。それでもこの歳までずっと一緒に住んでいた。健康保険も年金も光熱費も払ったことがない串田さんの生活の面倒をみてきたのはその父親に違いない。親の心子知らず、なんだかんだ長男坊がかわいかったのだろう。 一生涯を、趣味を楽しみながら生きるのは素晴らしいことだし、働くかどうかは個人の自由だが、それが許されない時が必ず来る。団塊ジュニアはもうおじさんおばさんになり、若さゆえの体力や順応する力を失っている。若者だった頃から同じ生活を続けてこられた人も、それを変えねばならないタイムリミットは平等に訪れる。下手をするとそれが「死」かもしれない。親も永遠ではないし、自分自身もそうだ。もう40過ぎどころかアラフィフだ。

 串田さんもこのまま無職でいいとは思っていない。いずれまたバイトを探す、バイトでなんとかなるとは言っていた。運が良いことに都内の雇用状況は非正規に限れば人手不足だ。母親の年金と串田さんのバイト代をあわせれば、団地の家賃は幸い安いので実際のところなんとかなるだろう。串田さんは3DKの団地の一部屋をずっと子供のころから自室にしてきた。いわゆる子供部屋おじさんだが、母親の面倒をみるというならそれもありだろう。

 世間一般の他人と比べれば、串田さんはもういろんな意味で間に合わない人だ。だが幸せなんて十人十色、串田さんは趣味に走っている限り、裕福ではないかもしれないが満ち足りて生きていられるかもしれない。串田さんはある意味、社会の競争からは降りて自己完結の欲望のまま生きている。笑うなかれ、趣味趣向は違っていても、世の中の多く、とくに男などこんなものである。自分の部屋で画像加工とファイル交換をしている限り、大事件には至るまい。ただ、くれぐれもレイヤーのみなさんにご迷惑をかけないようにとは言っておいた。

 自己完結したなかで生きているとはいっても、串田さんは決して孤独ではないし、世の中にまったく興味を持っていないわけではない。この取材に関しても基本的に面白がって喜んでいたし、彼には多くの同好のカメコ仲間がいる。

「結束は固いよ。みんな同じ世代だ」

 みな1980年~1990年代の、アングラ文化の申し子ということか。ただ、性の搾取やハラスメントに対する権利への意識は、昔に比べれば確実に上がっている。団塊ジュニアに限らずその上の世代も含めて昭和の男は、昔の価値観のまま、おおらかに考えてしまう感覚が根強い。当時のそういった文化を表現していた媒体の加担者であった私だからこそ、自戒も含めよく知っている。

「無敵だからね、俺。欲望のまま生きるよ」 ネットスラングで、失うものが何もない人間のことを「無敵の人」と呼ぶ。犯罪を起こし逮捕されると、仕事を失い、社会的信用を失い、財産を失い、妻や子供など家族が去る、など失うものが多い。ところが、そのいずれも最初から持っていない人は失うものがないので、無敵の人だというのだ。

 無職で、妻も子供もいないから失うものがない自分は何も怖くないとうそぶく串田さんは、本人の言う通り無敵の人であることに開き直っているように見える。そして、彼のような人はそれほど特殊な例ではない。1990年代カルチャーだけで生きてきた団塊ジュニアは、さまざまな場所で、さまざまなジャンルで蠢き、かなりの人数になるはずだ。では、彼らは昔から無敵だったかというと、串田さんは違う。私は知っている。そんな串田さんも、かつてはレイヤーの彼女がいた。もう20年前の話だが――。

 串田さんの彼女は、びっくりするほど可愛い子だった。私は心底羨ましかった。蓼食う虫も好き好きというか、誰にでもチャンスはあるのだと思ったものだ。それ以降ずっと、特定の彼女がいたという話はきかないが、彼女と続いていたら、現在の生活や将来への考え方も違っていたのだろうか。もしかしたら、いまも好きなのか。根は繊細で一途なのかもしれない。

 串田さんも開き直っているように見えて案外考えていると思いたい。自身の年齢と社会性を自覚せざるを得ない時期が来れば、案外「普通」になるのかもしれない。開き直るアウトローやアングラ系の男性が突然、普通になる例があることも私は経験で知っている。大人になる時期は人にもよるし遅いこともある。もっとも、残された時間は少ないが――。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

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