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カメラと生きる46歳の子供部屋おじさん「無敵だからね、俺」

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同人誌即売会のコミックマーケットはコスプレ披露の場でもある(EPA=時事)

コスプレイヤーをカメラがぐるりを囲む様子がコミックマーケット名物になって久しい(時事通信フォト)

コミックマーケットの来場者数は過去最高を更新し続け、2019年末は4日間で75万人を記録した(時事通信フォト)

「好きなことで、生きていく」とは、2014年に人気YouTuberが出演したCMで使われた言葉だ。自分が趣味とするもの、好きなことで生きるという人生の歩み方は、YouTuber出現よりも前、1990年代の若者たちも選び始めていた。それは、彼らが社会に出る時期と就職氷河期が重なったがゆえの、実際は消極的な選択だったかもしれない。その後、好きなことで生きているが、何か違う大人になったという思いも消えない。鬱屈した彼らを「しくじり世代」と名付けたのは、『ルポ 京アニを燃やした男』著者の日野百草氏。今回は、好きなことだけして生きている46歳のカメラマニア男性についてレポートする。

 * * *

「汗かいちゃった、もうだくだく」

 串田明夫さん(仮名・46歳)は私の知る串田さんのままであった。汗を吸ったバンダナ、チェックシャツにベスト、靴は某タイヤメーカーのロゴが誇らしく刻まれた靴。串田さんはぶれない。私と知り合った20年前から、そのファッションが変わることはない。自転車で来るのもいつものこと、免許のない串田さんは自転車でどこへでも行く。串田さんの実家は足立区の北部だが、待ち合わせはここ秋葉原。串田さんにとってこの程度、普通である。見かけによらない甲高い声も変わらない。

「でね、日野さん。これ新しいカメラ。冬コミはこいつが主力でいくよ」

 年末のコミックマーケットへの意欲を語りながら、バッグからカメラを取り出す。これもいつもどおり。彼はいつでもカメラを持っている。スマホの内蔵カメラではプライドが許さない。なかなかのデジイチ(デジタル一眼カメラ)だ。

 串田さんはカメラマニアである。私と出会ったころは20代、カメラ小僧だったが、いまはカメラおじさんか。カメラと言っても芸術やスポーツの分野ではない。被写体はコスプレイヤーで、コスプレ撮影一筋だ。イベントではメインだけでなくサブのカメラもぶら下げ、かつてはバズーカ砲のような望遠を何本も持って行った。

「最近いろいろうるさいからね、なるべく望遠は使わないよ」

 1990年代、私もかつて仕事で何度もコスプレに関わる取材をした。主にコミケで、もちろんコンプティーク編集部としてコミックマーケット準備会に正規のプレス申請をした、健全なコスプレ撮影である。もう26年も昔、会場が晴海の東京国際見本市会場だった時代である。当時はコスプレイヤーのみなさんから簡単に掲載許可がとれた。むしろ掲載してくれと頼まれることのほうが多かった。いまは時代が違うのか、個人情報に敏感なのだろう、プレスでも断られることも多く、むしろ敬遠されることもあると聞く。

【写真】コスプレイヤーを囲むカメラ

 コスプレとはコスチュームプレイの略だが、ここで言及するのはおもにアニメやゲームのキャラクターの衣装を着てなりきる行為であり、その人達を指してコスプレイヤー(略してレイヤー)と称する。被写体として会場で注目を集めるだけでなく同好と知り合ったり、サークルを作ったり、撮影し合ったりする。やはり容姿に自信のある人が多めなので、ちょっとしたアイドルが発掘されるなど、コスプレのイベントも各地で開かれている。串田さんはそんなレイヤーを撮影するカメラ小僧、いわゆるカメコだった。そして、おじさんのいまもカメコを続けている。

 実際、カメコもコスプレ会場の風物詩で、ぐるり囲んだカメラの放列にレイヤーさんがポーズをとる。レイヤーの方々はセミプロ級の方もいるし、実際に雑誌でグラビアをこなすプロもいる。しかし串田さんはそういう“有名人”や“囲み”には興味がない。

「狙いは素人レイヤーだからね。隙だらけだからいろいろ撮りやすいし、若い子が多い」

 串田さんの言う“素人”は別にプロとアマチュアの境目のことではなく、イベント慣れしてない、被写体スレしてない女の子のことだ。そういう子は未成年も多いし、衣装もそれなり、露出の多い格好をしてもガードが甘い。串田さんは20年間、そんな子たちを狙い続けている。盗撮ではないが、レイヤーに断りのない撮影だったり下着や胸元が写るアクシデントを狙ったりと限りなくグレーであり、イベント的にはマナー違反、できれば積極的に来場してほしくないと思われている存在だ。

「最前線のドキドキ感は最高だね。ワキ、尻、股間はもちろん、顔のアップも狙う」

 まるで戦場カメラマンみたいな言い方だが、撮ろうと狙うのは極端な構図が多く、眉をひそめたくなるようなものも含んでいる。昔からこんな感じで46歳。もちろん独身で、現在とくに仕事はしていない。

 つまり、串田さんは無職46歳の素人レイヤー狙いのカメコである。

「最近はタレント気取りのレイヤーばっかりでうんざりだね。だからそういうのが中心のイベントは行かない。やっぱりウブな10代の子はコミケに多い。コミケが勝負。あとワンフェスかな、あっちは規制がゆるいから」

 世界最大の同人誌即売会コミックマーケット、通称コミケでのコスプレ衣装については、運営する準備委員会が露出を厳しく規制しているが、その分、若い子でも初心者でも気軽にコスプレが出来る安心感がある。もちろん串田さんに狙われているとも知らずに。そしてこちらも世界最大の模型イベントであるワンダーフェスティバル、通称ワンフェスは、コミケよりは規制がゆるく露出の高い衣装も可能だが限度はあるししっかり運営により管理されていて安心だ。そんな安心しているところを狙われていると知ったら、女の子も絶対イヤなはずだと言うと、

「撮られるために来てるんだから問題ないでしょ。カメコはみんなやってるよ」

 とむべもない。犯罪ではないが、どんな写真に撮られたいかという被写体の気持ちを無視した撮影は、善意の合意で成り立っているコミケ会場では推奨されないことだろう。

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