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アカデミー賞を決める「有権者」はどんな人々か

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映画界最高の栄誉と言われる「アカデミー賞」は誰がどう決めているのか。アカデミー賞ウォッチャーのメラニー氏は「映画産業に従事する何千人ものアカデミー協会員たちが決めています。受賞作品の発表は例年2月ですが、前年12月からすでに『前哨戦』は始まっています。ノミネーションが決まってからはまるで選挙キャンペーンのようです」という——。

※本稿は、メラニー『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』(星海社新書)の一部を再編集したものです。


※画像はイメージです - 画像=iStock.com/UnitoneVector

アカデミー賞は同業者団体のメンバーが決める

評論家や映画ファン(映画を観るプロ)が傑作を決める賞ではなく、世界中の映画産業に従事する人間が同業者を称える賞。それがアカデミー賞です。2019年現在、アカデミー賞は全24部門あります。

作品賞(Best Picture)

監督賞(Best Director)

主演男優賞(Best Actor)

主演女優賞(Best Actress)

助演男優賞(Best Supporting Actor)

助演女優賞(Best Supporting Actress)

脚本賞(Best Original Screenplay)

脚色賞(Best Adapted Screenplay)

長編アニメ映画賞(Best Animated Feature)

国際長編映画賞(Best International Feature Film)

長編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Feature)

短編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Short Film)

短編実写映画賞(Best Live Action Short Film)

短編アニメ映画賞(Best Animated Short Film)

作曲賞(Best Original Score)

歌曲賞(Best Original Song)

音響編集賞(Best Sound Editing)

録音賞(Best Sound Mixing)

美術賞(Best Production Design)

撮影賞(Best Cinematography)

メイクアップ&ヘアスタイリング賞(Best Makeup and Hairstyling)

衣裳デザイン賞(Best Costume Design)

編集賞(Best Film Editing)

視覚効果賞(Visual Effects)

この同業者たちの団体、つまりアカデミー賞を選考するメンバーが、映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences/AMPAS)の会員、通称・アカデミー協会員です。では、どうやったらアカデミー協会員になれるのでしょうか?

その答えは、「一定以上の業績をあげた映画人ならば、AMPASの招待(後述)を受け入れることで、国籍に関係なく会員になれる」です。

会員の職種は広く言えば全員「映画関連」ですが、職種は多岐にわたり、17の部門に分かれています。部門別で言うと「俳優部門」に属する俳優がもっとも多く、2割程度。他にプロデューサー、監督といったカテゴリーほか、美術スタッフや音楽家や編集や録音といった部門が存在します。

映画宣伝のPR担当者も「有権者」

意外なのは、ここにPRなどを行うパブリシストも含まれているということ。パブリシストとは、各作品を宣伝したり、俳優や監督などノミネートされた人物の広報を担当したりする人を指します。直接的な作品製作に関わっていなくても、作品を世に出すことに関わる人であれば、アカデミー協会員の資格があるわけです。

これらのどこにも属さない人は「members at large(無所属)」というカテゴリーに入ります。これは、現場で監督やプロデュースなどはやっていないものの、「映画業界の中では重要な人」みたいなニュアンスと思われます。ここには、大手スタジオの重役や、世界各国の映画関係者で国際的に知られている人たちなど、映画業界に貢献している方々が名を連ねています。

アカデミー協会員が激増している理由

AMPASは毎年、世界の映画界で目覚ましい活動をした人に、新会員として加入を促す招待状を送っています。この「アカデミー協会員になりませんか?」という招待は、映画人としては最高の栄誉。既存会員2人以上からの推薦を受けた上で、協会の審査に通った人達に招待が送られます。ただ、招待状を受け取った全員が会員になるわけではありません。様々な理由で拒否する人もいるようです。

ここで特筆すべきは、毎年の招待数の推移です。私の記憶が正しければ、2000年代前半くらいまでの会員数は3000人から4000人くらいで推移していました。毎年それなりの数は招待されていましたが、亡くなる方もいるので、大きな変動はなかったと思います。

ところが2010年代に入ると、招待数がものすごい勢いで増えていきます。

アカデミー協会員 招待者数
図表=『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』

2013年に276人が招待された時、ある業界記事には「これによってアカデミー協会員数は6000人を超える」と書いてありました。そして2019年現在、アカデミー協会員は約9000人弱いるとされています。それが正しければ、この6年で会員数は1.5倍に膨れ上がったことになります。

「白すぎるオスカー」と猛烈な批判を浴びる

それにしても、なぜこんなに増やすのでしょうか。

実は2000年代前半くらいまでのアカデミー協会員は「白人男性」が大半を占めていました。非白人である黒人、ヒスパニック系、アジア系、そして女性は、映画界でどれだけ活躍していても、なかなか会員になることができなかったのです。

このようなAMPASの体質は、10年代以降の世界的なダイバーシティ(多様性)のトレンドのなかで「時代遅れ」と批判を浴びるようになります。

極めつけは、2015年と16年に2年連続で俳優部門にノミネートされた俳優が白人だけだったこと。それをきっかけに、AMPASは「白すぎるオスカー(#OscarsSoWhite)」と猛烈に批判されました。

そこで当時のAMPAS会長シェリル・ブーン・アイザックス(黒人女性)は、2020年までに女性と非白人の会員数を倍増させると宣言しました。実際、2019年の招待者842人のうち、女性の割合は50パーセントで過去最多。有色人種の割合は29パーセント、出身国は59カ国にわたりました。

多様化による票割れ、予想屋には悩ましい部分も

当然ですが、メンバー数の増大とそれに伴う人種・性別内訳の多様化は、映画産業の発展においては100パーセント正しいことです。が、予想屋の立場として考えると、ちょっと悩ましい部分があります。

なぜなら昔は「白人のおじいちゃんが好きそうな映画」を選んでおけば、大体間違いがなかったからです。加えてハリウッドにはユダヤ系の関係者が多数、という実態があるので、たとえば「ナチスドイツが舞台の第二次世界大戦もの」が強いことは、周知の事実でした(第66回の作品賞・監督賞である『シンドラーのリスト』はその最たる例)。

しかし今は、投票者の人種・性別の内訳がバランスよく均されているので、票割れしてしまって予想の難易度が格段に上がりました。また、時代の流れと共にナチスドイツは遠い過去の話になり、社会情勢も変化を続けているため、人々の関心事も多様化しています。15年前まで通用していた定説の一角が完全に崩れた形で、私としては手持ちの駒がひとつ減ったような感覚も否めません。

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