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ダマスカスの治安本部爆発事件後のシリア

7月18日(現地時間午前11時半)に、シリアの首都ダマスカスのラウダ広場にある治安機関本部で爆発事件が起きた。この事件で、シャウカト国防次官(バッシャール・アサド大統領の義兄)とラジハ国防相(キリスト教徒)、トゥルクマニ元国防相(反体制対策責任者)が死亡、シャアール内相、イフティヤル国家治安局長が負傷し、同国の治安部門が大きな人的被害を被った。

この事件に関し、反体制派勢力の「自由シリア軍」は16日から始めた「ダマスカスの火山作戦」の一部であるとの犯行声明を出した。この他に、イスラム旅団も犯行声明を出している。

一方、バッシャール政権は、すぐに国防相にハマ出身のフライジュ参謀長を就任させ、卑劣なテロ行為の犯罪者と戦う旨を表明した。また、オムラン情報相は国営テレビで、この事件の背後にトルコ、カタール、サウジアラビア、イスラエルがいる旨指摘し、報復をほのめかす発言を行っている。以前に、バッシャール大統領自身も、状況次第ではイスラエル、レバノンなどに戦火が拡大すると言及していた。

国連安保理は、シリア情勢について7月20日の国連シリア監視団の活動期限が切れるのを前に大きな課題を突き付けられた形となった。 そこで、以下に、今後のシリア情勢を考える上でのポイントを整理しておく。

1.国際システムと国家、個人 相互依存が強まっている今日の国際社会においては、国際政治学者のケネス・ウォルツが指摘しているように、国際システムが国家、個人の各レベルに制約を与える(アウトサイド・インの方向)状況にある。これはシリアも回避できるものではない。 今年5月、バッシャール政権が国内の旧勢力の均衡に十分配慮した人民議会選挙を実施した。そのことを高く評価する分析も見られるが、同政権のそうした「増分的」政策では、現在シリアの一般市民が被っている人道危機を終わらせることはできない。そうなると、「保護する責任」という連帯意識を生み出した国際システムの制約がシリア政権にのしかかってくる。

2.「反介入」「非介入」という2つの不介入 先のリビアの政変でも問題となったが、例え紛争下で人道危機があったとしても、「保護する責任」(人道的国際介入)をもとに無条件で行動を開始できる権利を国際社会は持ちあわせていない。 ロシアや中国が、紛争当事者間の力のバランスを外部の圧力によって崩すことに反対し「反介入」理論を持ち出す余地がそこにある。こうして両国は、介入目的の正当性、必要性、緊急性、さらには介入結果と目的の整合性の有無の精査を厳しく主張する。 一方、イギリス、フランス、米国は、シリアがイスラエルやレバノンに隣接する国であるという地政学的問題、欧米経済の悪化の状況、フランスと米国の大統領選挙、さらにはシリア政権が保有していると見られる大量破壊兵器の拡散問題、イランの核問題、アラブ諸国の政治変化等の要因に鑑み、国益や国際益の観点から軍事的「非介入」理論の立場をとっている。 クリントン米国務長官の7月16日のイスラエル訪問後に流れた国際報道(*)を見ていると、イギリス、フランス、米国はむしろ、シリア問題を同国内に封じ込めて他国に飛び火させないことに専心しているようにも見える。 今後、国際社会は、アナン国連およびアラブ連盟特使のもとでロシアおよび中国と交渉を重ね、現状と大きなズレが生じはじめている「アナン提案」を修正することで紛争解決の糸口を見出そうとするだろう。今回のシリアでの事件で、その蓋然性が一層高まったといえそうだ。 その際の交渉ポイントは、(1)アサド家を中心とする支配層の身柄の安全、(2)ロシアのシリアでの権益の保証だろう。

3.体制内にある脅威 ナワフ・ファレス駐イラク大使(7月11日)、マナフ・トラス准将の亡命(7月4日)、そして今回の治安機関の爆破事件にみられるように、バッシャール政権への脅威は体制の外部から内部へと及び始めている。 思惑の違う人々の寄せ集めである反政府勢力であるが、これまで以上に、体制内にいる軍やバアス党関係者との関係構築を活発化させると考えられる。その中で、政府・軍要人の暗殺や離反が進む蓋然性は高まっている。

以上の3つのポイントは、バッシャール・アサド政権の退場を予見させるものである。 しかし、残念なことに、ポスト・アサド体制は依然として見えてこない。 現在の一番の課題は、そこにある。サウジとカタールとトルコの今後の動きが一つのカギを握っているといえそうだ。

*イスラエルと米国の高官の協議の場で、米国はイスラエルがシリアの軍事施設を攻撃することを望ましいと思っていないと伝えた旨報じている。

<参考> ブログ「シリア問題に見る政治指導体制」
http://blogs.yahoo.co.jp/cigvi2006/archive/2012/2/15

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