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「勝手に入るゴミ箱」で学ぶイノベーション

ニコニコ動画で「勝手に入るゴミ箱作った」という動画が話題になっている。ゴミを投げるとセンサーに反応し、ゴミ箱が移動してゴミをキャッチするという代物だ。

勝手に入るゴミ箱作った(ニコニコ動画)

Youtubeにも転載されているので、アカウントが無い方はこちらもどうぞ。↓


動画ユーザーが公開した試作品であり、まだまだ精度は悪いらしいが、その発想は極めて面白く、イノベーションの種であろう。

イノベーションと言えば、クリステンセンのイノベーションのジレンマに出てくる持続的イノベーションと破壊的イノベーションの概念を知っている人は多いかもしれないが、それに比べ、その破壊的イノベーションの考え方がクリステンセン自らによってアップデートされている事はあまり知られていない。

イノベーションへの解 利益ある成長に向けてでは、破壊的イノベーションが更にローエンド型破壊と新市場型破壊に分けて考えられる。折角なので、「勝手に入るゴミ箱」を例にこうしたイノベーションの概念について考えてみよう。

持続的イノベーションと破壊的イノベーション

図1は、持続的イノベーションと破壊的イノベーションを模式的に表したものである。

図1:持続的イノベーションと破壊的イノベーション
出典:クリステンセン『イノベーションのジレンマ』より筆者作成
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この図では、縦軸を性能、横軸を時間で表現している。グラフの点線は、主流顧客(ハイエンドやローエンド以外の多くの顧客)が満足する性能の水準を表しており、それに比べて、企業が提供する製品の性能は、その水準を上回るスピードで進化していく。何故なら、主流顧客を満足させるようになった後は、更に性能を高めてハイエンド市場(高性能の商品を求める顧客層)で売って利益率が高まるように企業間で競争が繰り広げられるからだ。ここで繰り広げられるイノベーションが持続的イノベーションと呼ばれる。

だから、日本のガラケーのように過剰に性能が高まって、顧客が性能をフルに扱えず、利益の向上に繋がらない等のケースが出てくる。ゴミ箱の持続的イノベーションなら、「材質の丈夫さ」「重さ」「デザイン」「容量」等の性能での競争があるだろう。但し、多くの人はゴミ箱にそこまでのハイスペックを求めない上、どのゴミ箱の性能も大きくは変わらない状態にまで進化しているので、それらの努力はあまり高付加価値には繋がらない。要するに、ゴミ箱はコモディティ化している事になる。

持続的イノベーションによってコモディティ化が起こっていくと、今度はその軌跡を破壊して、商品を再定義する動きが現れる。この再定義の試みを破壊的イノベーションという。ここでの破壊的イノベーションは後に「ローエンド型破壊」と呼ばれるもので、ローエンド市場(性能はそこそこで安い商品を求める顧客層)を狙った、「性能はそこそこで極めて安い製品」を提供する試みを言う。ローエンド型破壊でローエンドである程度売れるようになり、その後は上位市場のシェアも奪えるようになれば、破壊は完了である。

ローエンド型破壊の代表例と言えば、デパートから顧客を奪ったディスカウントストアやスーパーマーケットがある。ゴミ箱で言うなら、ダイソーなんかで売っている中国製や東南アジア製の安いゴミ箱がそれに当たるだろうが、破壊とまで言えるかどうかは怪しい。


ローエンド型破壊と新市場型破壊

『イノベーションのジレンマ』では「破壊的イノベーション=ローエンド型破壊」であったが、前述の通り、破壊的イノベーションのモデルが修正され、破壊的イノベーションにはローエンド型破壊の他に新市場型破壊があると解釈されている。

下図2は、図1を修正して2つの破壊的イノベーションを図式化したものである。

図2:ローエンド型破壊と新市場型破壊
出典:クリステンセン「イノベーションへの解」より筆者作成
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ここでは、「性能軸」「時間軸」の他に「無消費者又は無消費の機会」という新しい軸が加えられた三次元モデルになっている。先ほどの図1のような一つの平面上では、一つのバリューネットワーク(ある共通ニーズを持つ顧客層と、それに価値を提供する企業によって構成される集合体)があると解され、三次元を加える事で「別のニーズを持つ新しいバリューネットワーク」での市場開拓を表現する事が可能になる。特に、新市場型破壊では、「無消費者(ある製品を購入しない層)」に消費させるという意味で「新市場」を切り開くようなイノベーションが想定される。

例えば、時間はあるがお金はあまり無いので、国内旅行をする場合に飛行機は乗らず、基本的に夜行バスや電車で移動する顧客層があるだろう。その時、元々の航空業界におけるバリューネットワークでは、彼らは「無消費者」である。しかし、LCC(ローコストキャリア)と呼ばれるような格安航空会社の登場によって、彼らがそのサービスを使うようになれば、それは無消費を消費に変えた事になり、それは新市場型破壊となる。更に、既存のレガシーキャリアから顧客を奪うようになれば、ローエンド型破壊と両立して成功したハイブリッド型破壊となる。

「勝手に入るゴミ箱」はどのイノベーションか

もし、「勝手に入るゴミ箱」が商品化されたとしたら「持続的イノベーション」や「破壊的イノベーション(ローエンド型破壊もしくは新市場型破壊」のうち、どれに分類されるだろうか。

恐らく一般的なゴミ箱と比べると極めて値段が高い商品になるので、さしあたってはローエンド型破壊にはなり得ないだろう。一見すると、値段が高くてハイスペックなので持続的イノベーションに分類されそうで、多くの人は興味を示しても、それに高い金を払うかどうかは分からない。(漫画みたいに、書き損じた紙を後ろ向けに投げる人はどれくらいいるのだろうか。)

しかし、限定的ながら新市場を生み出すかもしれない。一部に存在する「ゴミ箱を使用しない顧客層」が利用する可能性である。世の中には「とんでもない面倒くさがり」がいて、自分の部屋の中でゴミ箱まで歩く事を絶対にせず、床にゴミを捨てる者(私の知人の話)がいる。彼はゴミ箱を使わずに、時たま部屋を掃除する事でゴミを処分する。そんな彼なら、部屋の中にゴミを投げて後でせっせと片付けるくらいなら、ゴミ箱がゴミを追ってくれたら掃除の手間が省けるかもしれない。とは言え、これもニッチなニーズである。

だから、基本的には持続的イノベーションの枠内というのが現状での評価だ。そもそも、イノベーションは市場で成功して初めてイノベーションと呼ばれるのであり、まだ製品化されてもいないのだから、「あったら欲しいかも」というくらいの話である。

参考文献

クリステンセン(2001)『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)』翔泳社(増補改訂版)

クリステンセン&レイナー(2003)『イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)』翔泳社

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