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踏んだり蹴ったり、な利用規約使用差し止め判決

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その、かつて一世を風靡したサービスの名前を聞いたとき、すごく懐かしい気分になったのは自分だけだろうか。

「IT大手、ディー・エヌ・エー(DeNA)運営のゲームサイト「Mobage(モバゲー)」の利用規約の一部が違法だとして、埼玉県の弁護士らで構成するNPO法人が使用の差し止めを求めた訴訟で、さいたま地裁は5日、DeNA側が有利になる不当な免責条項があるとし、該当条項の差し止めを認める判決を言い渡した。」(日本経済新聞2020年2月6日付朝刊・第40面、強調筆者、以下同じ。)

「モバゲー」といえば、2010年代初頭にDeNA、グリーといった会社が熾烈な競争を繰り広げ、「釣りゲーム」をめぐって日本の著作権法の歴史に残るような壮絶な死闘を演じたこともあったし*1、独禁法の世界でもDeNAに対する排除措置命令をきっかけに、今の「プラットフォーマー」問題につながるような議論が沸き上がった*2。

そして、「コンプリートガチャ」への景表法適用問題で騒然となった2012年あたりが、この業界のピークだったか*3。

ガチャ問題で、株価が下落した隙に・・・ということで安値で取得したつもりだった当時の最大手・グリーの株式は、その後しばらくしてから瞬く間に株価下落の一途を辿り、自分のポートフォリオの谷底で長らく塩漬けになっている。

ゲーム業界ならでは、といえばそれまでだが、この栄枯盛衰は、クラシック携帯からスマホへと瞬く間に時代が移り変わり、いろんな業界でゲームチェンジが起こってしまった時代とも重なるだけに、たかだかこの10年の間のこととはいえ、思い返すと様々な感傷に駆られてしまう。

・・・で、話はだいぶ脇道にそれてしまったが、冒頭の記事について。

今回の報道にも出てくるし、掘り返した2年前の提訴時の記事*4にも出てくるのだが、今回問題になったのは「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は一切損害を賠償しません」という、かつては消費者向けの約款(利用規約等)で普通に使われていた免責条項。

もちろん、最近はまもなく施行される改正民法で「定型約款」に規制がかかるようになったこともあるし、それ以前から消費者契約法のエンフォースメント強化が図られていて、特に約款条項に対しては厳しい目が向けられている、という状況にあるから、ここまでストレートな書き方をされることは少なくなっていて、上記記事に引用された条項と、記事に出てくる

「「課金後に利用停止になったが対応してもらえない」といった苦情が国民生活センターに寄せられている」

というくだりだけ見ると、差し止めを食らってもやむを得ないのではないか?と思った法務関係者は少なくないだろう。

だが、おそらく今日の時点ではまだ元のままの内容で残っている、と思われる「Mobage」サイト掲載の利用規約(http://www.mbga.jp/www/kiyaku.html)を実際に確認すると、ちょっと印象は変わってくる。

第7条 モバゲー会員規約の違反等について
1.モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。
 a.会員登録申込みの際の個人情報登録、及びモバゲー会員となった後の個人情報変更において、その内容に虚偽や不正があった場合、または重複した会員登録があった場合
 b.本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
 c.他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合
 d.本規約及び個別規約に違反した場合
 e.その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合
2.当社が会員資格を取り消したモバゲー会員は再入会することはできません。
3.当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。

もし、今回の訴訟で争われたのがこの会員規約第7条3項なのだとすれば、これを不当条項として差し止めるのはちょっと違うんじゃないの?というのが、「ユーザーの不正使用に頭を悩ませることが多かったBtoCサービス」の利用規約の面倒をかつて見ていた者としての率直な感想だ。

おそらく、今回の訴訟の原告は、「不当に迷惑をかけた」とか「不適切である」という「当社の判断」が仮に誤っていたとしても、第3項で一切免責されてしまうのは不当ではないか!ということを強調したのだろうが、その点に関しては、この会員規約の中に以下のような規定もセットで入っている。

第12条 当社の責任
1.当社は、本サービスの内容、ならびにモバゲー会員が本サービスを通じて入手した情報等について、その完全性、正確性、確実性、有用性等につき、いかなる責任も負わないものとします。
2.モバゲー会員は自らの責任に基づいて本サービスを利用するものとし、当社は本サービスにおけるモバゲー会員の一切の事項について何らの責任を負いません。
3.モバゲー会員は法律の範囲内で本サービスをご利用ください。本サービスの利用に関連してモバゲー会員が日本及び外国の法律に触れた場合でも、当社は一切責任を負いません。
4.本規約において当社の責任について規定していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します。
5.当社は、当社の故意または重大な過失によりモバゲー会員に損害を与えた場合には、その損害を賠償します。
6.当社は、本サービスに関して、モバゲー会員同士もしくはその他の第三者との間で発生した一切のトラブルについて、関知しません。したがって、これらのトラブルについては、当事者間で話し合い、訴訟などにより解決するものとします。

そう、さすがにDeNAほどの会社になれば、法務部門も消費者契約法のリスクは十分理解しているわけで、自社に故意重過失があればさすがに賠償するよ、という”逃げ道”もちゃんと用意されていたのである*5。

もしかすると、実際の運用の場面では、ひとたび会員資格を取り消したユーザーに対しては、判断ミスをいかに指摘されようと、会員規約7条3項を盾に”木鼻”な回答に終始していたのかもしれず、ことこの場面においては、第12条5項が実質空文化していた可能性も否定はできないのだが、本当にそんな状況にまで至っていたのかどうか。

個人的な見立てとしては、今回のさいたま地裁の判断が東京高裁でひっくり返る可能性も十分あり得るのかな、と思っていて、その点についてはこの先も注目して見ていきたい、と思った次第。


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