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「東大生のキャリア職離れ」国家公務員試験戦線に異常あり! - 中西 享 (経済ジャーナリスト)

中央官庁のキャリア職を目指す国家公務員総合職試験の志願者数が減少傾向の中で、これまで国家公務員志向の強かった東京大学卒業生の合格者数が激減、大学別では首位を維持してはいるものの、東大生の「キャリア職離れ」が浮き彫りになっている。ただし、「霞が関」の中央官庁に内定した大学をみると、東大卒がしっかりと「指定席」を確保しており、採用する役所側は依然として「東大ブランド」を重視しているようだ。

(mizoula/gettyimages)

首位だが17%に落ち込む

人事院が明らかにしたところによると、2019年度試験の東大生(大学院生も含む)の合格者数は、全体の1798人中で307人で、東大の比率は17.0%と過去最低のレベルだ。

ちなみに2位は京都大学の126人、3位は早稲田大学の97人、4位は北海道大学の81人、5位は東北大学と慶應義塾大学で75人、7位は九州大学の66人、8位は中央大学の59人、9位は大阪大学の58人の順。毎年度2位は京大で、その後は早稲田、慶応、地方国立大学が続いている。

過去を振り返ってみると、18年度は合格者数1797人の中で東大卒は329人で比率は18.3%。しかし、2010年度でみると428人で32.5%、06年度でみると457人で28.7%、2000年度では392人で31.9%とほぼ3人に1人が東大卒だった。

中でも2010年度ごろまでは東大法学部卒がキャリア職の試験に合格するのが当たり前だった。だが、同年度以降ごろから、東大卒合格者の比率がじりじりと下がり、代わりに私立大学、地方大学が増える傾向になっている。

ではなぜ、東大生の国家公務員試験離れが起きているのか。東京大学に問い合わせてみたが、「大学としてコメントすることはない」という返事だった。

大蔵省の不祥事

「霞が関」不祥事の歴史を遡ると、いわゆる「バブル経済」の崩壊を受けて、1995年に住宅金融専門会社の不良債権問題(いわゆる住専問題)が表面化、この処理で公的資金を投入することになり、大蔵省(現在の財務省)の金融行政への信頼が大きく揺らいだ。これに追い打ちをかけたのが、98年に大蔵省の官僚7人(同省4人、同省出身の証券取引等監視委員会の委員1人、日本銀行1人、大蔵省OBの公団理事)が逮捕、起訴された接待汚職事件、一般には「ノーパンしゃぶしゃぶ」と呼ばれている事件だった。この事件の責任を取り当時の三塚博大蔵大臣と松下康雄日銀総裁が引責辞任に追い込まれ、大蔵省の解体の引き金になった大事件だった。

中央官庁の中では最高位に君臨した大蔵省は各省庁の予算を査定する権限を持っているため、他省庁とは別格だった。2つの事件が起きる前までは、同省の言うことに従っておけば間違いないという「大蔵神話」が金融・証券業界では根強かった。しかしこの事件で大蔵省は信用を失墜、「役人の中の役人」とプライドを持っていた大蔵官僚も落ち目になった。

その後も「霞が関」の不祥事は、これでもかというほど続いている。その極めつきが、昨年発覚した財務省の公文書改ざんだった。同省の局長クラスが国会で行った答弁をみていた学生がどう思ったかは分からないが、言えることは官僚の頂点と思われていた財務省官僚も忖度政治にまみれていたことだ。トラブルは財務省だけにとどまらない。文科省も民間の英語試験導入で土壇場見送りを決め、厚労省は毎月勤労統計の統計数字ミス、障害者雇用数の水増し放置など、頻発している。

熱気がなくなった説明会

中央官庁に就職すれば国政の中核を担い、自分の能力を発揮できると夢を抱いていた東大生もこれでは「霞が関」に就職しても将来希望が持てないと思うかもしれない。

しかも最近はグローバル化の影響もあって民間企業の待遇が良くなっている。給料面だけでなく残業時間などすべての職場環境が恵まれている外資系、大手商社、コンサルタントなどにどうしても目移りするのではないか。最近の学生は、これまでリポートしてきたような長時間労働で待遇の低い「ブラック」職場に対しては、敏感に拒絶反応を示すという。

某省の東大卒採用担当者は、昨年行った東大学生への説明会で、10年前に自分が肌で感じたような熱気が感じられなかったと嘆いていた。

10年前の説明会では「国家公務員になれるのかな」という期待が膨らむ熱気が会場に充満していたという。ところがこの採用担当者が司会をした説明会では、キャリア志望の強い学生はいたが、それは参加者の一部で、かなりの学生は「のぞいてみてみようか」という程度で、会場から伝わって来る「東大卒だから国家公務員になろう」というエネルギーは乏しかったようだ。

財務省は相変わらず東大卒中心

ここまで見ると、「霞が関」から東大卒キャリアは減っているのかと思うかもしれないが、実はそうではない。今まで見てきたのはあくまで、「総合職試験」の合格者レベルでの比較。国家公務員になるためには、試験に合格してから希望する官庁を訪問して、3回ほどの面接に臨まなければならない。これをパスして初めて内定をもらえる。

ちなみに財務省の17、18、19年度の内定者のうち7~8割近くが東大卒で固められている。この3年度のキャリア採用人数はいずれも22人。17年度はこのうち東大は16人で、次は慶応の2人。18年度は15人が東大で、3人が一橋大、19年度は東大が17人、次は慶応の2人。この中で女性は各年度6人ほど採用している。圧倒的に東大が多く、この傾向は今も昔も変わっていない。

経産省も半分ほどが東大で、大学で選んではいないとは言うものの、やはり東大志向が根強い。これだけ「霞が関」が不祥事でたたかれても、財務省、経産省などいくつかの中央官庁では「東大ブランド」が厳然と生きているということだ。

合格者と内定者の中身を詳しくみてみないと分からない面もあるが、地方出身者の場合は試験には合格しても実際には官庁訪問するなどして面接にまで行かない学生が多くいる。内定者レベルでみると、結果的には東大を筆頭に京大、慶応など有名大学出身者が多くなっている。採用する側に東大志向が依然として強くあるのは確かで、東大生にその気があれば「霞が関」で活躍できるチャンスは十分あるとも言えそうだ。

早大生は都庁志向

私立大学の傾向はどうかと思い、早稲田大学に聞いてみると、キャリア試験の出願者数はここでも減少傾向で、合格者は17年度が123人、18年度が111人、19年度が97人と漸減している。このうち実際に「霞が関」に就職したのはほぼ半数くらいとみられる。早大としては学生に対しては自主性を重んじる同大学の基本精神から、特別な受験対策はしていない。

早大キャリアセンターの荻原里砂課長は「公務員で早大生の最も多いのは東京都庁へ就職で、毎年80人ほど入っている。その次は東京23区役所、学生の出身地の県庁などが多い。中央の政治にかかわれなくても、地元の行政に参加できることで、やりがいを感じているのではないか。『霞が関』は仕事がきつく不祥事が多いことなどで、学生のイメージが悪くなっている。中央官庁による説明会を開いても依然と比べて参加者は2割ほど減っている。民間ではIT、コンサルタント、大手商社など人気があるようだ」と話す。

早大生は「霞が関」は敬遠して、都庁を始めとした地方自治体志向が強いようだ。

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