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新型肺炎「自己防衛策」どこまでセーフ?どこからアウト?

1月29日、大阪市内で医薬品を大量に抱える中国人観光客

 猛威を振るう新型コロナウイルス。もし、訪れた場所や会社内で、咳き込む人がいたら、どうすればいいのか――。

 もちろん、人種差別や、過剰な隔離は許されない。そこで、波多野進弁護士(同心法律事務所)と藤川久昭弁護士(クラウンズ法律事務所)の2人に、「法律的にこれはセーフ? アウト?」を判断してもらった。

●議題(1)咳をしている中国人の客を「入店拒否」できるか?

「『中国人お断わり』と貼り出すのはもちろんアウト。しかし、明らかに体調が悪いと判断できる客なら、店側が断わることも可能でしょう。

 その場合、『伝染するおそれのある疾病をお持ちの方は、ご入店をご遠慮いただきます』と、入口などに “お知らせ” を出しておくべきです」(藤川氏)

 波多野氏も同様の見解だ。

「『体温が37.5度以上』など、明確な基準が定めてあるかどうかが重要です。その基準を示し、『感染が疑われる症状を示していると判断できるので、お引き取り願えますか』とお客に伝えることが、ギリギリセーフなラインです。

 店側に、『ほかのお客や従業員の健康を守るため』という正当な目的や義務もあり、公益性・公平性があれば、セーフといえます」(波多野氏)

●議題(2)中国人客が多い職場(百貨店など)で、上司から「マスクは着用禁止」と言われた。従う義務はある?

「『従業員が安全に働ける』環境を整えるのは、会社側の義務。たとえ就業規則に、『マスクの着用禁止』という項目があっても、従業員の安全が優先されるべきでしょう」(波多野氏)

 しかし、会社が強く出てくる場合もあるという。

「職場の決まりごとに違反すれば、懲戒処分などを受けることもあります。とはいえ、それが無効になる可能性も十分にあります。

 対抗策としては、上司に『労働契約法の安全配慮義務に違反しますよ』と言うことです。ただ、そこで話がもつれれば、裁判ということもあり得ます」(藤川氏)

●議題(3)自分が経営する店に、「武漢からの帰国便を俺が操縦した」と言うパイロットたちが……。彼らを退店させられる?

「そんなことを吹聴されたら、『この店には感染者がいる』のではないかという不安を与えることになって、店にとっては営業妨害です。

 あくまで店の判断ですが、『ほかの客を不安にさせないで』と、退店をうながすことはできるでしょうね」(波多野氏)

●議題(4)飲食店で、近くの席に咳をしている中国人観光客がいたら、「席を替えて」と頼める?

「頼むことはできます。『隣の席に喫煙者がいるから、席を替えて』と頼むのと同じです。ただ、店側にはその要望に応じる義務はなく、そこは店側の対応次第。新幹線や飛行機の座席でも同じです。空席があれば、替えてもらうように求められます」(波多野氏)

 客としてできるのは、せいぜい “お願い” までのようだ。

「客が、穏やかにお願いすることは問題ないですが、絶対にやってはいけないことは、『中国人だから』とか、特定の国籍、人種の方に対する偏見を持つことです」(藤川氏)

●議題(5)咳をしている友人と会ったら、新型肺炎に罹患した! 損害賠償請求はできる?

「その友人が、新型コロナウイルスに感染していたことが明らかで、その友人自身も感染を自覚している(または自覚しうる)ならば、請求できる可能性はあります。しかし、その2つを立証できなければ、認められないでしょう」(波多野氏)

「マスク」と書かれた段ボール箱に、もたれかかる男性

●議題(6)会社が社員に、「最近武漢に行った家族がいるか」を強制調査することはできる?

「業務命令として、回答を求めることは可能です。拒否されれば、軽い懲戒処分などなら下せるでしょう。調査をおこなう理由を説明し、納得させたうえで答えてもらうのが適切です」(藤川氏)

●議題(7)「今は人込みに出たくない」という理由で、勝手に在宅勤務することはできる?

「感染が拡大する状況によります。東京や大阪のような大都市で、パンデミック(感染爆発)という事態になれば、在宅勤務にも妥当性があるといえます。しかし、現段階では無理だと思います」(波多野氏)

 だが、食い下がってみる価値はあるようだ。

「許されない可能性が高い。ただ、在宅勤務や交通費についての規定がもともと定められていれば、認められる場合もあります。安全配慮義務などの観点から、上司や人事担当者に対して、説得を試みる価値はあります」(藤川氏)

●議題(8)満員電車で通勤したくないので、タクシーか自家用車で通勤したい。その費用を会社に請求できるか。

「これも、感染拡大の状況次第。『満員電車に乗ることが危険だ』とされるなら別ですが、現状では難しいと思われます」(波多野氏)

●議題(9)中国人社員の自宅に、中国から家族が避難してきた。その社員を出社停止にできる?

「たとえば、その家族が武漢から逃げてきて、新型肺炎の症状が出ている人がいる場合なら、潜伏期間のうちは、自宅待機命令を出すことに問題はないでしょう。逆に、対処をせずに社内で感染が広がれば、会社が責任を問われることになりかねません」(波多野氏)

●議題(10)職場の士気を上げようと、全員参加の飲み会を予定していたが、部下が「今は人が集まることは避けるべき」だと言う。参加を強制してもいい?

「そもそも飲み会の強制は、パワハラに当たる可能性があります。ウイルス感染について敏感な現状では、なおさら強制はできません。飲み会以外の方法を考えて、職場の士気を上げるべきです」(藤川氏)

●議題(11)新型肺炎に罹り、ほかの社員にうつすなどして、職場に感染を広げた場合、自分は会社に訴えられてしまうのか?

「自分が感染していることをわかっていながら出社していたとしたら、アウトです。損害賠償請求を受けることもありえます」(波多野氏)

●議題(12)タクシー運転手は咳をしている客を乗車拒否できる?

「入店拒否のケースと似た話ですが、タクシーの場合だと、『道路運送法』によって、乗車拒否が許されない原則があり、入店拒否のケースより乗客からクレームを言われる危険が高く、タクシーの運転手さんは、断るべきかどうかむずかしい立場に置かれてしまうと思います」(波多野氏)

●議題(13)自分の子供が通う学級に、新型肺炎患者が発生した都市から中国人の子供が転入してきた。学級閉鎖を求められる?

「繰り返しますが、『中国人だから』ということを理由にすることは許されません。判断材料となるのは、その子供が感染しているかどうか。

 ただその場合、学級閉鎖よりも、疑わしい症状がある子に休んでもらうほうが現実的といえるでしょう」(波多野氏)

 2月1日、新型コロナウイルスによる肺炎を、感染症法上の「指定感染症」とする政令が施行された。だが、労働関係の法律では、感染症についての基準が曖昧だという。

「自分自身で、勤め先の就業規則などの関連規定を参照するのが大切です。不安を持ったら、弁護士などに相談しましょう」(藤川氏)

 パニックにならず、「正しく怖がる」ことが、いちばんの対策なのだ。

(週刊FLASH 2020年2月18日号)

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