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【107カ月目の双葉町はいま】「町をどうやって存続させるか」伊澤史朗町長が都内で講演。何度も「前向き」語って自らを鼓舞?「われわれの地区はチェルノブイリとは違う」とも

福島県双葉郡双葉町の伊澤史朗町長が3日夜、都内で講演し、3月4日の避難指示部分解除を控えた現在の想いなどを語った。町民への意向調査では「戻らないと決めている」との回答が6割に達するなど状況は厳しいが、「こういう状況だからこそ、何かしなくちゃならない。前向きに行くしか無い」として、常磐道ICのオープンやJR常磐線再開、そして聖火リレーを起爆剤に〝復興〟と住民帰還を進めたい考えを示した。「前向き」に終始し、「ネガティヴな報道ばかり」と語った講演を町民はどのように受け止めるのか。青年法律家協会東京支部の主催。



【「放射線は正しく怖がれ」】

 伊澤町長は3月27日で62歳。麻布獣医科大学獣医学部を卒業し、1989年に「イザワ動物病院」を開院した。2003年から双葉町議会議員を務め、2013年3月10日の町長選挙で初当選した。現在2期目。

 講演では、町の面積51・42平方キロメートルの実に96%が帰還困難区域に指定されている事(残りの4%は避難指示解除準備区域)。地震と津波で道路が使えず、やむなく6時間かけて川俣町に避難したが放射線量の高い地域へ避難してしまった事。就任直後に帰還困難区域と避難指示解除準備区域の賠償額の格差問題に直面し、浪江町の馬場有町長(当時、故人)と共闘して国と交渉した事などが語られた。

 そして今春、双葉町に対する避難指示が部分解除される。

 「帰還困難区域は戻れないので放っておうこというエリアでした。ところが2017年5月に福島特措法が一部改正され、期間困難区域であっても5年を目標に放射線量の低減や生活インフラの整備など、国費で住民が戻れるような環境整備をする事になりました。そこで双葉町が2017年7月に先陣をきって特定復興再生拠点区域を申請しました。555ヘクタールの整備を進めています」

 「おかげさまで今年3月4日に避難指示準備区域の避難指示が解除し、駅周辺など通行に関して規制緩和をして復興を進めようとわれわれは判断したわけです。3月7日は常磐道・常磐双葉インターチェンジがオープン。14日にはJR常磐線が全線開通します。まず人の出入りを自由にさせましょう、復興を加速度的に進めましょうと規制緩和をします」

 「特定復興再生拠点になっている中野地区は0・1μSv/hを下回っているくらいです。誤解を受けるかもしれないが、都内より放射線量が低くなっているかもしれません。ここを復興産業拠点にしますが、戻っても仕事がなければ生活出来ないわけですから、雇用創出する場をつくります。現在、16社の進出が決定しています。12月21日には、中野地区内での操業第1号となる『双葉中央アスコン』が火入れ式を行いました」

 ちなみに、浜野公民館のリアルタイム線量測定システムは0・04μSv/h前後。徒歩で30分ほど離れた谷沢町集会所は4・6μSv/hだ。
 「放射線に対する考え方は人それぞれですが、私の考えは『正しく怖がれ』です。絶対に駄目だという事では無くて、絶対安全でも無い。だけど、しっかり注意しなさいよと。あんまりアレルギーに感じても駄目だし、あんまりアバウトでも駄目。その辺のさじ加減だろうと思っています」



双葉町の伊澤史朗町長。町の復興や存続について「ネガティヴに考えてしまうと、何もやらない方が楽なんです。でも、こういう状況だからこそ、何かしなくちゃならない。前向きに行くしか無いんです」などと語った=JR四ツ谷駅近くの「主婦会館プラザエフ」

【「前向きに行くしかない」】

 避難指示の解除や鉄道の運行再開が決して住民の帰還に結びつかない事も現実だ。

 「2017年春に浪江町や富岡町が避難指示解除(帰還困難区域を除く)されましたが、残念ながら住民が戻って来ているかというと浪江町は2万数千人の人口がありましたが1000人ちょっとです。富岡町も約1000人です。一番最後に避難指示を解除する町が、どういう風に町を存続させるか。これは、ある意味挑戦です」

 首長として〝復興〟を進めなければならない自分に言い聞かせるように、伊澤町長は「前向き」という言葉を何度も口にした。

 「昨年秋の意向調査。戻りたいと考えている人が約1割。逆に戻らないと決めている人が6割もいるんです。たった1割しか町民が戻らないのに町を残せるのかと言われると答える術はありません。でも、戻るという人がいる限り、町は戻るための努力をしなくちゃならない。非常に厳しい状況です。ネガティヴに考えてしまうと、何もやらない方が楽なんです。でも、こういう状況だからこそ、何かしなくちゃならない。前向きに行くしか無いんです。そういう風な事で取り組んでいます」

 「犠牲になったから犠牲になったからと思ってしまう問い前に踏み出せないと思います。こういう状況だからこそ光明というか前に踏み出して改善して以降という想いが必要なんだろうと思います」

 「言葉は悪いが、われわれがまず戻って自らが体験して、若い人に問題無いという事を示す事が大切なんだろうと思います。避難指示が解除されたら私も当然、町に戻ります」

 筆者は聖火リレーや〝復興五輪〟について尋ねたが、それへの答えも「前向き」だった。

 「聖火ランナーが走って本当に復興なのか、と言う町民もいて然るべき。一方で、ここまで線量が下がって、住む事が可能な地区が出来て来たという事は1つの明るい話だと思っています。〝復興五輪〟だと国は言っています。じゃあ、復興って何なんですか。100年以上戻れないだろうと言われていた双葉町が戻れる可能性が出て来たというのはある意味〝復興〟だろう捉えています。

前向きに考えて行きたい。われわれにそういう想いが無ければ復興出来ないでしょう。あきらめました、やめました、線量高いから帰りません、ではチェルノブイリみたいになってしまいます。われわれの地区はチェルノブイリとは違うんですよという事を日本は世界に発信するべきでしょう」



避難指示の部分解除とJR常磐線の全線開通。そして聖火リレー。それらを起爆剤に、伊澤町長は町民の帰還を促したいと考えている

【「ネガティヴ報道ばかり」】

 講演では、3月6日に公開される映画「Fukushima50」を絶賛する場面もあった。
 「今日たまたま、こちらに来る前に試写会がありました。原発事故の時に命がけで被害を最小限に抑えようという東電の吉田昌郎所長以下、現場で頑張ってた人たちの映画なんです。われわれが思ってた以上に大変な取組を彼らはしていたんだなと思いました。命を落とすかもしれない危険を顧みず、メルトダウンを防ぐための取り組みを命が手でしていたというのを涙を流しながら観させていただきました」

 質疑応答で東電に対する想いを尋ねられた伊澤町長は、再び映画を引き合いに出しながら、こう語った。

 「自分の中で常に波があるんですよね。『東電この野郎』と思っている自分がいて、一方で命がけで頑張った連中もいる。東京電力ホールディングスに対しては、腹の中はどろどろマグマのように整理がつかない想いがあります。でも、ある意味感謝している部分もあります。加害企業の社員に感謝する必要など無いだろうと言う人もいるかもしれませんが、彼らが命がけで頑張ったおかげで町に戻れる可能性が出て来たというのは事実だと思っています。頑張った連中がいたという事は、事実は事実として認めたい」
 一方で、メディアへの注文も忘れなかった。

 「復興した双葉郡、双葉エリアをを皆さんにどのように見ていただいたら良いだろうか。双葉町が最後の避難指示解除をする自治体ですので、ヨーロッパのメディアの方々が結構来ています。そういった方々に良い所も悪い所も隠さずに見てもらって復興の姿を見てもらいたいとやっていますが、残念ながらネガティヴな報道だけになっているように感じます」

 そして、最後まで東電への直接的な怒りはあまり口にしないまま、こんな表現で講演をしめくくった。
 「立場上言って良い事と悪い事があるので、個人としての想いと公人としての想いは複雑で、だいぶ正直に話しているつもりだが、そこは、好きな言葉では無いが『忖度』していただきたい」
 講演会は、青年法律家協会東京支部が主催。弁護士のほか、筆者や朝日新聞記者が取材した。

(了)

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