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新型肺炎で中国を露骨に擁護するWHOトップのバランス感覚

「緊急事態にはあたらない」と判断を見送っていたが…

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、WHO(世界保健機関)は1月30日夜(日本時間31日未明)に緊急の委員会を開き、テドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。


表敬に訪れた世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長(左)と握手する安倍晋三首相=2017年12月14日、東京都港区の東京プリンスホテル - 写真=時事通信フォト


テドロス事務局長は記者会見で、「感染が中国以外にほかの国でも拡大する恐れがあると判断して宣言を出した」と語り、次の5点を強調した。

(1)貿易や人の移動の制限は勧告しない
(2)医療体制が不十分な国々を支援する
(3)ワクチンや治療法、診断方法の開発を促進する
(4)風評や誤った情報の拡散に対策を採る
(5)患者感染者の病理データを共有する

WHOは1月22日と23日にも緊急の委員会を開いていたが、「緊急事態にはあたらない」と判断を見送っていた。

緊急事態宣言は、2009年のブタ由来の新型インフルエンザ、2014年のポリオ、昨年7月のアフリカ中部でのエボラ出血熱のアウトブレイク(地域的感染拡大)などに対し、これまでに計5回出されている。

アメリカは渡航警戒レベルを最高の「禁止」に引き上げ

新型コロナウイルスに対するWHOの緊急事態宣言を受け、中国との間で出入国を制限する動きが広がっている。

アメリカは中国全土への渡航警戒レベルを最も高い「禁止」に引き上げた。さらに過去14日以内に中国に滞在した外国人の入国を2月2日から拒否している。事実上の中国人の出入国の拒否である。中国を敵視するドナルド・トランプ大統領らしいやり方である。

シンガポールやオーストラリア、ニュージーランドも同様の入国拒否を始めている。韓国も中国全土への渡航の制限をスタートした。ロシアは中国国境の検問所を閉鎖して車や列車、歩行者の通行を禁じた。フィリピンも中国武漢からの入国を禁止した。

日本は2月1日から過去2週間以内に中国湖北省に滞在歴のある外国人の入国を拒否している。特定地域を指定した入国制限は初めてで、これも中国人に対する入国拒否である。

中国との間で出入国の制限を行っている国は、すでに60以上におよんでいる。異常な事態である。

「自分たちさえ感染しなければそれでいい」が世界に蔓延

もちろん、感染症対策の基本は「移動の禁止」と「患者感染者の隔離」だ。しかし新型コロナウイルスに対し、ここまでやる必要があるのだろうか。バランス感覚を失っていないか。本来なら、医療知識のある専門家や医療器具、医薬品などの医療資源を中国に送ることが、優先されるべきだと思う。

いま世界各国は「自国第一主義」に大きく傾いている。トランプ大統領のアメリカがその象徴例だ。自分たちさえ感染しなければそれでいいという考え方が世界に蔓延(まんえん)しつつある。

その結果として感染症対策で自国優先に陥る国が増えている。新型コロナウイルスの感染対策の背後に横たわる自国第一主義のいびつさを意識するべきではないだろうか。

中国の肩を持つ発言を繰り返すWHO事務局長

いびつな動きは中国にもある。WHOは緊急事態の宣言を見送る一方で、テドロス事務局長がわざわざ中国を訪問して習近平(シー・チンピン)国家主席らと会見し、まるで中国の肩を持つような発言を繰り返している。

テドロス氏はアフリカで最も中国に近いといわれるエチオピアの出身だ。エチオピアで保健大臣や外務大臣を歴任し、2期10年間務めた香港出身のマーガレット・チャン氏に代わって、2017年7月からアフリカ初の事務局長となった。任期は2022年7月までの5年間だ。

前任者であるチャン氏は、鳥インフルエンザ(H5N1型)と新型インフルエンザ(H1N1型)の制圧で国際的に評価された人物である。

産経社説は「司令塔には不適格。更迭を」と事務局長を批判

WHOのテドロス事務局長に対し、産経新聞が1本の大きな社説(主張、2月1日付)で「不十分な緊急宣言 WHO事務局長の更迭を 政府は独自判断をためらうな」との見出しを掲げ、厳しく批判している。

「テドロス氏は中国から巨額インフラ投資を受けるエチオピアの元保健相・外相だ。感染当事国と向き合い『公衆衛生上の緊急事態』に対処する司令塔には不適格であり、更迭を求めたい」

見出しも本文も、「更迭」という言葉を使っている。日本の新聞社が更迭を求めてもWHOをはじめとする国際社会はなかなか動かないだろう。産経社説はそれを知りながらあえて主張している。これだけ踏み込んだ書き方をすれば、返り血を浴び、国際世論の反発を招く恐れもある。捨て身の立派な主張である。

産経社説は「封鎖された武漢から帰国した日本人や外国人からも、感染が確認されている。多くの関係国が、現地に残る自国民を至急帰国させるため、チャーター機派遣の交渉を中国政府と続けている」と書いた後、テドロス氏と中国の習近平国家主席とのやり取りをこう指摘する。

「そうした中で習近平氏は28日、北京を訪問したテドロス氏に『WHOと国際社会の客観的で公正、冷静、理性的な評価を信じる』と語った。WHOの対応に慎重な判断を求めたものだ」
「テドロス氏は『WHOは科学と事実に基づいて判断する』と応じ、『中国政府が揺るぎない政治的決意を示し、迅速で効果的な措置を取ったことに敬服する』と称賛した」

出身国のエチオピアと中国には「特殊な関係」がある

習氏の求めた慎重な判断とは、緊急事態宣言の見送りだ。そんな習氏と中国政府を褒めたたえるテドロス氏。この2人にはあきれる。世界各国の人々の健康を守るのがWHOの役目である。それが政治的な力学で動いてしまうのであればどうしようもない。

さらに産経社説は書く。

「テドロス氏の出身国エチオピアと中国には、『特殊な関係』がある。鉄道や電力供給などで中国からインフラ投資を受けるエチオピアは、巨大経済圏構想『一帯一路』のモデル国家とされる一方、膨大な債務にも苦しんでいる」
「テドロス氏は2012~16年に外相を務めて中国との関係を深めた後、前任の香港出身のチャン氏の後を継いでWHO事務局長に就任した」
「公衆衛生上の危機に厳格に対処する国際機関のトップとして最も重要な中立性は、当初から疑われていた」

産経社説が指摘するように、WHOは中立でなければいけない。それにもかかわらず、WHOのトップは「自分さえよければいい」という考え方に傾いているようにみえる。

「WHOに信用がおけない」「日本政府は依拠すべきではない」

これまで産経社説は「日本第一主義」を主張し、トランプ氏らの自国第一主義を肯定してきた。だからだろう。今回の社説も、最後はこう主張している。

「WHOに信用がおけない以上、日本政府はこの判断に依拠すべきではない。政府はWHOの緊急事態宣言を受けて、『指定感染症』の政令施行を7日から1日に前倒しした。宣言を待たず、独自の判断で迅速に施行すべきだった」
「WHOが渡航制限勧告を見合わせても、米国はすでに中国全土への渡航について最高ランクの『渡航中止』に引き上げている」
「問われているのは、極めて緊急性が高い危機管理である」
「政府には、これに長けた米国と緊密に連携して国民の保護と感染の抑え込みに当たることが求められている」

対策を強化すればするほど、誤った情報やデマが流れる

確かに危機管理では先手先手で対策を採ることが重要だ。だが、新型コロナウイルスの流行は、本当に「極めて緊急性が高い」事態なのだろうか。エボラウイルスのように致死率の高いウイルスが襲来しているわけではない。冷静に判断するべきではないか。

国家権力は強大だ。防疫対策の基本となる移動の禁止や隔離を命じることもできる。しかしそうした対策を強化すればするほど、差別が生まれ、誤った情報やデマが流れる。風評被害も多く発生する。それは明治から平成まで続いてきた旧伝染病予防法と同法に基づいた隔離重点のハンセン病(らい病)対策の失敗を振り返れば明らかだ。

隔離や移動の制限の実施は、正確な情報に基づき、慎重に決めていく必要がある。安倍政権は強制入院の措置が取れる「指定感染症」の決定について、専門家会議を開かずに官邸主導で決めた。感染症の専門家からは批判の声もあがったが、「安倍1強」の前に一笑に付された。新型コロナウイルスよりも「安倍1強」のほうが恐ろしいと思うのは筆者だけだろうか。

感染症対策ではバランス感覚を欠いてはならない。意思決定の際には、そのことを肝に銘じるべきだ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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