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部落差別に苦しみ続けた女性 大人になって文字を身に付けて得たこと

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京都市内の被差別部落に生まれ育った女性(88)が、部落問題に関係する研究者や被差別部落出身の若者らと向き合った鼎談集『いま、部落問題を語る 新たな出会いを求めて』(生活書院)を出版した。幼少期は貧しい暮らしを余儀なくされ、小学校ではいわれなき差別に苦しんだ。

卒業後には社会に出て働き始めたものの、文字の読み書きが不自由な点にずっと悩まされた。それでも、子育てのかたわら40歳で文字を本格的に学び始め、69歳で立命館大学文学部二部に入学。自由に表現する力を手にした今、女性は自らの人生を書き残すことを使命と考えるようになった。「様々な立場の人への差別が横行している今、本を読んだ人が“差別とは何か”と立ち返るきっかけになれば」。著書にはそんな願いを込めた。

『いま、部落問題を語る 新たな出会いを求めて』を出版した山本栄子さん=2019年11月30日、京都市で

「部落の子は」とさげすまれた幼少期 満足に学校に通えず

女性は山本栄子さん。1931(昭和6)年に京都市内の被差別部落で生まれた。母親のおなかにいた時に両親は離婚し、日雇いで生計を立てていた祖父母が私生児として育ててくれた。生活環境は厳しかったものの、祖父は頑固な性格だったが下駄直しに汗を流し、わらじ編みの祖母は温厚な性格で優しく接してくれた。6歳になると尋常小学校に入学したが、直面したのは過酷な差別だった。

当時の教科書は有料で、山本さんは同じ部落の知り合いなどから譲り受けた教科書をなんとか持参して学校に通っていた。それでも、家計に余裕はなく、教科書や道具を用意できないこともあった。すると、教師からは「これだから部落の子は」とさげすまれた。

時には部落の子どもを集めて教室の隅に集められ、お金が無くなるなど問題が起きれば犯人扱いされるのはいつも部落の子どもだった。教師からも露骨な差別を受けた時代、満足に学校に通えないまま11歳で尋常小学校を卒業。金網工場で働き、なんとか生計を立ててきた。

貧しい暮らしの中、文字を自由に扱えないもどかしさが増した

文字を自由に読み書きできないもどかしさを常に抱えてきた。広告のチラシの裏に見様見真似で筆を落としてみるが、どう読むのか、何を書いているのかが分からない。「文字を取り返したい」。そんなジレンマを抱えながら、日々余裕のない暮らしを乗り切ることで精いっぱいだった。

京都市外の被差別部落出身の男性と24歳で結婚、その3年後には子宝を授かった。「なんとか子どもにはしっかりとした教育を受けさせたい」。子育てに追われる日々で、山本さんの今後を変える出会いがあった。

部落解放同盟中央集会であいさつする朝田善之助中央委員長=1967(昭和42)年10月19日、東京・日比谷公会堂(共同通信社)

全国各地の被差別部落で、生活環境の改善や差別の解消に向けた動きが盛り上がっていた1960年代。府内の被差別部落の若者たちが地元を訪れて、行政への要望や生活状況の聞き取りといった学習会を開いていた。そこに参加するようになった34歳の時だった。京都出身の部落解放運動家、朝田善之助の存在を知った。

「差別をなくすのは自分」 部落問題を考える中での気づき

なぜ自分たちばかりが差別に遭い、いじめられるのかーー。

子どもの頃に漠然と抱いたそんな疑問は年を重ねるにつれ、少しずつだが確かに解消されていった。でも、学習会に加わって強く感じたことは「差別をなくすには自分が立ち上がらねば」との覚悟だった。

ちょうど、そんなころだった。子どもが小学校から持って帰るプリントには、保護者に向けた重要な情報も含まれていた。同じ被差別部落の母親と話し合っていると、みなが共通の悩みを抱えていた。「子どもが持って帰るプリントが読めない」「先生と話が成り立たない」。母親になってもなお、文字の読み書きが不十分なことがもどかしかった。

これまでを振り返ってみれば、字が読めないことで様々な困難にぶつかってきた。買い物に出かけても買いたいものが見つけられず、市バスに乗るのにも苦労した。

子どもが通う小学校に頼み込んで、教員に識字教室を開いてもらうようになった。場所は山本さんの自宅。週1回、夜に母親仲間が集って、ひらがなや小学校1年向けの漢字に始まって一心不乱に学び続けた。「文字とは生活そのもの」――。文字を身に付けるにつれて痛感したことだった。

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