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習主席来日 論議呼ぶ「国賓」扱い

(リベラルタイム 2020年3月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿


中国の習近平国家主席の国賓来日に反対する意見が出ている。沖縄県・尖閣諸島海域での中国公船による領海侵入の増加や新疆ウイグル自治区をはじめとする人権問題、根拠不明の邦人拘束、強大な軍事力と経済力を背景に覇権国家を目指すこの国の姿勢を批判してのことだ。

ことさらに異議を唱えるつもりはないが、だからと言って日本がどこかに引っ越す訳にもいかない。歴史的、経済的に切っても切れない両国の関係は、グローバル化が進む中で一層、強固にもなっている。

三十年以上、中国との交流事業に携わってきた筆者の実感で言えば、現代中国は共産党が支配する王朝であり、秦の始皇帝が紀元前二二一年に初の統一国家を樹立して以来、易姓革命による王朝の交替はあったものの、その本質は何も変わっていない。国民の多くも二千年以上続くこの体制に慣れ親しみ、居心地の良さに満足している感じさえする。

ともすれば融通が利かない固いイメージが付きまとうが、理屈とメンツを尊ぶ国であり、大抵の問題は時間の経過とともに改善される。ただし、「核心的利益」と位置付けられる安全保障や領土問題とは別だ。その典型が、二〇一二年九月十一日に民主党・野田佳彦政権が魚釣島、北小島、南小島の三島を二十億五千万円で購入し国有化した沖縄県の尖閣諸島問題だ。

同年四月に石原慎太郎・東京都知事が打ち出した都による買い取り方針に対する中国の反発を和らげるのが狙いだったが、現実には激しい反日デモが起き、野田首相の思惑は外れた。一因は、ロシアのウラジオストクで開催されていたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議の会議場前廊下で、国有化二日前の九月九日に行われた中国の胡錦濤国家主席と野田首相の約十五分間の立ち話にあった。

ここで胡主席は「尖閣の国有化はやめてほしい」と要請、野田首相は「大局的見地から判断したい」と答えたと報道されている。しかし、長年の知人である李肇星・元外務部長(外務大臣)の証言によると、実際には「国有化を待ってほしい」と言ったのだという。中国では翌十月の共産党大会で胡主席から習主席への政権移譲が決まっており、胡主席としては、この後どう影響力を保持するか、極めて微妙な時期で、しばらく時間をくれるよう野田首相に頼んだのだというのが真相のようだ。

APECに先立ち、当時の山口壮外務副大臣が北京を訪問、外交担当の戴秉国・国務委員に国有化方針を説明し、戴氏が何も言わなかったので山口氏は理解が得られたと判断、その旨、野田首相に報告したとも言われ、野田首相には日本の方針が中国側に理解されている、との思い込みがあったと思われる。わずか二日後の国有化発表で、胡主席のメンツはつぶれる結果となり、中国メディアの激しい対日批判とともに、以後、中国全土で官製の反日デモが吹き荒れることになった。

日中間の問題について中国側は決まり文句のように「すべての責任は日本にある」というが、実際には “ダメでもともと”の考えで日本攻撃を仕掛けている面がある。従って尖閣諸島海域での中国公船の活動が今後、減るとは考えにくい。

だからと言って、習国家主席を国賓で迎えるのを拒否しても何も始まらない。安倍晋三首相は「(日中関係は)完全な正常な軌道に戻った」と語り、昨年十二月、人民大会堂で習国家主席と会談した際には、「国賓訪日を有意義なものにしたい」とも語っている。国賓、あるいは国賓待遇を見送るのは、首相の約束を反故にするばかりか、相手のメンツをつぶすことにもなる。粛々と国賓として迎え、少しでも本音で語り合うことが、両国民の相互理解につながる。そのためにも一層の民間交流が欠かせない。

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