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プロ10年目の斎藤佑樹は今年も「鈍感力」で引退説一蹴 - 新田日明 (スポーツライター)

気が付けば今季でプロ10年目を迎えることになっていた。日本ハム・斎藤佑樹投手のことだ。2010年10月のドラフトで4球団から1位指名され、くじ引きの末に交渉権を勝ち取った日本ハムへ入団。あれからもうそんな年数が経っていたのかと、あらためて多くの人が思っているはずだ。

そりゃあ、そうだろう。プロ入りしてから、ここまで輝きを放ちかけた時期はあったが、それもせいぜい最初の1年余り。以降は記憶に残るような活躍を遂げられず、重要な戦力になっていない。皆が辟易しているから、斎藤に関してはもう時間の経過を気にすることがなくなっている。

(krispetkong/gettyimages)

沖縄・名護で2月1日からスタートしたチームの一軍キャンプメンバーに入った。初日からブルペン入りし、各メディアで話題に取り上げられると「とにかく結果です」と言葉に力を込めた。

しかし、これも今やキャンプの風物詩だ。本人には申し訳ないが、もう誰も信用していない。何年も同じようなセリフを口にしながらシーズンに入れば結局、期待を裏切る。まるでイソップ物語の「狼少年」を彷彿とさせる大言壮語を繰り返していれば、それは次第に失笑を買うことへとつながっていく。

だが不思議なことに斎藤はこれだけのバッシングを浴び、バカにされて嘲笑されながらも柳に風だ。並の人間ならば、気が滅入って自らプロ野球人生にピリオドを打つ選択をしそうなものである。これまで取材をしている中、NPB球団に所属する選手から斎藤について「絶対にマネできない」「自分ならば、とっくに辞めている」などと評する言葉を幾度となく聞いた。そのほとんどは悪口ではなく周囲の反応をまったく気にしないという、ある意味において斎藤が強靭なメンタリティーの持ち主であることに関心を抱くものだった。

そもそも彼はいつから、こんなキャラクターになったのだろうか。ルーキーイヤーの2011年にローテーション5番手に加わって6勝6敗、防御率2・69をマークしたのが自己ベスト。2年目は開幕戦で埼玉西武ライオンズを相手に9回1失点と初完投勝利を飾り、4月には初完封と勢いを増していったが、同年の6月中旬以降から突如としてスランプにハマり込むと、ここから段々と「ハンカチ王子」の一挙一動は何かとディスられる対象になっていった。夏場頃、右肩に違和感を覚えていたが、そのまま我慢して投球練習を繰り返していたことで結果的に患部は悪化。同年のシーズンオフに検査の結果、右肩の関節唇損傷という重大な症状となっていることが判明した

思えば、この大きなケガが運命を暗転させた。実を言えば選手生命にかかわるような負傷だったが、当然ながら周囲はそう簡単に「引退」を許すはずがなかった。当時を知る日本ハム関係者が、こう述懐する。

「あのケガがなかったら斎藤のプロ野球人生は、少なくとも今よりいい方向へ傾いていただろう。それぐらいに致命傷だった。早実3年の時に夏の甲子園決勝で駒大苫小牧を相手にマー君(現ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手)と伝説の再試合の末、投げ勝った国民的スターを球団だってポイ捨てできるわけがない。加えて右肩の関節唇損傷についてはチーム側の発見が遅れたことも悪化の一因につながったことを考えれば公傷と言わざるを得なかった。本人が現役続行を望むなら、最後まで納得がいくまで〝看取って〟いくのが球団としての責務。それが球団としての総意と考えてもらっていい」

こうした話を総合すると、斎藤はだいぶ過保護なプロの環境下で育ってきたようだ。国民的スターとして三顧の礼で迎え入れられたものの、入団から僅か2年目で右肩に致命傷を負う憂き目にあった。そんな不幸な経緯を球団が気遣う余り、いつしか〝治外法権〟のような扱いとなってロクにカミナリすら落とされないまま現在に至った。どんなに酷いピッチングをマウンドで繰り返そうとも栗山英樹監督から怒りをぶつけられないのも、それは球団幹部の意向だからであり、そのすべてがトップダウン方式で降りてくる日本ハムならば当然の流れだ。

前出の関係者は、さらにこうも続ける。

「入団当初から斎藤は先輩たちとの付き合いが、それほど上手いほうではなかった。こんな話もある。1年目の球宴でパ・リーグ他球団の先輩野手がポツンと1人いるルーキーの彼を不憫に思い、数人のメンバーとともに食事の場を設けた。ところが後日、顔を合わせる機会があってもお礼されなかったことに不快感を覚えて以来、口を利かなくなってしまったという話を聞いた。

ルーキーイヤーもチームメートの某先輩投手から当初は可愛がってもらっていたが、何らかの事情ですぐに距離感が生まれてしまったらしい。プロの世界で生きていく上で非常に大切な人間関係についても、このタイミングで誰かが教えてあげることができれば良かったかもしれないが……。ただ斎藤は頭のいい人間なので割と我が強く、なかなか人に頭を下げられないから先輩を敬うことも元来苦手なのかもしれない」

放任され続ける中、右肩関節唇損傷の重傷から回復を遂げ、奇跡的にマウンドへ立てるようになるところまで回復。天国から一度、地獄に落ちかけた男は達観していた。好きな野球でメシが食えるのだから、こんな幸せなことはない。たとえ馬鹿にされようとも、やれるところまでやってみようじゃないか――。年齢を重ねるうちに後輩も増え、チーム内ではベテランの部類に入るようになった。先輩に気を使うことが得意ではない斎藤にとって今はやりやすい環境になってきたようだ。

「何かあると斎藤はネットで批判されるケースが多いが、正直に言って何も気にしておらず逆に『また叩かれてしまいました』と自虐的なネタにしているぐらい。なるほど、そんなことを逐一気にしていたら〝ショートスターター〟なんていう好投しても勝ち星のつかない、特異なポジションに活路を見出す気構えも起きないだろう。あの『鈍感力』は本当に凄いと思う」

どこまで突っ走るつもりなのか注目

周りの反応を一切気にせず、開き直りを決め込む。それが斎藤の「鈍感力」だ。昨年末に結婚を発表し、生涯の伴侶も得た。生活を支えていかなければならないことからも、周りからワーワー言われようが限界ギリギリまで現役にしがみつくつもりなのかもしれない。

一歩間違えば危険な方向になってしまうことも考えられるが、周囲に惑わされない斎藤の生き方は良し悪しを別にして異彩を放つ。特に他人の反応に対し、つい過敏になりがちなビジネスパーソンにとっては多少なりとも興味を注ぎたくなるだろう。その「鈍感力」とともに一体、どこまで突っ走るつもりなのか。注目したい。

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