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本当に生活保護を受けるべきは誰か/片山さつき(参議院議員)、城 繁幸(Joe's Labo代表取締役)、赤木智弘(フリーライター)―後編

※公開日7月17日(火)

前編はこちら

現金給付か、現物給付か


城:システムの矛盾という観点でいえば、私が冒頭で挙げた「二番目の問題点」についても保守・リベラルを問わず多くの識者と問題意識が共通しました。すなわち、日本の生活保護システムは捕捉率が低く、餓死者が年間で数十人も出ているのは先進国としておかしい、というものです。

片山:しかし諸外国と比較すると、日本の状況はまだましですよ。フランスは手厚い社会保障で有名ですが、それでも移民などセーフティーネットからこぼれてしまう人が多く、毎日のようにセーヌ川で、行き倒れになっている人たちを見かねて、民間の「心のレストラン」(生活困窮者に食料を配給する慈善団体)ができたくらいです。

ドイツでもアメリカでも職業訓練やコミュニティーサービスなど、なんらかの義務づけがあり、しかも有期限。とにかく、なんの義務もなく簡単に現金だけ渡すことはしない、というのが世界の常識です。

赤木:ならば代わりに、モノやサービスと交換できるクーポンを渡せばいいかというと、そこにも問題がある。クーポン自体が売買の対象になる可能性もあり、フードスタンプを給付している国では、フードスタンプを半額ぐらいで売っている人もいるようです。そもそもクーポンの給付自体、違憲という議論もあります。結果として生活保護受給者の生活水準が下がってしまうのではないでしょうか。

城:私は現物給付については否定はしません。ただ、現金を渡すことで「バーゲンセールでモノを買う」など受給者が自分の頭で考えて、いろいろ工夫をするようになる。結果的にいえば、現金給付がもっとも効率のよいやり方かもしれない。

片山:国会では消費増税をするタイミングで低所得者対策をすべきかどうか、という議論がなされましたが、これも生活保護と同じで、現金をばらまいてもしようがない。むしろイギリスを参考に、食料品などの生活必需品に軽減税率を導入するなど「節約が可能になる」仕組みをつくることを優先すべきというのが自民党の考え方で、中小・個人事業への記帳支援とセットで、負担のないようにやっていくべきです。

「働いたら負け」という空気


城:税制については思うところがあるのであとで触れますが、私が憂慮しているのが、現在の非正規雇用労働者が50歳以降になったときです。おそらく彼らの少なくない人たちが生活保護受給者になるだろうといわれており、そこで必要になる予算は20兆円を下らない、という試算もある。いま生活保護費が増えているのも、その流れです。就職氷河期の少し前の1992~93年ごろに世に出た人のなかには、非正規雇用として働いている人が少なからずいます。彼らはいま40代後半で、そろそろ非正規の仕事がなくなってきている。

赤木:たしかに不正受給よりも、今後、確実に増えていく彼らをどうするかのほうが問題です。これから40代や団塊ジュニアといったボリュームゾーンの世代で、非正規の仕事がなくなっていく。さらに生活保護受給者が労働させられることになれば労働力供給が増え、限られた非正規の仕事を奪い合うことになるのではないでしょうか。

城:その対策として私が評価しているのは、民主党の提唱する最低保障年金制度や給付付き税額控除です。このようなかたちで生活保護、年金、失業給付を一本化して効率化する、大きなビジョンを示してほしい。一方の自民党は、既存の制度で問題ないとしていますが、これは大きな矛盾ではないか。

片山:非正規労働者の問題は私たちも認識しています。あれは、1995年に日経連と連合が結託した「日本型ワークシェアリング」が始まりで、超円高下で国内に雇用の場をどうやって維持するか、という産業改革の問題だと思っています。

それとは別に、最低保障年金を自民党や私自身が絶対に受け入れないのは、それが保険料をまったく払っていない人でも受け取れる制度だから。最近では民主党が「少し差を付けます」といっていますが、問題の根本的な解決にはなっていない。ただでさえ「働いたら負け」とでもいうような空気が漂っているなかで、それを許せば「働かざるもの食うべからず」をはじめ、これまで信じられていたものがすべて崩れてしまいかねません。

赤木:私はそうは思いません。いま学生たちが就活を一所懸命やるのは、きちんと働いて、自分の生活を成り立たせたいからでしょう。もちろん不正受給を考える人もいるでしょうが、モラルハザードというほどは増えていない。だからこそ河本さんのケースが目立ち、批判が殺到するのではないでしょうか。

そもそも、就活に成功して正社員になれば「勝ち組」というような現状を改善すべきではないか。いまや「正社員の職を得るための条件は、正社員であること」のような状況であり、フリーターや無職はなかなか採用されませんから。

城:難しいところですね。これまでは「行儀のいい優等生」をめざせば就職先が見つかったけれど、今後は「30歳のフリーターが、どうやって安定した職を見つけるか」といった具合に、ロスト(本流を外れること)したところから、いかにサバイバルするかを学ぶことが大事になってくる。そのためにも、キャリア教育を小中学校で行なう必要があります。大学からでは遅い。これは生き方の問題ですから、ある日突然には変えられません。

赤木:サバイバルの方法を教えるのは、職業訓練ではありません。もし訓練の内容を活かそうとすれば、ヨーロッパのように就職の年齢を後ろ倒しにするしかないでしょう。大学を出たら半年ぐらい自分のやりたいことをやり、その後、就職できるようにする。

結局、職業訓練にしても生活訓練にしても、ほんとうに就職するために必要なものが何か、国の理解はかなりズレているのではないか、と思えてなりません。

どうする、これからの再分配


片山:最後に、議論が続いている「社会保障と税の一体改革」においても、自助・自立を基本とした「社会保障制度改革基本法案」(自民党提出)を、民主党はほとんど丸飲みしました。法案の第二項「基本理念」のなかには「社会保障の目的である国民の生活の安定等は自らの生活を自ら又は家族相互の助け合いによって支える自助・自立を基本」とすると明記されています。つまりこの点に関して、民・自・公3党のコンセンサスは取れている。

城:しかし繰り返しになりますが、生活保護制度を議論するうえでは、年金などほかの再分配制度とのバランスを考えなければならない。私が不安に思うのは、政府にそのようなビジョンがないことです。一体改革についてもいちおう評価はしていて、増税が必要なことにも賛同します。しかし、はたしてどこまで増税が必要なのか。

私の試算では、いまのシステムを維持する場合、消費税率は30%必要になる。おそらくわれわれが社会保障を受給する十数年後に大幅カットになるか、財政がパンクするか、あるいは大増税が引き起こされるかのいずれかでしょう。ところが、この問題にどのように対処するつもりなのか、まったくみえてこない。

赤木:そもそも経済が発展するほど、労働効率はどんどんよくなっていきます。労働が高度化するなかで単純労働は減っていきますから、そこからあぶれる人がどうしても出る。もう仕事を通じただけでは、富の分配はできなくなっているのです。消費税を増税するにしても、その富をいかに再分配するかが政府のいちばん重要なところだと思います。

だから、このタイミングで生活保護の問題が注目されたことについては、私はよかったのではないかと思う。河本さんはその犠牲になってしまいましたが。

片山:でも、いまでもテレビなどに出演されてますよね。また、国が社会保障の維持に責任がある以上、その場しのぎの増税であってはならないと思います。

あくまでも、われわれがメスを入れようとしているのは、“エセ弱者”です。本当に困っている人はむしろ、保護から漏れないようにしたうえで、自立につながるようにしたいと思っています。現に政権与党のときには、高齢者にシルバー人材センターでの就労を斡旋したり、ある資格の2級をもつ人に1級の資格を取らせて就職しやすくするといった取り組みをしてきました。

そのような支援をきちんと行ない、研修をきちんと受けているかどうかも確認する。そのうえで、本当に「自活する意思のある人」に向けてこそ、社会保障を行き渡らせるべきである、と思います。

片山さつき(かたやまさつき)/参議院議員
1959年、埼玉県生まれ。東京大学法学部卒業後、大蔵省(現・財務省)入省。2005年、自民党より衆議院議員選挙に立候補し、初当選。以後、経済産業大臣政務官、党広報局長などを歴任。10年より現職。著書に、『日本経済を衰退から救う真実の議論』(かんき出版)などがある。

城 繁幸(じょうしげゆき)/Joe's Labo代表取締役
1973年、山口県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通に入社。同社退社後に刊行した『内側からみた富士通「成果主義」の崩壊』(光文社)が話題に。その他の著書に、『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書)、『7割は課長にさえなれません』(PHP新書)などがある。

赤木智弘(あかぎともひろ)/フリーライター
1975年、栃木県生まれ。2007年、月刊誌『論座』(朝日新聞社)に発表した論文「『丸山眞男』をひっぱたきたい」が注目を集める。現在はフリーライターとして、非正規労働者や弱者の問題を中心に提言を行なう。著書に、『若者を見殺しにする国』(朝日文庫)などがある。

『Voice』2012年8月号
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