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ワイドショーやツイッターの「歪んだ正義」がこの国を息苦しくしている - 「賢人論。」第109回(前編)宇野常寛氏


宇野常寛氏はサブカルチャーから政治問題まで幅広く論じる気鋭の評論家として、ニュース番組のコメンテーターや、批評誌PLANETSの編集長を務めるなど幅広く活躍してきた。そして、著作『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『母性のディストピア』(集英社)では、サブカルチャー批評を通して行き詰まる日本社会へ警鐘を鳴らしている。今回の「賢人論。」(前編)では、テレビやネットで繰り返される炎上問題や「日本社会の停滞」についてお話を伺った。

取材・文/木村光一 撮影/公家勇人

僕はテレビ的なワイドショーを内側から壊したかった

みんなの介護 宇野さんは少し前までテレビのワイドショーにコメンテーターとして出演されていました。ほかにも、雑誌、ラジオ、ネットなど、さまざまなメディアで活躍され、さらに京都精華大学や立教大学でも教壇に立っておられるわけですが──いったい、どういう立場の方だと理解すればよろしいのでしょう?

宇野 僕はサブカルチャーを題材にした批評家であり、かつ、『PLANETS』というメディアのリーダーであると自己規定しています。あんまり肩書とかにこだわりはないんですよね。面倒だから評論家としていることが多いです。

ワイドショーには2年半ほど出演していましたが、あの仕事に関しては当初から明確な意図をもって臨んでいました。

みんなの介護 どんな「意図」があったのでしょうか?

宇野 そもそも、僕はテレビ的なワイドショーを内側から壊したかったんです。

週に1回、週刊誌とワイドショーが「こいつには石を投げていい」とターゲットを指定し、それを見てみんなで一斉に石を投げ、攻撃する。タレントや失敗した人たちを攻撃している間は、自分たちは〝まともな側にいる〟と安心する構図が日本のメディアでは作られていると思います。

この構造はずっとあったと思うんですが、震災後にツイッターが普及して最強化されてしまったと思うんです。

そういった週刊誌やワイドショーとツイッターが結託して声高に叫ぶ「歪んだ正義やモラル」が社会を息苦しくし、この国を停滞させている要因のひとつなのだと、テレビの内側から告発しようと目論んでいました。

しかし、結果としては、残念ながら僕のような〝プレイヤー〟が1人いたとしても体制は変わらないという思いを強くしただけでした。

ただ、僕が1人で風穴を空けられるとは最初から思っていないんですよ。いま、テレビのワイドショーを観ている層には、相対的にライフスタイルが古くて情報感度が低い人というか、あまりそこにコストをかけたくない人が多いと思うんです。

そういうタイプの人に100人でも、1,000人でもワイドショーのような文化に疑問をもってもらえればいいんじゃないかなと思っていました。

「曖昧な空気」が動かしている現場では議論なんて成り立たない

みんなの介護 宇野さんの番組降板については〝暗黙の了解によってタブーとされている領域に踏み込んだ発言を繰り返したため〟と受け止めた視聴者も少なくなかったようです。実際には何があったのですか?

宇野 もちろん、引き金になった事件はありました。要するに、特定の問題で特定の政治勢力を批判するな、と番組側から言われたわけですからね。しかし僕の実感としては、番組制作側に明確なイデオロギーがあったとは思えない。単に「面倒を起こしてくれるな」という事なかれ主義を貫いた結果として僕を排除したかったという側面が大きいと思っています。

ただ、逆にそれで彼らには肥大したプライドはあっても、確固たる信条を持っている人はとても少ないな、と実感したんですよね。「曖昧な空気」が動かしている現場ではそもそも議論が成り立たない。であれば、いくら告発を続けても仕方ない。僕自身、そう結論づけました。

みんなの介護 では、マスメディアへの出演は徒労だったと?

宇野 虚しさは残ったものの、世の中に対してやるべきことをやったという自負もありますので徒労だったとはまったく思っていません。そもそも、そこまで期待していなかったですからね。

それに、さきほど説明したように、僕は批評家であると同時に『PLANETS』というメディアのリーダーでもあります。テレビや世間のあり方に異議申し立てをすることで、インターネットを含む既存のジャーナリズムに疑問を感じている人たちにアピールできたことはとても有意義でした。


自費出版の同人誌が『ゼロ年代の想像力』でのデビューのきっかけ

みんなの介護 宇野さんは大学を卒業後、会社勤めをはじめてから物書きになろうと思い立ち、インディペンデント雑誌の自費出版を始めたのをきっかけに現在に至っていると著書に書かれています。その経緯について聞かせていただきたいのですが。

宇野 わかりました。まず、ネットの記事を読んで面白いと思ったブロガーたちに僕が声をかけ、WEBマガジンと自費出版の同人誌を始めた。それが出版業界の人たちの目に止まり、仕事の発注も来るようになって『ゼロ年代の想像力』でデビューしました。

実際にはそこに至るまでいろんな出会いもあったわけですが、要約するとそういう話になります。

僕はお金に対して非常に慎重なので、どう考えても物書きに専念した方が儲かる、むしろそうしないのは馬鹿だろう、という状況になるまで会社員も辞めませんでした。幸運なことに、何度か転職して最後に勤めた職場が僕の活動にとても理解を示してくれたんです。

その会社には僕が物書きであること、インディーズのメディアのリーダーとして人脈を持っていることも含めて採用していただいたので最初から副業も自由。社外での活動が忙しくなってからは週3日勤務の契約にしてもらいました。

辞めたあとも何年か、その会社とアドバイザリー契約を結んでいて、たまに顔を出していました。だからものすごく厳密にいうと辞めてはいないんです。

みんなの介護 なるほど、副業ブームを先取りしていたわけですね。しかも、限りなく自由度の高い。

宇野 その時々の自分の状態に合わせて契約を結び直すというやり方は、当時としては画期的だったと思います。柔軟に対応してくれた古巣には感謝しかありません。

みんなの介護 批評活動を始める際、なぜサブカルチャー(アニメ・特撮・テレビドラマ)をテーマに選んだのですか?

宇野 もともと僕には、政治や社会問題を論じたいという欲求は大してなかったんです。もちろん、1人の国民としての意見や関心は持ちあわせていましたが、あんまり自分の主戦場だとは思っていなかったし、いまでも実はそうです。

僕にとって子供の頃から刺激を受けてきたサブカルチャー、具体的にはアニメや特撮の面白さの源泉をたどり、その快楽のメカニズムを解明する。そこに描かれてきたものが何だったのかを言語化して思考を膨らませることなんです。それは今でも一貫して変わっていません。

みんなの介護 著書の中で、「この国の貧しい現実を語ることよりも、虚構について、サブカルチャーについて語ることのほうが意味のある行為なのだ」と書かれています。宇野さんにとって〝虚構〟について考えるという行為はどういう意味を持っているのですか?

宇野 虚構は頭の中にしか存在しないけれど、頭の中では実在している。漫画やアニメに興味のない人は「絵空事なんかに夢中になってどうする」と、言います。でも、僕からすると、目に見えて手で触れられるものだけが、世界だという考えのほうが甘いと言わざるを得ない。

だって神様や共同体としての国家も究極的には妄想の産物ですよ。僕は虚構と現実という考え方自体が好きじゃない。虚構こそが、人間の世界にとってもっとも決定的で、厄介な現実なんですよ。

みんなの介護 虚構(フィクション)の中にも真実があるということですか?

宇野 たとえば漫画やアニメはファンタジーの力を借りて人間が認識しにくいものを可視化しているわけです。憧れだったり、恐れだったり。そういったものを抜きに人間と世界との関係を考えるほうが僕には無理があると思うんです。だから僕は人間のつくりだす虚構に今も昔もずっと一番関心があるんです。

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