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日本人はもっと、「自分たちは幸せな国に暮らしているんだ」と自信と誇りを持つべきです - 「賢人論。」第108回(後編)金美齢氏



気鋭の評論家・金美齢氏へのインタビューもいよいよ終盤。2009年に日本国籍を取得した金氏に、超高齢社会を迎えた日本の未来について語っていただく。金氏によれば、私たち日本人は日頃から社会に対して不平不満を言い過ぎだというのだ。「喜怒哀楽が人生を磨きあげる」という、第一線で活躍し続ける金氏の人生観についても話を聞いた。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

「高齢者は、免許返納を真剣に考えたほうがいい」高齢ドライバーの暴走事故に喝!

みんなの介護 日本社会の少子高齢化は加速度的に進んでいて、最新のデータによれば、総人口に占める65歳以上の割合は27.7%。4人に1人以上が高齢者です。しかも、このままでは、2040年までに全国896市区町村が消滅するかもしれないといわれています。超高齢社会を迎える日本の未来について、金さんは今、どのようなご意見をお持ちでしょうか。

 政府は早くから、市街地をコンパクトに集約する「コンパクトシティ」の構想を打ち出していますが、先行きは不透明ですね。ここ数年は市街地でも大規模災害に見舞われるケースが頻出しており、山間部より市街地のほうが必ずしも安全とはいえなくなってきました。コンパクトシティ構想は、災害対策の面からも見直しが求められそうですね。

私自身についていえば、台湾時代から都市部以外に住んだことのないシティガールなので、今後も東京から離れられそうにありません。

そもそも、自動車の運転免許を持ったことは一度もないので、移動にはどうしても、公共の交通機関かタクシーが必要。そういう面からも、都市部を離れられないのです。

みんなの介護 金さんが運転免許を持っていないとは、少し意外でした。

 私は自分に運転の才能がないとわかっているので、若い頃から免許を取るつもりはありませんでしたね。私の主人も免許を持たなかったし、娘にも免許を取らせませんでした。

わが家で運転免許を持っているのは息子だけ。彼には運転の才能があると思い、免許を取らせたんです。そのおかげで、彼はもっぱら、牛乳やパンの調達など、私の買い物に付き合わされていますが(笑)。

みんなの介護 ここ数年は高齢ドライバーによる重大事故が多発しているので、逆に運転しなくて正解かもしれません。

 心からそう思います。免許を持っていない私が言うのも変な話ですが、高齢者の方はこれから、ご自分の運転免許の自主返納を真剣に検討したほうがいいと思う。ご自分の人生を総決算する時期に、悲惨な事故の加害者になることだけは避けたいところですから。

みんなの介護 2019年は、特に悲惨な事故が多かったですね。

 東京のど真ん中でも、痛ましい事故がありました。交通機関のない地方ならいざ知らず、都心で高齢者が事故を起こすなんて、罪は深いです。しかも、お金がないわけでもなさそうなのに、なぜタクシーを使わなかったのか。思い出すだけで腹が立ちます。

日本人は何事も悲観的に考えすぎる。それは多くの人が、自分の国しか知らないから

みんなの介護 先ほどの高齢ドライバー問題については、少しずつ対策も進んでいますね。2009年から、75歳以上を対象に免許更新時の認知機能検査を始めており、政府は今後、安全運転支援機能を持つ車だけを運転できる限定免許の発行や、高齢者対象の実車試験導入を検討しているとか。高齢者の方にとっては、必ずしも明るいニュースではないかもしれませんが。

 いいえ、高齢者の方が今よりも安全に運転できるようになるわけですから、確実に明るいニュースだと思いますよ。

私が普段から気になっているのは、日本の人たちが何事も悲観的に考えすぎる傾向にあること。私たち台湾人のように楽観的になれ、とまでは言いませんが、日本人は自分たちの国や社会に、もっと自信と誇りを持っていいと思います。

私から見る限り、いまや日本は世界一住みやすい国になっているのですから。

みんなの介護 そうでしょうか。日々のニュースを見ていると、それほど住みやすい国とは思えませんが…。

 それは多くの日本人が、自分の国しか知らないからです。

私が大学留学のために来日したのは、60年前の1959年。その後、台湾の独立運動に関わった関係で台湾当局のブラックリストに載せられ、1964年にパスポートを無効化されました。その後、台湾は民主化され、1995年に中華民国のパスポートを再取得しましたが、台湾は国際社会で国家として認められていないため、海外旅行に出かけようとしても簡単にはいきません。

たとえば、日本人の知人とイタリア旅行を計画しても、ビザを取るために私だけイタリア大使館に何度も足を運ばなければなりませんでした。

ところが、2009年に日本に帰化して日本のパスポートを手にした途端、海外旅行が夢のように自由になりました。世界130ヵ国以上に事前のビザ申請なしで訪れることができ、たとえビザ申請が必要な場合でも、日本パスポート所持者のチェックは驚くほど緩やか。日本のパスポートは“五つ星”なんです。

それほどまでに、日本は国際社会で一流国と認められているわけですね。

みんなの介護 言われてみれば確かに、日本人の多くは、自国のパスポートをそれほど有難いものだとは思っていないみたいですね。

 そうでしょう。日本人はすでにとても恵まれているのに、いつも不満ばかり言っている。台湾出身の私からはそう見えます。

日本人はもっと、「自分たちは世界的に見てもすごく幸せな国に暮らしているんだ」と自覚を持ったほうがいいですね。そのうえで、自分たちの国の未来や、他の恵まれない国々との関係を考えていくべきです。



喜怒哀楽の数が、自分の人生を美しく磨きあげてくれる

みんなの介護 今回は、金さんの人生観を中心にお話を聞いてきました。冒頭でご紹介した金さんの著書、『九十歳美しく生きる』の中に、とても印象的なフレーズがあります。「喜怒哀楽の数が人生を美しく磨きあげる」。このフレーズに込められた思いを聞かせてください。

 日本の多くの人たちは「アンチ・エイジング」を理想に掲げ、「歳を取ること」を否定的にとらえているようです。しかし私は、歳を取ることは素晴らしいことだと思う。

無駄に歳を取るのではなく、歳相応の充実した経験を積み重ねていけば、年齢は若さ以上の艶と輝きを人生に与えてくれるからです。

私も若い頃は、邪念や嫉妬といったマイナスの感情にとりつかれることもありましたが、歳を取るごとに、そういった劣情をうまくそぎ落とせるようになり、よりシンプルに自分の人生と向き合えるようになりました。

今の自分に満足できるのは、歳を取ることを肯定し、むしろ喜び、無駄なあがきをしなかったから。喜びをかみしめ、怒りに打ち震え、哀しみを乗り越え、楽しみを見出す。そんな喜怒哀楽の数が人生を美しく磨きあげるのだと思います。

みんなの介護 何よりご家族を大切に思う金さんですから、喜怒哀楽の中には当然、ご家族との濃密な時間が含まれているんですね。

 私は13年前に最愛の夫である周英明を失いました。その哀しみはとても大きかったのですが、彼は今もすぐ近くから私を見守っていると感じます。

先日、ある知人に「どんなときにご主人を思い出すか」と聞かれ、「毎日思い出している」と答えました。特に、今が旬の柿の実を見かけるたび、柿が大好きだった彼の姿が目に浮かびます。

みんなの介護 それほど、ご主人を愛していらしたんですね。

彼のお骨はまだ埋葬せず、娘の家で預かってもらっています。私が死んでお骨になったとき、お父さんの骨と混ぜて、一緒に樹木葬にしてほしいから。だから主人には毎日、「もう少しだけ、こっちの世界に居させてね」と話しかけています。

まだまだ現役として、自分の意見を社会に発信し続けていきたいですから。

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