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「公務員はクビにならない、チャレンジできる職業」町の広報紙を日本一に育て上げたとある地方公務員の仕事論

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たった一人で作った自治体の広報紙で、全国広報コンクールのナンバーワン、内閣総理大臣賞を受賞。埼玉県三芳町役場に勤める地方公務員ながら、これまで4冊の本を書き上げ、オンリーワンの道をひた走る佐久間智之さんにお話を伺いました。【取材構成 蓬莱藤乃・撮影 田野幸伸】

独学で作った町の広報紙が日本一に

佐久間智之さん

――独学で作った広報紙『広報みよし』が2015年の全国広報コンクールで日本一の内閣総理大臣賞を受賞されました。これは最初から狙って獲りに行ったのでしょうか?

今は違いますが、当時はもちろん目標としていました。

僕が広報を担当するきっかけは、今の首長が広報紙を良くするために、広報担当になりたい人はいないかと内部公募をかけたんです。それに僕が手を挙げました。理由は介護保険の担当だった時に、訪れたマンションのゴミ集積所に『広報みよし』が沢山捨てられているのを見つけてしまったからなんです。

広報紙は町の顔で名刺代わり。広報はラブレターで想いを届けて恋をしてもらうものだと思っていますが、当時は『ザ・自治体広報紙』という体裁で、これじゃ誰も手に取らないだろうという代物でした。

――広報紙はよく駅のラックで見かけます。

普通は目にしてもなかなか手に取りませんよね。作っても手に取られないのは紙の無駄、人件費の無駄、つまり税金の無駄。住民が情報をキャッチアップできない広報紙を変えたいと思って手を挙げたんです。

応募した時には町長と握手をしながら、「日本一の広報を作ります」と言ってエントリーしました。実際に内閣総理大臣賞を獲って感じたことは、結果を出すことはすごく重要。『いい広報』と『日本一の広報』だと反応が全然違う。日本一の広報というと誰もが納得する。議員さんも納得するし、内部の職員も鼻が高いと思ってくれていたみたいです。

さらに住民も「広報紙を見てきたんだけど」と窓口に来るようになりまして、全庁的にも広報が評価されることによるメリットが大きかったなと感じています。


――前例重視の公務員の世界の中で、広報紙をガラッと変えていきました。

何も知らないところから雑誌のつくり方を参考にしたり、全国の広報紙を取り寄せて分析したりして、全くの独学で始めました。各課で原稿を出してもらって、自分でも取材に行って撮影もやって、中学生でも分かる言葉で記事に起こして、それを版下に仕上げて印刷所に入れて…という作業を毎月一人でやっていたので、最初は死ぬほどしんどかったです。 狙ったところが自治体広報紙なのにファッション誌のようなもの、というギャップだったので、そこが反響の多さにつながったのだと思います。

さらに、当初は1100万円以上だったコストを印刷以外の取材や編集、写真撮影、デザインレイアウトを自作で行ったことで、約530万円、つまり半額以下に削減しました。さらに広告ページを入れることで財源を確保しながら作っていきましたので、年々一部あたりの単価を下げることに成功しました。

最初は少し変えるだけで内部の職員からも住民からも反発がすごかったです。『みよし』という広報紙の表記がひらがなだったんですが、それを『MIYOSHI』とローマ字に変えただけで、「ここは外国か! 俺は日本語が好きなんだ! 大和魂はどこいった!」っておじいちゃんに言われまして。

それでも、何しろ手に取ってもらいたい、ごみ箱行きを防ぎたいという思いがあったので、どんどん変えていきました。その中でも、手に取ってもらうための導線として表紙に力を入れたんです。

ドリームキャストで見つけた「ホームページのない三芳町」

――どんな経緯で公務員を目指されたのでしょうか。

22歳までバンドをやっていたのですが芽が出ませんでした。僕は就職氷河期世代で、最終学歴が高卒だから一般企業はまぁ無理。実家にパラサイトしながら2年間「どこまーでも」で有名な公務員受験用の専門学校に通いました。

公務員なら勉強して受かりさえすれば仕事に就くことができます。それで必死に勉強しましたね。学歴がないから公務員を目指したというところです。

――なぜ三芳町を選んだのですか?

当時の埼玉県の採用試験は県下一斉試験といって、1日のうちに埼玉県内すべての市町村の試験がありました。要は、1つしか受けられない。それでどこを受けるか決める時に、一番マニアックなところはどこかと、県内全部の自治体のホームページを調べました。

当時の受験資格は25歳までという年齢制限があったので、1回しかチャンスがない。とにかく倍率が低そうなところを必死で探しました。ドリームキャストで。

――ドリームキャスト!? ゲーム機のインターネットモードで調べたんですか!

当時、我が家にインターネット環境がこれしかなかったんです。すると三芳町にホームページがないことがわかりました。そんなところはとんでもなく認知度が低いだろう、ここだ!と。

――公務員がいい意味で注目された時期でもありましたよね、不景気でも潰れないと。

それまで髪の毛をピンクにしてバンドやってたのに、まともな職に就いたと親も喜んでくれました。

お茶くみから始まった公務員人生


――25歳で入庁されました。最初に配属されたのは?

税務課で固定資産税を扱っていました。家屋の調査・評価をするところです。あの頃はまだ、新人はまずお茶くみをせい、湯呑を用意しろ、最初に課長にお茶を持っていけという、ザ・公務員ルールがありました。今だったら完全にパワハラですが、当時はそれが当たり前で「公務員ってこんな感じなんだ」と理不尽さは感じませんでした。最初は税務課の仕事よりも、社会的なルールをその課長から教わりました。

――社会人とはこういうものだと。

休みでもゴルフ場まで運転して、「ありがとな」と渡されたのがパイナップルだったのが今でも忘れられません(笑)。本当に理不尽極まりなかったです。

税務の仕事の中にも無駄が多いなと思いました。バンドをやっていた時に郵便局でバイトをしていたんですけど、その時にどのルートで配達すれば一番効果的かというのを考えていました。バイクを停める時、キックと同時にバイクから素早く降りる方法をコンマ1秒でも削る工夫をしたりして。だから配達完了するのがめちゃくちゃ早かったんです。仕事をルール化して効率的にやるのは昔から好きで、この経験は固定資産税や介護保険の納付書を発送するときに大いに役立ちました。

そういう人間が役場に入って税務課に配属されて感じたことは、「みんな優しい、せかせかしてないな」ということでした。仕事を急いでやる必要もない。残業するのが当たり前という風潮があったんです。定時で終わるというより、1日24時間で考えているフシがあって、それはもったいないなと感じたのが最初の1年でした。

――1年間も黙っていられました?

はい。1年目は猫をかぶっていました。意見を言っても結果的にはじき返されるだけだと思っていましたし、長い中、慣習でやっていることにも意味があるんだろうと。だから1年くらい様子を見て仕組みが分かった上で、こう改善したらいいですよねって提案することによって、より実現に近づくかなと思いながら過ごしていました。

――よく気が付くタイプだったんですね。

僕はこうみえて波風をあまり立てず根回しするタイプなんです(笑)。もう18年くらい前の話ですね。

――そして税務課でも仕事の効率化を図っていった。

固定資産税担当の時の2年目には電子化を進めました。三芳町の全部の家の図面をスキャナーで読み取って、PDFファイルにして三芳町のアーカイブを作ったんです。そうすると紙のファイルを後ろの棚まで取りに行って、机まで持って戻っていたのが、パソコンに座ったままPDFのファイル名で検索できる、そうすると仕事の効率が上がりますよね。

電子化を始めたきっかけは、「佐久間はパソコンが得意そうだからやれ」と言われて始めたんだと思います。まあ、できるんじゃないですか? って軽い気持ちでやったら、とんでもない量でした(笑)

――行く先々で仕事の仕組みやマニュアルを作っていかれたとか。

1年目で問題を洗い出して、それをどう改善するのか考えて、2年目に実行するというのはルーティンとしてずっとやっていますね。

――そういう星の下に生まれてしまったとしか言いようがない?

僕、理数系なんです。三角定理とか大好きで、証明問題とかすごく大好きで、どうしたら変えて行けるのか方法論を構築していくのがすごく楽しいんです。今までダメだったものが良くなっていくプロセスが楽しくてしょうがない。

――働き方改革も早くから手掛けてこられた。

プライベートを重要視していて、定時に帰ってドラクエやりたいっていうのが僕のポリシーなんです。子どもが二人、ちっちゃいのがいるので、一緒に遊ぶ時間をどう割けるかと考えた時に、仕事のやり方をマネージメントするようになりました。

――三芳町初の育児休暇を取ったのが佐久間さん。

2010年と2012年です。一人目に関しては妊娠が分かった瞬間に育児休暇を取ると宣言して、早いうちから引き継ぎを意識して動きました。自分がいなくなっても大丈夫なようにマニュアルを作ったんです。広報担当になって育児休暇を取った時もマニュアルを作りました。

育児休暇を取った経験は、自分の中で仕事のやり方を見直したり、自分がいなくてもチームが回るような仕組みづくりを考えたりする、いいきっかけになりました。

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