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【読書感想】希林さんといっしょに。

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【Amazon.co.jp 限定】希林さんといっしょに。(ポストカード付)

【Amazon.co.jp 限定】希林さんといっしょに。(ポストカード付)

  • 作者:是枝 裕和,樹木 希林,内田 也哉子
  • 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
  • 発売日: 2019/09/14
  • メディア: 単行本

内容紹介
映画監督・是枝裕和による女優・樹木希林インタビュー集、ついに刊行決定。

女優・樹木希林がこの世を去ってから一年。その一周忌となる9月15日、
そして是枝裕和パルムドール受賞後第1作となる新作映画公開直前のタイミングに、
是枝裕和による樹木希林インタビュー集が満を持して刊行決定。

樹木希林は面白い。上手いでも楽しいでも、
ためになるでもなく、やはり面白いのだと思う。
——是枝裕和

樹木希林に訊いた、テレビ、映画、CM、芝居、生きざま。
他界するまでの数年、小誌で重ねられたロングインタビューが一冊に。
その出会いから別れまでを綴った、渾身の書き下ろし原稿も収録。
是枝裕和が見た役者・樹木希林、その軽やかにして美しき姿。

 『歩いても 歩いても』『そして父になる』『海街diary』『万引き家族』と、樹木希林さんが晩年に出演した映画を撮り続けた「盟友」是枝裕和監督による、樹木希林さんのインタビュー集です。
 2019年は、樹木希林さんに関する本がやたらと売れていて(例えばこれとか)、

 まるで、「聖女」のように扱われているというか、「樹木希林の生き方に学べ!」みたいな雰囲気になっていました。
 

 でも、これまでも希林さんのインタビューや発言、仕事ぶりなどをみていくと、「素晴らしい役者であり、率直で飾らない人」である一方で、「気難しくて、やりたくないことはやらないし、人が嫌がるようなことでもズケズケと言う、扱いづらい人」だよなあ、と僕は思っていたのです。

 「樹木希林の生き方」が許されたのは、「樹木希林だから」ではないかと思うんですよ。

 「1979年にドラマの打ち上げの席のスピーチで、プロデューサーの久世光彦さんと出演していた女優が不倫関係で、女優は妊娠8ヶ月ということも暴露した」なんていうエピソードは、僕がその場にいたら、ドン引きしていたはず。
 そのあと、希林さんは長年一緒に作品をつくっていた久世さんと17年間絶縁しています。
 というか、よく「復縁」できたものですよね。

 本当のことを言っただけ、なのかもしれないけれど、こういう「処世」は、周囲の人にとっては、迷惑だったり、混乱させられたりするのは間違いありません。

 やたらと不動産の値踏みをする、とか、出演作を決めるときは、「ギャラが高い順、そして、オファーが来た順」と仰っていた、という話も紹介されていて、半ば照れ隠しのような気もするのですが、とにかく「人を食ったような、あるいは、一筋縄ではいかない人」だなあ、というのが、僕の希林さんに対する印象です。  

 この本では、「存在感」という言葉で語られがちな、樹木希林、という役者について、是枝監督が、見事にそのすごさを言語化しています。

樹木希林:昔ね、久世(光彦)さんと「ホームドラマの中で本当に死ねるか」という話になったことがあるの。例えば銭湯で下働きをしている人がドラマの中で死んだときに、世間の人が「昨日、あの人死んじゃったね」と悲しむことのできる生き方をしようよと。ドラマの中で魅力的に生きていれば、死んじゃったときに喪失感を抱えてくれるんじゃないか、そうなればホームドラマは成功なんじゃないかと久世さんは言っていて、本当にそうだなと思った。ドラマでも映画でも、どれだけ生きるか、どれだけ生きたかといことに尽きるんです。まあ、撮影しているときは台詞で精一杯になっちゃって、そういうことはほとんど忘れているんだけど(笑)、それが役者の基本だと思うんですよ。

是枝裕和:僕もそう思います。作品の中で、どうちゃんと生きているか、生活しているかというのが本当に大事。

樹木:それをちゃんと感じてくれて、撮ってくれる人が実に少ない。

是枝:たぶん、監督や演出家も台詞を撮るので精一杯になっているんでしょうね。

樹木:役者と監督、双方でそれができた数が多いほど、いい映画になっていくんじゃないかな……。

是枝:希林さんは必ず何かしながら台詞を言おうとしますよね。台詞を言うためにそこにいるのではなく、何かのついでに言う。それがやっぱりなかなか難しいんだと思います。今回の『海街diary』では四姉妹に、意識的にそれを課しているんですね。みんなすごく上手で、とにかくバクバク食べながら台詞を言ってくれるんだけど……。最近、特にテレビドラマの世界ではそういうことが要求されない、クリアな台詞だけが求められている感じがするんです。もったいないなと思って。

樹木:そうですね。役者はバストアップだけうまけりゃいいってものじゃなくて、引いて撮っても動けるといいんだけど、なかなかそういうものが要求されなくなっているわね。そこを是枝さんのようにちゃんとやってくれる監督がいれば、ここからの二十年ですごい役者も出てくるだろうと……思いたい(笑)。

 是枝監督は、この『海街diary』撮影時のことを、こんなふうに振り返っておられます。

『海街diary』は希林さんとの四本目の映画ということになる。
 その現場で綾瀬はるかさんとおはぎを食べるシーンを撮影したときのことだ。座るやいなや希林さんは綾瀬さんに向かって「あなた、その顔はどこもいじってないの?」と問い掛けた。「はい、いまのところどこも」「へえー、そうなの。いいわねー」「ありがとうございます」と、綾瀬さんは屈託のない笑顔で希林さんの暴力的な視線と言葉を受け止める。「あなたさあ……誰に似てるって言われる?」「そうですね、えーと、奈良のほうの仏像とか……」「仏像?」「あ……般若! 般若に似てるって言われたことあります!」「般若かあ……」
 一歩間違うとお芝居を一緒にするどころではなくなる危険性をはらんだやりとりではあったが、どの質問も逃げずに受け止め投げ返した綾瀬さんの人柄に希林さんも好感を持ったのか、撮影が終わるころには「あなた……美しいっていうのは何よりの才能よ」と珍しく褒めていた。しかし、みんなが綾瀬さんのような対応をできるわけではない。「二度と会いたくない」と希林さんが思う以上の役者や監督が、希林さんの名前を聞いただけで、言葉を失ったり目が泳いだり、天を仰いだりしているはずだ。

 「何かを食べながら喋る」というのは、「行儀が悪いこと」だとされながらも、実際の生活の中では、よくあることですよね。
 今は表現の世界でも、正しくないことは排除されがちで、「犯罪者が車を奪って逃げるときも、シートベルトをしている」なんて話もあるのです。未成年が大人ぶろうとしてお酒をあおるシーンでも、エンドロールで、「あれは本当のお酒ではありません」と断り書きが出てきます。

 是枝監督は、リアルな日常にある、行儀の悪い場面を丁寧に描こうとして、あえて、「食べながら喋る」ことを役者さんに求めているのです。

 僕も『海街diary』を観たのですが、「ああ、なんかありがちなスローライフ映画だなあ。でも、こんな四姉妹綺麗すぎるだろ!」というレベルの感想しか抱けなかったので、これを読んで、もう一度観なおしてみたくなりました。

 この綾瀬さんとのやりとりが読めるのも、この本の真骨頂、とも言うべきところで、是枝さんは、希林さんの「めんどくさいところ」も記録しているのです。

しかしこれ、いくら大先輩でも、かなり失礼ですよね……相手があの「天然」で知られる綾瀬はるかさんだからこうなっただけで、「もう、樹木希林さんには二度と会いたくない、共演なんてまっぴら」という人のほうが多いのではないでしょうか。僕だって、いきなりこんなこと言われたら、「何あの人……」って思うだろうし。

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