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たかが電気、されど電気

メルマガ「週刊 Life is Beautiful」で「なぜ日本は原発を止められないのか」という連載を始めた。通信業界の東京電力に相当するNTTで働いていた経験を活かし、霞ヶ関や東電のエリートが何を考えてあんな行動に走るのかを解説する。ちょうど良いタイミングで先日の「さようなら原発10万人集会」での坂本龍一氏の「たかが電気のためになんで命をさらさなければいけないんでしょうか」という発言が注目を集めているので、このブログでもひと言書いておく。

「たかが電気」という発言に対して「電気を止めたら死んでしまう病人がいる」「真夏にクーラーがかけられなければ、熱中症で死ぬ人がいる」と噛み付いている人がいるが、これらの指摘は大間違いである。日本は、原発を止めたぐらいで、病人の生命維持装置が止まってしまったり、熱中症で死ぬ人が増えたりする国ではない。

本当の理由は別のところにある。日本経済が重度な「原発依存症」にかかってしまっているのだ。

資源の少ない日本のような国にとっては、原発はドーピング剤のようなものだ。放射性廃棄物の問題を先送りにし、事故さえ起こさずに原発で電気を起こすことができれば、化石燃料に頼らずに安定して電気を提供することができる。火力発電と比べて必ずしも安くはないが、大半のお金が化石燃料の購入費として海外に流れてしまう火力発電と違い、原発は大半のお金が原発関連企業やゼネコンを通じて国内に流通する。

莫大な借金をして、原子力発電所を建ててしまった電力会社にとって、いきなり脱原発をすることは、経営破綻を意味する。電力会社が経営破綻すれば、主要銀行が保有している所有している電力債が不良債権化する、保険会社が所有している電力会社の株が紙切れになる。

原発依存症なのは、電力会社や銀行や保険会社だけではない。原発交付金と原発がもたらす雇用に大きく依存している原発の地元も、いまさら原発が止まってしまっては財政が破綻する、原発労働者向けのさまざまなサービスを提供している地元の企業も一気に倒産する。

これまで原発の建設・設置でおいしい思いをしてきた原発関連企業やゼネコンも大きく収入を減らす。もちろん、その傘下に7次受けまでいるほど階層化している下請け企業も大きく収入を減らす。これまで経産省が数多く作って来たさまざなな原発関連の特殊法人・公益法人も存在意義を無くしてしまう。

原発を止めれば、これまで各地の原発のプールに保管することにより先送りして来た使用済み核燃料の最終処理問題を解決しなければいけないことが明白になってしまう。高速増殖炉が見果てぬ夢だったことを認め、「プルサーマル」が単なるさらなる問題の先送りだったことを認めなければならなくなる。

だから日本は原発を止められないのだ。だから「たかが電気」などと言ってもらっては困るのだ。

電力会社も経産省もそして野田総理も、国会事故調の「福島第一での事故の原因は人災」という指摘が正しかったことは十分承知している。しかし、ここまで原発への依存度が高くなってしまった段階で、脱原発などいまさら無理なのだ。

たとえ脱原発をしなくとも、福島第一での事故を教訓にさらに厳しい安全基準など作り、「安全基準にパスしたものだけを再稼働して良い」などと言ったら、ほとんどの原発がしばらく運転できなくなってしまうし、必要な改修には莫大なコストがかかる。即時廃炉せざるを得ない原発も出て来る。電力会社のバランスシートは一気に悪化する。

つまり、脱原発をしなくとも、福島第一での事故を教訓に安全基準を作って厳格にそれを適用しようとしただけで、電力会社はその改修コストと、改修が済むまでの間の化石燃料のコスト増で経営が非常に苦しくなってしまうのだ。

確かに「たかが電気」ではあるのだが、「されど原発は止められない」のが日本の現状なのだ。

急激な脱原発をすると電力会社が経営破綻を起こして日本経済が大混乱する。しかし、安全に原発を運営しようとすると、原発はしばらく再稼働できなくなってしまうし(その間は化石燃料を輸入する必要がある)、原発による発電コストがさらに上昇してしまう。いずれの道を選んだところで、電力会社の経営は非常に厳しくなるし、その影響が、銀行、保険会社、ゼネコンなど数多くの業種に及ぶことは避けられない。東電以外の電力会社にも政府は資金注入をしなければならなくなってしまう。

そんな経済への悪影響を避ける唯一の方法は、「問題を先送りして、多少の危険を承知で原発を運営し続ける」ことなのである。

野田総理の会見にまったく説得力がないのは、そこを正直に言わないからだ。「そんなことをわざわざ言うと国民は冷静な判断が出来なくなる」という愚民思想がその根底にあるからだ。

今問われているのは、「痛みを伴う脱原発に向けて大きく舵を切る」か「問題を先送りして、多少の危険を承知で原発を運営し続ける」の二つに一つだということを忘れてはいけない。「安全に、かつ問題を先送りにせずに原発を安く運営する」というバラ色の選択肢は残念ながら存在しないことを素直に認めなければいけない。

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