記事

「組員6000人の顔写真を入手済み」警察vs.山口組「特定抗争」指定をめぐる水面下の暗闘 - 尾島 正洋

1/2

 国内最大の指定暴力団「6代目山口組」のナンバー2、若頭の地位にある高山清司が2019年10月18日に恐喝事件の刑期が満了し、東京の府中刑務所を出所したのと前後して暴力団抗争事件が続発した。

【写真】流出写真には現場に残された自動小銃とみられる凶器が

 年が明けた2020年も、各地で流れ弾による一般市民の巻き添えなどが危惧されたが、静かな年始を迎えた。

 抗争事件を抑え込もうと、山口組と「神戸山口組」双方の本部事務所などの関連施設がある兵庫や愛知、大阪など6府県の公安委員会は、2020年1月7日付の官報で、暴力団対策法に基づき双方を「特定抗争指定暴力団」として公示し、強力な規制に乗り出していた。「特定抗争」指定となったことで、今年は年初から警察と暴力団の間で新たな局面を迎えた。


高山清司若頭 ©共同通信社

 今年は、東京五輪が開催される「オリンピックイヤー」でもある。暴力団業界では国家的な事業が行われる期間中には、社会に迷惑を及ぼすような抗争を起こさないという暗黙の了解から事件が控えられているのか、それとも、特定抗争指定が効力を発揮しているのか。

 水面下の動向は不明瞭だが、2020年のスタートとともに警察と暴力団との間の暗闘の幕はすでに切って落とされている。

特定抗争指定で何が変わる?

「特定抗争」指定された暴力団に対しては、暴力団対策法に基づいた強力な規制が効力を発揮する。公安委員会が定めた神戸市や名古屋市、大阪市、京都市など、6府県の10市の「警戒区域」内で、組員が5人以上で集合▽組事務所への立ち入り▽対立する組の事務所周辺をうろつく行為などが禁止され、違反すれば警察当局は即逮捕出来ることになっている。

 名古屋市には山口組の中核組織「弘道会」の本部事務所があるほか、神戸市には神戸山口組の中核組織「山健組」が本部事務所を構える。山口組の本家も同市内にある。大阪市内には双方の多くの組織が事務所を置いている。だが、特定抗争指定以降は、警戒区域内の10市にある約130の事務所が使用禁止状態となっている。

 昨年、大きな衝撃を持って受け止められたのが、11月に尼崎市で発生した、元山口組系幹部、朝比奈久徳が米軍用自動小銃「M16」を乱射し、神戸山口組幹部の古川恵一を射殺した事件だった。現場は買い物客などの通行が多い商店街ということも話題となった。

 警察庁幹部によると、朝比奈は2018年12月に、所属していた山口組傘下の竹中組を破門されていたという。しかし、警察庁幹部は「破門は偽装かもしれない。しかし、破門となっていようが、特定抗争の指定は団体間の抗争なので関係ない。被害者は神戸山口組の幹部。やった方が全くの無関係ならまた別の問題となるが、この事件では山口組との関係性はかなり濃厚。多くの抗争事件を除いて、この事件だけ取り上げても指定に問題はない」と強い口調で解説する。

 古川射殺事件だけでなく、高山が刑務所を出所する前の2019年10月10日には、神戸市の山健組本部前で、同組系組員2人が射殺された事件が発生。さらに出所後の同年11月18日には熊本市内で神戸山口組幹部が刃物で刺されたほか、翌19日には札幌市内で、別の同組幹部宅に車両が突入する事件も起きた。

 警察庁幹部はいずれの事件も、「高山の出所という影響で、山口組傘下組織が動き出した」と指摘している。

特定抗争指定で九州の抗争は鎮圧

 特定抗争指定暴力団に指定されたケースは2012年12月、ともに福岡県を拠点とする指定暴力団「道仁会」と「九州誠道会」(現・浪川会)の例がある。路線対立から一部グループが2006年に道仁会を離脱して九州誠道会を結成し、その後は対立抗争事件が続発した。

 一連の抗争で47件の事件が発生し、一般市民を含め14人が死亡した。山口組から2015年8月に一部の幹部が離脱して神戸山口組を結成し抗争が始まったのと構図が重なる。山口組と神戸山口組の間では、これまでに約120件の事件が発生し双方で9人が死亡している。

 約6年間にわたって繰り返された道仁会と九州誠道会の間の対立抗争事件だったが、双方が特定抗争指定されると、事件はピタリと発生しなくなった。山口組や住吉会などに所属する多くの指定暴力団幹部は、口調を合わせるようにヤクザとしての心情を次のように説明する。

「(対立組織との)ケンカで懲役に行くのは当然のこと。これはヤクザである以上は、常に覚悟はしておかねばならない。しかし、しいことで逮捕されるのはまさにしい」

 道仁会と九州誠道会の特定抗争指定の効果は大きく、抗争事件の発生はなかっただけでなく事務所の使用が禁止されたため幹部が集まる定例の会合が開けなくなり、道仁会と九州誠道会の双方の統制が取れなくなり離脱者が相次ぎ弱体化。特定抗争指定は2014年6月に解除された経緯がある。

 当時、警察庁で組織犯罪対策を担当していた幹部は、次のように指摘する。

「携帯電話やメールなど通信機器が発達したとはいえ、お互いに顔を突き合わせて定期的に会合を持たないと物理的なだけでなく気持ちの上でも距離感が生まれてしまうようだ。親分が子分に携帯で電話して伝達事項を話しても、疑心暗鬼となり、信頼関係が薄れて次第に統制が効かなくなり勢力が弱くなっていったのは事実」

 その上で、道仁会と九州誠道会の弱体化の過程について、次のように付け加えた。

「これは警察も同じ。各県警の本部長は定期的に県内の署長を集めた署長会議を開き直接訓示する。警察庁が全国の本部長を東京に集めた全国本部長会議で長官が訓示するのも同じ。ヤクザも警察も似たようなところはあるのは間違いないところ。だから(道仁会と九州誠道会が)集まることが出来ずに弱体化して行ったのはよく分かる」

あわせて読みたい

「山口組」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    「尻尾まで腐ってる」野党の現状

    小林よしのり

  2. 2

    韓国「パラサイト」で反日強化か

    WEDGE Infinity

  3. 3

    道の駅で車中生活 貧困層の実態

    水島宏明

  4. 4

    ANAホテル 首相答弁と反する回答

    辻元清美

  5. 5

    内村光良のNHKコントは笑えない

    メディアゴン

  6. 6

    識者「国内で爆発的流行はない」

    中村ゆきつぐ

  7. 7

    コロナ対策 順調なフリが1番悪い

    岩田健太郎

  8. 8

    東京マラソンは中止決断が最善手

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  9. 9

    安倍内閣の体感支持率は20%以下

    早川忠孝

  10. 10

    佳子さま ニート批判受けて変化

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。