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なぜ進まぬ迎撃魚雷の実用化

米空母アイゼンハワーから発射される160ミリ型迎撃魚雷。米海軍は目標を無誘導の直進魚雷とウエーキ・ライダー魚雷の迎撃に絞っている。それ以外は音響欺瞞で対処できると考えているのだろう。
出典: 米海軍写真/撮影:Kaleb J. Sarten

文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・迎撃魚雷の実用化が進まない背景には3つの問題がある。

・「敵魚雷探知の困難」迎撃魚雷の性能不足」自己雑音の問題」。

・無騒音魚雷が出現すれば、自己雑音問題伴う迎撃魚雷では対抗不能に。

迎撃魚雷のアイデアは古い。敵ミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とす。その魚雷版として昔から構想され研究されてきた。実際に米国は80年代、NATOも97年から研究を始めており今では米、仏伊、露、独が開発を進めている。

しかし、実用化は遅々として進んでいない。これまで迎撃魚雷4種を製作した米国はいまだに研究中としている。MU-90HK魚雷を試験中の仏伊も基礎段階としている。露独も同じようなものだ。露はPAKET-E/NK魚雷を、遅れて独もシー・スパイダー魚雷を実用段階と宣伝している。だが専門誌記事ほかでは露独魚雷の実用性は疑問視されている。(*1)

・なぜ迎撃魚雷の実用化は進まないのか?

そこには3つの問題があるからだ。1つ目は敵魚雷探知の困難、2つ目は迎撃魚雷の性能不足、3つ目は自己雑音の問題である。

▲写真 独のシー・スパイダー迎撃魚雷。製造元は「実用段階にあり各種魚雷に対して有効」と宣伝している。だが米仏魚雷よりも実用性に優れるといった印象はない。
出典: 写真は製造元ATLAS ELEKTRONIKの紹介ページより」

■ 敵魚雷の探知は難しい

1つ目の問題は魚雷探知の困難である。

敵魚雷の探知は容易ではない。そもそも探知は確実ではない。そのため迎撃魚雷の発射が間に合わない可能性も高い。これは迎撃魚雷の実用性を今一つとする原因である。

敵魚雷の探知には騒音が利用される。水中ではレーダやカメラは通用しない。電波や光はほぼ使えないからだ。だからそのため水中監視では音響が活用される。魚雷探知ならそれらしい騒音の聴取で「敵魚雷接近」と判断する。

だが、魚雷騒音は探知できない状況もありうる。水中音響は気まぐれだ。至近距離まで全く聞こえない状況も発生するのだ。(*2)

その場合には迎撃魚雷は発射できない。突然の魚雷命中となる。

また、近距離まで探知できない状況もありうる。水中音響の気まぐれにより1km以内でようやく探知できる状況だ。

この場合も迎撃は困難となる。

正確な照準ができないからだ。

迎撃魚雷のセンサ能力は低い。相当に接近させなければ敵魚雷を追尾してくれない。

そのため敵魚雷は正しく狙う必要がある。敵魚雷の将来位置、例えば2分後の位置で丁度ぶつかるように見越して発射される。

その照準には敵魚雷データが必要だ。将来位置推定には現在位置と針路と速力の把握が必要だからだ。中国の先行研究では60秒と30秒のモデル計算がなされている。おそらくは余裕をもった解析時間と最低限の時間の対比である。(*3)

だが距離1km以内での敵魚雷探知では正確な照準はできない。敵魚雷は60秒で1500m、30秒でも750m進むので間に合わない。その場合は低命中率の咄嗟発射しかできないのである。

■ 敵魚雷よりも遅いこともある

2つ目は性能不足である。一般的に迎撃魚雷は敵魚雷よりも遅い。またセンサー性能も低く信管動作にも不安がある。

基本的に迎撃魚雷は速力不足である。先に挙げた5ヶ国魚雷の速力は40ktから50ktまで、時速では74kmから93kmだ。対して目標となる攻撃魚雷は概ね50kt以上、新型では60kt以上で航走する。

つまり迎撃不能の状況もありうる。互いの位置関係や速度差では迎撃魚雷は追いつけないのだ。

既述のとおりセンサ性能も低い。開発中の迎撃魚雷は直径16cmから33cmと小さい。その頭部に収めるセンサも小さくなる。高性能は期待できない。

信管動作も怪しい。

魚雷は主として磁気信管を用いる。磁気変動を観測しそのピークを感知して発火する仕組みだ。

だが、目標となる敵魚雷の磁気量は小さい。魚雷重量は2t前後しかない。しかも最近は軽金属や非金属材料も多用される。磁気は伴うものの変化幅は小さい。信管は確実動作するとは言い切れないのだ。

▲写真 対潜用短魚雷MU90の発射状況。仏伊は迎撃魚雷機能追加を構想しており2000年から実発射試験を始めている。焦点は米国と同様に直進魚雷とウエーキ・ライダーとされている様子でありシミュレーションでの無効化成功率は85%と77%としている。
撮影:ItalianLarry(CC BY-SA 3.0)

■ 自分の雑音で敵魚雷の騒音が聞き取れない

3つ目は自己雑音の問題である。

迎撃魚雷は騒音を追尾する。頭部センサで敵魚雷の騒音を拾う。そして到来方向が一定となるよう針路をとって接近・命中する。

ただ、その際には迎撃魚雷自身も雑音を発生する。それなりに高速なので推進機構は騒音を発生する。また魚雷の頭部も水中を高速でかき分けて進む。水との摩擦音も発生する。

迎撃魚雷のセンサはこれらの雑音も拾ってしまう。雑音源はセンサから2mあるいは10cmと至近距離にある。音量は無視できない。

この自己雑音が敵魚雷の騒音よりも大きくなるとどうなるか?

迎撃魚雷は敵魚雷の騒音を探知できない。目標騒音は自己雑音でかき消される。当然ながら追尾はできない。

これが自己雑音の問題である。実際には敵魚雷騒音の距離減衰も影響するが簡単に示すとそうなる。

これは難題である。

センサ感度を上げても解決しない。自己雑音で敵魚雷騒音が潰されている。だから意味はない。

迎撃魚雷の雑音低下も難しい。一番良いのは迎撃魚雷の速力を落とすことだ。ただそうすれば速力不足は悪化し迎撃はさらに困難となる。(*4)

その上で指摘すれば迎撃魚雷の将来性をも絶望させる要素となる。魚雷静粛化に対応できない問題も生じるからだ。

迎撃魚雷は昔のエンジン式爆音魚雷への対応を前提としている。米国が重視する目標は旧ソ連の53-61魚雷である。

その点では最近の新魚雷対応も疑問がある。電池・ポンプジェット推進が普及しており以前ほど騒音を出さなくなっている。もちろんすべての現用魚雷に対して迎撃不能はない。だが敵魚雷との相性問題はすでに存在しているはずだ。

その上、将来に無騒音魚雷が出現すれば迎撃不能となる。迎撃魚雷は普及すれば騒音対策を徹底した攻撃魚雷が登場する。自己雑音問題を伴う迎撃魚雷では対抗不能となるのだ。

*1 最近露出が増えたシー・スパイダー迎撃魚雷に対する専門誌の評価は渋い。例えば『中国海洋報』では「実用化には技術的難題の解決が必要」と明言している。

張璦敏「反魚雷的魚雷 -“海蜘蛛”系統」『中国海洋報』2019年6月25日、p.4.

*2 探知距離は海面等温層の発達次第で変化する。その原理は述べないが同様の効果は大気でも発生する。例えばヘリコプターが見えるのにその騒音が聞こえないような現象である。

*3 白ほか「基于魚雷報警性能的反魚雷魚雷攔截効能分析」『指揮控制与仿真』39.4(2017)pp.61-64.

*4 迎撃魚雷が細長いのもその対策だ。センサとエンジンやスクリューとの距離をできるだけ離そうとしている。だがそれには限界がある。

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