- 2020年01月24日 09:15
「実質時給286円も実在」急増するUber EATS配達員はワーキングプアか
1/2アプリを通じて飲食店の料理を運ぶ「ウーバーイーツ」の自転車配達員をよく目にするようになった。その稼ぎはどれくらいか。ジャーナリストの溝上憲文氏は「配達員の報酬は完全歩合制。働き方次第では東京都の最低賃金(1013円)を下回ることもあり、配達員を保護する法整備が必要ではないか」という——。
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Uber EATS配達員を含むギグワーカーは日本に約184万人
インターネット上のアプリを通じて単発の仕事を受注・納品する「ギグワーカー」と呼ばれる人たちが増えている。「個人請負」や「業務委託」など自営業者的な働き方をする就業形態のひとつがこのギグワーカーだ。
マッチングアプリの仲介を行う業者はプラットフォーマーと呼ばれ、彼らがビジネスモデルとしているのがプラットフォーム・エコノミー、ギグエコノミーである。
配車アプリや自動車配車アプリで知られるアメリカのITベンチャー「ウーバーテクノロジーズ」もそのひとつ。同社は、日本でもレストランの料理を注文者宅まで運ぶウーバーイーツ(Uber EATS)を展開し、配達人のギグワーカーも増えてきた。
また、大手ECサイト・アマゾンなどの業者と業務委託契約を結び、商品を軽トラックで配送する個人ドライバーも最近増加している。
ギグワーカーには宅配など外で仕事をする人のほかにも、ネットを通じて作業を行うクラウドワーカーもいる。こうしたプラットフォーマーの仲介を受けて仕事をするギグワーカーは日本にすでに約184万人いるとの推計もある。
時間と場所の制約もなく、自由な働き方ができるメリットがあることからバイト感覚で始める人も多いが、実はアルバイトとは異なり、あくまで個人事業主であって「労働者」とは見なされない。
パートやバイト、派遣などいわゆる非正規社員は最低賃金や仕事中の労災補償、失業時の手当、有給休暇、さらに一定の要件を満たせば勤務先の健康保険や厚生年金に加入できる権利がある。
一方、ギグワーカーは非正規社員とも見なされず、長時間労働や割増賃金規制など労働法の対象外に置かれ、労働基準監督署など行政の監視対象からも外れる。会社員が副業として始める人も多いが、その一部には、仕事の自由さと報酬の高さに魅力を感じて専業に転じる人も少なくない。
しかし、いくら仕事の熟練度が高まっても個人で請け負う能力には限界があり、それ以上の収入も望めない。しかもアプリを通じて受注する競争相手が増えれば収入減につながる。加えて配達などの一定の危険を伴う業務は事故のリスクが高く、ケガをすれば休業補償もなくすべて自己責任になる。
アメリカではギグワーカーの労災補償と生活を保護する法律施行
実はこうしたギグワーカーの労災補償と生活を保護する画期的な法律が今年1月1日に施行された。
といっても日本ではない。アメリカのカリフォルニア州のギグワーク法(AB5法)と呼ばれる法律だ。最大のポイントはギグワーカーなどが一定の基準をクリアすればカリフォルニア州の最低賃金、残業代などの賃金の保護を受け、病気休暇、失業手当のほか、労災補償給付などが受けられる。
わかりやすく言えば、ワーカーが会社からアプリなどで業務の指示を受けている、ワーカーが法人のような独立した事業者ではないといった条件を満たせば、労働者と見なす、という内容。業務委託契約を結び、形式的には個人事業主であっても就業実態を見て労働者の権利を与えようというものだ。
この法律はライドシェア「ウーバー」のほか、競合の「リフト」などのプラットフォーマーを標的にしたものだ。
アメリカには専門的技術を持ち、高い報酬を得ているギグワーカーもいるが、ライドシェア運転手や宅配サービスのように比較的簡単な業務は収入が不安定になりやすい。そうした不満を持つギグワーカーがアメリカ各地で労働者の権利を求めて会社を提訴している。
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アメリカに限らない。イギリスでも2016年に労働裁判所がウーバーに対してライドシェア運転手との雇用関係を認める判決を下している。
代理のドライバーを立てられなければ約1万4000円の制裁金
イギリスといえば、主人公の宅配ドライバーの家族の悲惨な日常を描いたケン・ローチ監督の『家族を想うとき』が日本で上映されている。あらすじは以下のようなものだ。
最初は妻と2人の子供が暮らすマイホームの夢を見て、父親は大手のプラットフォーマーと契約し、個人事業主の宅配ドライバーになるが、途端に労働条件の過酷さに打ちのめされる。
配達個数の多さやルートと到着予測時間を示す装置に振り回され、夜遅くまで働かざるを得ない。家族のトラブルで1週間休ませてくれと会社に頼むと、代理のドライバーを立てられなければ、契約通り1日あたり100ポンド(約1万4000円)の制裁金を科すと迫られる。
それでも家族のために懸命に働くものの、事故に遭遇。大ケガを負うが、治療費は支給されない。専業のギグワーカーになったが、結局、ワーキングプアを脱することができず、家族の崩壊の予兆までをリアルに描いている。
こうした状況はイギリスやアメリカだけに起きている現象ではない。
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