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ヴィーガンスニーカーは「クール」なのか?~ファッション界で流行するエシカル消費~

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世界の緊急課題である貧困や気候変動への関心の高まりから、日本でもしばしば耳にするようになったエシカル消費。とりわけ有名ファッションブランドが積極的に推進していることからも、何か革新的でクールな印象を漂わせている。しかしながら、いざそのロジックを解きほぐして見れば、なんら新しいことはない、単なる企業のマーケティングの一つに過ぎないのではないか。「エシカルな消費」とは、本当に従来の消費のオルタナティブになり得るような、革新的でクールなアイデアなのだろうか?

・中古市場で16万円~ナイキのヴィーガンスニーカー~

「ヴィーガン」がスニーカーファンの注目を集めている。昨年ナイキが、英ファッションブランド「maharishi(マハリシ)」とコラボし、100%オーガニックコットンを使用したAir Max 90を発売した。自然保護活動家としての顔も持つデザイナーのHardy Blechmanが手がける「maharishi」とのコラボは、世界中のスニーカーファンのあいだで注目を浴び、現在、中古市場では1足1446ドル=約16万円もの高値で転売されているという*1。


「ヴィーガン」と聞くと、まず健康食や菜食主義のことを思い浮かべるひとも多いかと思うが、英国ビーガン協会の定義によれば「食べ物や衣服、またはその他の目的のために、動物への残虐行為や搾取を可能な限り取り入れないようにする生き方」のことを言う*2。アメリカでは毎年3億足の靴が捨てられており、スニーカーがもたらす環境負荷への配慮を求める声も少なくない。埋め立て場へと送られるスニーカーのパーツは、大半が生物分解性のないプラスチックや、石油を原料とした合成ゴム、レザーであり、それらが自然に分解されるまでには25年から80年かかるという*3。

上記のナイキAir Max 90のアッパーには、100%のオーガニックコットンが使用されており、それをザクロやターメリックといった自然由来の染料で染色。また、木目調にデザインされたスウッシュやヒールタブには、粉砕された木くずが使用されているほか、リサイクル素材の「Nike Grind」製アウトソールを採用するなど、さまざまな工夫が凝らされているそうだ*4。

・ファッション業界に変化~富の誇示から良心の誇示へ~

近年、ナイキやアディダスなどのスニーカー大手は、環境に配慮された「ヴィーガン」スニーカーの販売に積極的に乗り出しているが、これに類する動向は、スニーカーに限らずファッション業界全体にみられる傾向のようだ。 グッチは、2018年の春夏コレクションから動物のファーを使わない「ファーフリー宣言」を行い*5、プラダも、2020年春夏コレクションから毛皮を100%使用しないことを約束している*6。エコ&エシカルの流れは、現在のファッション業界の最重要テーマだと言っても良い。

このようなファッション界における「環境」や「エシカル」の流行を、服飾史家の中野香織は「良心の誇示」というキーワードで分析している。

 十九世紀、二〇世紀の有閑階級は、富の誇示をすべく消費活動をおこなった。二一世紀には、消費の動機は富の誇示から良心へ。いや、富の誇示から良心の誇示へ、といったほうが正確かもしれない。

 「良心」にめざめた消費者のエコ&エシカル需要は高まり、イギリスでは、菜食主義者としても知られるデザイナーのステラ・マッカートニー(ポール・マッカートニーの娘である)が、皮革を使わないファッション・ラインを提案して人気を博し、二〇〇七年、アニヤ・ハインドマーチは「私はレジ袋ではない(I’m NOT A Plastic bag)と書いたエコバッグを発売して世界の都市部で大ヒットをとばし、社会現象になる。

 同年の秋には、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙主催のラグジュアリー会議において、主要なラグジュアリー・ブランドがモスクワに結集し、「エシカル・ラグジュアリー」をテーマに議論をおこなうにいたる。

 エシカル・ラグジュアリー……倫理的な贅沢。

 贅沢の魅力とは、本来、倫理とは相いれないところにあったのではなかったか?

(中野香織『モードとエロスと資本』、集英社新書、P.26、2010年。)

贅沢の魅力が倫理と相容れないとまで言い切れるのかは疑問であるものの、「倫理的な贅沢」という言葉に、矛盾した感覚を覚えるひとも少なくないのではないだろうか。上述のAir Max 90が約16万円で転売されていたのと同じように、アニヤ・ハインドマーチのエコバッグも、1個約2000円の限定バッグが、インターネット市場で40倍の価格で取引されているという。仮にエシカルな消費が、自身の「良心」をSNSで「誇示」し、あとは転売にまわされる運命にあるのだとすれば、「ファッション」における「エシカル」の流行には、一筋縄ではいかない問題が孕まれているように思われる。

・元祖「エシカル」は反ナイキ ~アドバスターズの ‟Blackspot”~

ファッションに「エシカル」な観点を持ち込もうとしたのは、ナイキや大手ラグジュアリーブランドが初めてではない。むしろ、はじめにそのようなアイデアを実践していたのは、ブランド商売のマーケティング手法に反旗を翻すことを目的とした、カルチャー・ジャミングという運動であった。カルチャー・ジャミングとは、既存の広告メディアを変革しようとするムーブメントの一つであり、反消費主義、反商業主義という観点から企業イメージを批判し、広告の裏に隠蔽された不都合な事実を消費者に伝えようという運動だ。

カナダのバンクーバーに本拠を置くアドバスターズという雑誌は、この運動を引率するメディアのひとつだが、彼らは反ナイキを掲げ、17年前から Blackspot Unswoosherという「エシカル」なスニーカーを販売している。100%オーガニックヘンプで作られ、ソールにはリサイクルされた車のタイヤが採用されているUnswoosherには、 「スウッシュ」と呼ばれるナイキ社のロゴを消し去るという意味が込められている*7。ホームページには、アジアの発展途上国の労働者からの「搾取」が問題視されるナイキに対する批判として、「ブラックスポットを購入することは、私たちの生活の創造性と自発性を踏みにじる、ナイキのようなメガブランドへの抵抗を意味している」と、やや誇大妄想的なスローガンが掲げられている。

オーガニックなスニーカーを購入することが、どうしてナイキのようなメガブランドへの抵抗になるのだろうか。哲学者のジョセフ・ヒースは、このような疑問に基づいて『アドバスターズ』編集長のカレ・ラースンを痛烈に批判している。

 ラースンは、この靴の販売企画をこう説明している。「ナイキをダサくするための画期的マーケティング戦略だ。もし成功すれば、資本主義に革命を起こす先例となるだろう」。しかし、いったいどうしてそれが資本主義に革命を起こすと見なせるのか?リーボック、アディダス、プーマ、バンズ、その他の十指にのぼる企業が、もう何十年もナイキを「ダサく」しようとがんばっている。これが市場競争と呼ばれるものだ。というか、それが要するに資本主義じゃないか。

 ラースンはこの靴の販売企画に対する批判にこう反論している。うちの靴は競合ブランドのものとは違って「労働搾取工場」では製造しない、と。ただしアジアから輸入することに変わりはないのだが。

 それはけっこう。だが、「フェアトレード」も「倫理的マーケティング」もとうてい革命的なアイディアではなく、資本主義システムにとってまったく脅威になってないはずだ。もしも消費者がハッピーな労働者の作る靴に――あるいはハッピーな鶏の産む卵に――より多くを支払うのにやぶさかでなければ、そうした商品を市場に出すことで金儲けができるこれはザ・ボディショップやスターバックスなどが採用して、すでに大きな成果をあげているビジネスモデルだ。

(ジョセフ・ヒース&アンドルー・ポター『反逆の神話』、栗原百代訳、P.6-7、NTT出版、2014年。

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