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<NHK歌会始>氏と名の間に「の」を入れるのが気になってしょうがない

物部尚[エッセイスト]

***

2020年1月16日、皇居で行われた新春恒例の「歌会始」をNHKの生中継で見た。若い人の歌も紹介されていてなかなかよい。17歳の篠田朱里さんの歌。

「助手席で

進路希望を話す時

母は静かに

ラジオを消した」

ところで、番組をずうっと聞いていると、詠み人が作者の姓と名の間に「の」を入れるのが気になってしょうがない。余計なことをするものだと思う。篠田朱里さんは「篠田朱里さん」という名前の個人であって、篠田の朱里さんではあるまい。筆者の感覚では、「古式ゆかしい」とか「古来の伝統に則り」とかでは片付けられない作為に思い至ってしまう。

一体なぜ、歌会始の作者の氏名を読みあげるとき、あいだに「の」が入るのか。宮内庁のHPでは歌会始の来歴については記述があるものの、「の」が、入る理由には言及されていない。言及されては居ないが筆者なりの想像はつく。

『世襲の日本史「階級社会」はいかに生まれたか』(本郷和人・NHK出版)を読んだ。後一条天皇・後朱雀天皇・後冷泉天皇の外祖父、摂政・(以下引用)藤原道長は(ふじわらのみちなが)であって、(ふじわらみちなが)ではありません。『の』をつけた場合藤原氏(うじ)のことを指します、とあります。

[参考]映画「記憶にございません」と「桜を観る会」騒動

以下は筆者の調べた範囲のこと。

「織田信長」は「おだのぶなが」、「徳川家康」は「とくがわいえやす」で、「の」が入らない。これは、織田や徳川が氏ではなく姓だからだ。「氏(うじ)」というのは共通の祖先を持つという意識のもとに結束した集団(氏族)が名乗る名称。氏が同じなのは「家族」「一族」であることを示す、天皇裁可の「イエ制度」の証しと言ってもいい。

(以下HP汎兮堂叢話より引用)「源平藤橘」の氏などは、天皇が功績のある臣下に特別に与えたり、諸皇子を臣籍降下させる際に与えたりした氏だ。特例を除いて氏(うじ)のあとにしか「の」は入らない(以上、要約引用)

篠田朱里さんの篠田は姓だから、「の」を入れて読むのはおかしい。それでも「の」を入れるのは、天皇がお催しになる歌会(宮内庁HPの表現)だからなのか。それとも天皇は、世襲であるから、世襲の根本である「イエ制度」を守るという意図の元「の」を入れるのか。

国家や社会の権威に対して個人の権利と自由を尊重することを主張する現代の個人主義では〇〇家の一員であるという意識を強く持っている人は少ないのではと筆者は思う。(この考えには賛否があると思いますが)

『世襲の日本史「階級社会」はいかに生まれたか』の話に戻る。世襲史という、新たな視点で、日本史をたどりなおそうというという意欲的な本だ。読み進むうちに筆者は思う。

(善し悪しは別にして)日本には、なぜ、これほど強固な世襲が続いているのでしょうか。政治家は地盤看板カバンを世襲し、企業家は創業一族などと言われて若いときから特別扱いされ、歌舞伎役者は世襲でなければ大名跡を名乗れない。国家資格を取得できるまで子どもに大金を投資できる医者弁護士の世襲、芸能人やスポーツ選手に世襲が目立つのは子が親の職業を稼げるおいしい職業だと判断したからに違いない。というのは決め付けすぎでしょうか。

子孫のために美田を買ってはならないし、美田を買う余裕のないものの子孫でも前進できるほうが健全な社会なのではないか、世襲というのはどうも世の中の活力を削ぐ方向に力が働くのではないか、世襲より実(力)が日本の未来には大切なのではないか、だんだん、ごく当たり前の考えが大きくなってくる。この世襲の元凶はなんなのか。

因みに、来年の歌会始の題は「実」だそうです。

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