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地方創生の“厳しい現実“「破れたバケツ」状態の人口流出を防げ 幻想の地方創生 東京一極集中は止まらない - 岡田 豊 (みずほ総合研究所調査本部主任研究員)

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2019年12月、政府は第2期「まち・ひと・しごと創生戦略」をまとめた。15年度から始まった地方創生では、地方の自治体がそれぞれの個性を生かした総合戦略を立案し、働き場所があって暮らし続けられる地域社会をつくる必要があるとされた。

KYODO NEWS/GETTYIMAGES

これは、地方圏で創意工夫により地域産業が活性化され魅力ある仕事が創出されることで、出生率の低い東京圏から出生率の高い地方圏への人の流れが生まれ、その結果、地方の人口減少と日本全体の人口減少の両方が緩和される、という地方創生における国の基本的な狙いを示すものであった。

日本は、少子化の進行により2008年の約1億3000万人をピークに人口減少社会に突入している。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(13年、出生率中位・死亡率中位)では、60年において約9000万人まで減ると予測されている。

地方創生は、今後出生率を上げて1000万人ほどの人口減少を緩和することにより、60年に日本全体で1億人の人口確保を目指すものであった。14年9月に地方創生の司令塔として「まち・ひと・しごと創生本部」と「地方創生担当大臣」が設置され、14年12月に国の基本的な方向をまとめた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定された。こうして第1期地方創生(15年度から19年度まで)が始まった。

大阪・名古屋圏でさえも
6年連続で転出超過

第1期地方創生では、4つの政策目標(①地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする、②地方への新しい人の流れをつくる、③若い世代の結婚出産子育ての希望をかなえる、④時代にあった地域をつくり安心な暮らしを守るとともに地域と地域を連携する)が定められた。

これらに対し、地方創生では成果を判断しやすいようにKPI(重要業績指標)が設定され、4つの政策目標合わせて、基本目標が15、その下の各施策に関する目標が116置かれた。

例えば、国はKPIについて「目標達成に向けて進捗している」「現時点では、目標達成に向けた政策効果が必ずしも十分に発現していない」「その他(現時点において統計上実績値の把握が不可能なもの等)」と区分している。より重要な基本目標のKPIの進捗状況を見ると、①は3つ全て、③は4つのうち2つが、④は5つ全てが目標達成に向けて進捗していると判断されている。

4つの政策目標のうち特に未達成への批判が大きいのは②である。「東京圏への転入が6万人減」「東京圏からの転出が4万人増」「東京圏から地方圏への転出入が均衡」の基本目標すべてが、効果が出ていないに分類されている。

東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の転入超過数は90年代後半以降プラスで推移し、近年再び増勢が強まっている。一方、三大都市圏である名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)と大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)でさえも、転出超過は6年連続となっている(下図1)。地方創生の大号令にもかかわらず、「東京一人勝ち」が続いており、第1期地方創生が終わる19年度までに東京圏の転入と転出を均衡させるというKPIが未達に終わることは確実である。

(注)三大都市圏の人口の転入超過数の推移
(出所)総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告』各年版より、みずほ総合研究所作成
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東京圏への転入超過で注目されるのは女性の転入超過である。戦後の東京圏への人口流入の高まりは高度成長期、バブル期、90年代後半以降と三度あるが、90年代後半以降は、女性の東京圏への転入超過が多い。

この背景として、女性の高学歴化を上げることができる。4年制大学進学率を見ると、その男女格差は1975年には28・3ポイント(男性41%、女性12・7%)であったが、90年代に入って女性の同進学率が上昇し、2018年には男女格差は6・2ポイント(男性56・3%、女性50・1%)まで縮まっている。既に、4年制大学卒業生の就職数では男女がほぼ拮抗(きっこう)しており、人出不足が続く中、4年制大学を卒業した女性が企業にとって戦力の根幹になっているのがわかる。

一方、活況を呈している製造業を抱える名古屋圏を見ると、20歳代の男性が転入超過であるにもかかわらず、女性は一転して転出超過である。女性の多くは、サービス業への就職を志向する傾向があり、このためサービス業の集中度が高い東京圏での就業が目指されているものと思われる。

「破れたバケツ」のような
地域経済の中心都市

地域別人口動向では東京圏一極集中が注目されがちであるが、近年そして今後も続くと見込まれるトレンドとして、非東京圏の郊外部→地域経済の中心都市→東京圏という人口の流れが想起される。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(18年推計)を見ると、15年から45年にかけて日本全体に占める東京圏の人口は3・4%上昇するが、各都道府県に占める各県庁所在地の人口が東京圏と同じレベル(3・4%)以上で増加するところは24道府県にのぼる(図2)。

(注)各県庁所在地の各都道府県における人口集中度。国立社会保障・人口問題研究所(2018年)では 東日本大震災等により福島県内の市町村の人口の将来推計が行われず、福島市のデータは算出できない
(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2018年推計)」より、みずほ総合研究所作成
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例えば、15年から45年にかけて西日本の府県で最大の人口減少率となる高知県では、県内人口は32%減少する中、高知県に占める高知市の人口割合は15年の46%から45年の54%へ大幅増加し、高知市は高知県の半分以上の人口を抱えることになる。

このように、県庁所在地などの地域経済の中心都市へ人口が集中していく背景にも、若い女性の地域経済の中心都市への移動がある。経済圏全体では転出超過となっている名古屋圏、大阪圏でも同様で、例えば、名古屋圏では若い女性が転出超過であるが、その中心都市である名古屋市では若い女性は大幅な転入超過である。サービス経済化が進んでいく中で、地域経済においても、郊外に住む若者がサービス業の発達した地域経済の中心都市で就業する動きが広がっている。

こうして中心都市に集まった人口は、次に東京圏へ転出していく。総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」によると、18年の東京圏への転入者は東京圏以外からが28万人にのぼるが、そのうち名古屋圏と大阪圏からが7万人、三大都市圏以外の道県庁所在地からが7万人を占めている。

加えて、中心都市で目立つのは、25歳代以上の年齢層で流出が進んでいることだ。東京都区部における私立大学の定員管理の厳格化により、10歳代後半の東京圏への移動は抑制されているものの、25~39歳では、名古屋圏は転入超過から転出超過へ転換し、大阪圏は転出超過が拡大している(図3)。

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」各年版より、みずほ総合研究所作成
(注)転入人口と転出人口を差し引きした数。マイナスは転出超過
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現在のサービス業では、各都市別で仕事の内容に大きな差はつきにくい。そうなると、より給与水準の高い地域への転職を考えやすくなる。未婚の若者にとって、多少の生活費の上昇があったとしても、それを上回る賃金の上昇が見込める東京を頂点とした大都市への転職が選ばれるのは自然なことといえる。

人をひきつけるその地域特有の新たな産業が興らない限り、非東京圏の郊外部→地域経済の中心都市→東京圏というトレンドは、今後も続くことになる。

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