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オーストリアの新政権は未来のモデルになるか――今、ヨーロッパで注目されている理由 - 穂鷹知美 / 異文化間コミュニケーション

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新年が明けてまもない元旦の夜、オーストリアの中道右派の国民党と緑の党が連立することで合意したと発表されると、隣国の同じドイツ語圏であるドイツやスイスでは驚きの声がわきあがりました。翌日のあるドイツの紙面では、「ほかのヨーロッパの国々もそうだが、とりわけベルリンでは、多くの人が本当なのかといぶかしげに自分の目をこする」(Krupa, 2020)と、その驚きを報じています。

さらに注目されるのは、そのことを報道するドイツとスイスの紙面が、どれも好意的で楽観的な評価で彩られていたことです。もともとドイツの保守系あるいは一般大衆向けの新聞では、これまでも保守的な姿勢を一貫して示してきたオーストリアの国民党とその党首クルツSebatian Kurz首相に好意的な報道をしてきたため、今回の新政権についても肯定的に報道されたことは特に驚くには当らないかもしれません。しかし、良質のメディアとして知られる中道・リベラル系の各紙でも、好意的な論調の記事でうめつくされていました。

例えばドイツの『ディ・ツァイト Die Zeit』では、「ヨーロッパのモデル」となる可能性を指摘したのにとどまらず(Gasser, 2020)、「すばらしいポイントは、よりによってオーストリアの若い保守派のセバスティアン・クルツが、ドイツではまったくできないであろうことを成し遂げたことである。それは黒緑の連立政権だ(ドイツ語圏ではそれぞれの政党がそれぞれ自分たちの政党を色でたとえる伝統があり、黒はドイツでは保守政党、緑は環境政党を意味します)」(Krupa, 2020)と、あたかも勝利宣言のような論調で時評でたたえられていました。

なにがそれほど驚かれ、また高く評価された理由だったのでしょうか。今回は、発足したばかりのオーストリアの新政権と、それについてのドイツとスイスのメディア紙面の反応を観察しながら、これらの問いについて考えていきたいと思います。隣国がオーストリアの新政権にみいだしたもの、みいだそうとするものをみていきながら、逆にヨーロッパが今抱えている状況や、ヨーロッパが今後向かおうしている方向を少し俯瞰できればと思います。

180度方向転換した新政権

先ほどの『ディ・ツァイト』の時評で「よりによって」という表現がありましたが、これは国政レベルの保守政党と緑の党の連立がはじめて達成されたことだけではなく(ドイツでは国政レベルで保守政党と環境政党の連立はまだなく、スイスでも緑の党が連邦政府に選出されたことはまだありません)、それがオーストリアという国で起きたことが驚きであったことを示しています。

というのも、オーストリアではすでに30年以上も前から極右政党が台頭していた国であり、近年ヨーロッパで勢力拡大が危惧されている極右政党の動きと合わせてみれば、いわば「政治的アヴァンギャルド」(Krupa, 2020)の国であるためです。前政権もクルツの国民党と極右政党である自由党の連立政権でした。しかし昨年5月、自由党党首で副首相であった政治家の汚職疑惑が発覚し、連立が突然崩壊し、クルツ首相も辞任に追い込まれたため、9月末に前倒しで総選挙(国民議会定数183)が行われました。

総選挙の結果、クルツの国民党は前回(2017年)比で6.1ポイント増の得票率37.5%を獲得し、第1党の座の維持に成功しましたが、連立パートナー選びはそれまで連立を組んでいた自由党や第二党の社民党との連立が事実上、困難であったため、当初、難航が予想されました(それまで連立を組んでいた自由党は、9.8%減の16.2%と大きく後退し、スキャンダルまみれの腐敗のイメージが強かったため、再び連立するのは賢明とはいえず、第二党の社会民主党との連立も方針の隔たりを理由に、両党ともに当初から論外という立場を示していました。ちなみに、社会民主党は5.6ポイント減の21.2%で過去最低の得票率でした)。

結局、国民党はこれまで対立関係にあった第4党の緑の党(得票率13.8%)との数ヶ月に及ぶ長い交渉を行い、300ページ以上の詳細にわたる具体的な政策がとりまとめられ、ようやく年明けに連立が決定する運びとなりました。

ちなみにオーストリアの緑の党がはじめて与党入りしただけでなく、今回の政権ではほかにも史上はじめてのことがいくつかおこりました。17人の閣僚の8人が女性と、オーストリアではじめて女性閣僚数が男性数を上まわり、ボスニア=ヘルツェゴビナ生まれで10歳の時に難民としてオーストリアに移住したという経歴の法務大臣ツァディックAlma Zadicは、はじめてのオーストリア生まれでない大臣となりました。



緑の党が連立へ踏み切った背景

ドイツでは「同盟90/緑の党」(以後、略称として「緑の党」と表記)が1998年から2005年まで連立政権に入っていましたが、その時のパートナーは社会民主党であり、ドイツからみると、保守と緑の連立というのは未開の境地という感覚がいまだ強いのかもしれません。しかし、少なくともオーストリアの地方では、2003年から保守(国民党)と緑の連立政権が成立して以来、地方議会で常連コンビとして定着してきました。もう少し正確にいうと、社会民主党と緑の党の連立が成立したのは、過去にも現在でもウィーンのみであり、ほかの地方議会ではすべて緑の党と連立したのは国民党でした。

これにはオーストリアの緑の党の性格も一役買っています。ドイツやスイスでは緑の党は典型的な若者、インテリ、都市部に支持者が圧倒的に集中する党であり、当然、政党の性格もこれら支持層の関心をとりわけ反映していますが、オーストリアではそれほどきれいに分岐されてはおらず、「地方にいけばいくほど、西にいけばいくほど、緑の党は市民的(中産階級的)になる」傾向があるといわれます(Löwenstein, Mit Zuckerln, 2020)。つまり、西にいけばいくほど地方では、国民党と緑の党は実質上、真っ向から対立する政党ではなくなっているといえます。

とはいえ、最初に入る政権が国民党との連立というのは、緑の党にとってもひとつの賭けであり、勇気のいる決断でした。政権入りの決議のために開催された今年はじめの臨時党大会でも、緑の党党首コグラーWerner Koglerも、たしかに「これから数年の間、反対勢力でいるのは、らくなことだっただろう」し、「多くの人が想像するように、このように決断するのは決して簡単ではなかった」(Ruep, 2020)と率直に認めています。

実際、若い党員から、国民党と合意した連立政権契約書(Koalitionsvertrag、契約といっても拘束力はなく、連立政権の覚書に近いもの)がネオリベラルな政府プログラムにすぎず、環境保護の促進を国民党はブレーキをかけるに違いない(Österreich, 2020)と、厳しい批判を受けました。しかし、最終的に党内の反対者はごく一部にとどまり、党会議に参加した代表者の93.2%という圧倒的多数の賛成票を得、連立政権案が決定しました。

どうして緑の党が踏み切ることができたのか。それは逆に、緑の党が引き受けなければ、再び極右政党の自由党と政権に返り咲く可能性が高く、環境政策も停滞する、という(緑の党にとって)最悪のシナリオをなんとしても避けたいという危機感が強かったからでした。ウィーンの副市長で、党内でも左寄りとされるウィーンの緑の党を率いるへバインBrigit Hebeinも、これは危険でもあるが「信じられないほど大きなチャンスでもある。これによってわたしたちは、この国の社会政治の言説を再びポジティブに転じることができるかもしれないからだ」 (Österreich, 2020)と、党の決断を支持しています。

ドイツの緑の党の共同党首のひとりハベックRobert Habeckも、このような党の決断に対して、「保守的な国民党を右翼ポピュリストのたまる角から」「再び民主主義の中央につれもどし、オーストリアに新しい形のオプションを与えることを、みずからの責任と課したオーストリアの緑の党は尊敬に値する」(Herholz, 2020)と、オーストリアの同志にエールを送っています。



画期的な環境政策と引き換えとして見送られた移民政策

意外な連立の組み合わせだけでなく、「オーストリアに対する責任」という題名の政府プログラムや、国民党と緑の党が合意した300ページにもおよぶ連立政権契約書のなかで打ち出された具体的で非常にラディカルな環境政策も、ドイツやスイスの各紙が注目し賞賛した理由です。

自動車税を増税する一方、国内公共交通すべてが格安で利用できる年間定期券制度や、1件当たり12ユーロの航空券税を導入し、国の電力も2030年までに100%グリーン電力で賄うようにし、EUやドイツの規定より10年早い2040年に、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出をゼロにする)を達成する、という非常に野心的な政策です。

このような環境政策を促進する連立政権は、EUにとっても大いに歓迎されると考えられます(Raumsauer, 2020)。すでに緑の党が与党に入っているフィンランド、リトアニア、スウェーデン、ルクセンブルク、ベルギーに、さらにオーストリアも加わることで、昨年12月に欧州委員会委員長に就任したフォンデアライエンがEUの中心的な目標として掲げた「ヨーロッパ・グリーン・ディール」(ヨーロッパ・レベルでの環境政策)に、追い風が吹くことが期待されています。

一方、このようなラディカルな環境政策の推進と引き換えに、緑の党は移民・難民政策で国民党に大幅に譲歩することになりました。14歳までの少女のブルカ着用の禁止や、治安対策と称した難民や移住管理の強化などの国民党の要望を、昨年までの批判する立場から一転して容認することになりました。

緑の党の若者の一部では、このような緑の党の譲歩に強い不満がでましたが、この連立政権契約書にもとづいて連立政権に入ることが党大会で承認されているため、保守党と連立していくためには難民問題で折れるのはやむをえないと、少なくとも現在、多くの党員は考えていると思われます。ただし、もし今後、再び難民危機のような事態が勃発し、緊急に新たな対応が政府に迫られることになれば、意見が紛糾して連立はすぐさま崩れ去ることになるかもしれません。

このような緑の党の環境政策を優先する方針は、緑の党支持者たちの間ではどのようにとらえられているでしょうか。緑の党は2017年の選挙で議席獲得に必要な4%の得票率を確保できず国会を離れていましたが、2019年には10.0ポイント増の躍進を果たしました。これはなにより昨年の環境デモなどを中心にした国内で環境への関心の高まりが(穂鷹「欧州議会議員選挙とユーチューバー――中高年が仕切る政治にノーをつきつけた若者たちhttps://synodos.jp/international/22822)、躍進の大きな追い風になったためとされます。

つまり、今回躍進した緑の党の支持者層のコアの関心は移民政策ではなく、むしろ環境政策であると推察され、環境政策が推進されれば緑の党の支持層は大きく減ることがないだろうという見方がいまのところ有力です。

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