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逃亡者心理で考える「ゴーン夫妻“脱日”事件」

■多重構造になっているゴーン氏逃亡事件

 カルロス・ゴーン氏の妻キャロル氏は、レバノンの首都ベイルートにおける取材で以下のように述べたらしい。

 「日本とはもう終わっている

 まるで、北朝鮮から脱北した人間が言う台詞のようだが、ゴーン夫妻にとっては、まさしく“脱日”したという心境なのかもしれない。

 ゴーン氏逃亡事件において、海外ではゴーン氏に同情している人が多いが、逆に日本では批判的な人が多い。なぜこれほどまでに、日本の内と外では意見に温度差が生まれるのだろうか?

 まず第一に、この事件は、表面的には単なる脱走事件に見えているが、実のところは多重構造になっているので、事件をどこで切り分けているかによって全く見方が変わってくるということが考えられる。
 逃亡したという結果だけを見て「法律を破った」と批判している人もいれば、逃亡した原因は「単に有罪から逃れるためだ」と批判している人もいる。一方で、逃亡したのは「日本の人質司法に問題がある」と言っている人もいれば、「陰謀から逃れるためだ」と言う人もいる。

 「結果だけを見る人」と「原因と結果を見る人」と「原因のみを見る人」、これだけでも3通りの意見が出てくることになる。

■ゴーン氏の逃亡劇を「正当防衛」として考えると…

 私はゴーン氏の逃亡劇を見て、ゴーン氏をモンテ・クリスト伯に例えたが、その後、フランスのマスメディアも「現代のモンテ・クリスト伯」と評している。「モンテ・クリスト伯」はフランスの小説でもあるので、そう考える人が出てくるだろうことは容易に想像がついた。
 モンテ・クリスト(巌窟王)は、無実の罪で幽閉された人間が主人公のドラマだが、ゴーン氏を無実であるかのように論じると、またぞろ、「ゴーンは無実ではない」とか「ゴーンの言うことを鵜呑みにしている」というような反論が返ってきそうなので、今回は「有罪」か「無罪」かは於いといて、「誘拐」と「正当防衛」という視点で考えてみたいと思う。

 もし、日本人であるあなたが、ある犯罪組織に誘拐および監禁された場合、何を考えるだろうか? 誰もが、そこから一刻も早く抜け出したいと考えると思う。しかし抜け出すためには、見張り役の人物を倒さなければいけないという選択を迫られた場合、どうするだろうか?

 多くの人は、そんなことをすると法的に殺人になってしまう可能性があると躊躇すると思う。しかし、その見張りを倒さない限り、あなたは一生、監禁されたままということになる。まさに究極の選択だが、これが欧米人ではどうだろうか?

 外国の映画などを観ていると、自分の命の危険がある場合は、相手を傷付けたり殺しても罪に問われない(所謂、正当防衛)ことが日本以上に徹底されているという印象を受けることがある。「これ、日本でならNGだよね」というようなシーンが多々出てくるので、「えっ、これでいいの!?」と思ったことがある人も多いのではないかと思う。

■法律と人間の命(人権)のどちらが重要か?

 民主国家で拳銃の所持が許されている国があるのも、個人の命を守るための正当防衛であれば発砲しても罪に問われないという認識が常態化しているためであり、この辺のところの認識が日本とは全く違っている。それはある意味、法律よりも人間の命(人権)の方が大事だという民主国家の基本が徹底されている証拠でもある。

 ゴーン氏が罪を犯したかどうかはともかくとして、この事件がもし、クーデター紛いの国策捜査であった場合、有罪になる確率は100%ということになる。
 その状況に置かれた人間の心理状態というものを考えると、その心境はまさに拉致監禁された人間と同じ状態であり、法律を破って逃げることも正当防衛という認識で実行したものと考えられる。

 もう1度、お断りしておくと、ここでは有罪(良い)か無罪(悪い)かは考えない。考えるのは、あくまでも、ある状況下に置かれた人間の心理状態である。

 「そんなものは関係がない!」という反論が返ってくるかもしれないが、人間の罪というものを考える上で、これは無視できない問題だ。その部分を無視した意見は、法律と人間の命(人権)のどちらが重要かという、民主国家における最も重要な概念を無視した意見だということも併せて考える必要がある。

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