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限界が露呈したアメリカの「小さな政府」信仰 - 斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)


(iStock.com/flySnow/Purestock)

「小さな政府」を標榜してきたはずのトランプ共和党政権下で、財政赤字が拡大の一途をたどっている。社会保障など国民の社会サービス向上要求が高まるにつれて、「ビッグガバメント」やむなしとする“新保守主義”論議も党内で活発化してきた。

ブルームバーグ・ニュースが今月13日、報じたところによると、2020年度第1四半期の米財政赤字は前年同期比11.8%増の3566億ドルとなった。年度末(今年9月)には赤字は1兆ドルを突破する見込みという。

赤字増大の主な要因として挙げられているのが、①社会保障費②国防費③メディケア、の3項目であり、同時期に社会保障費は2850億ドル、国防費1870億ドル、メディケア3930億ドルの赤字増となった。


(AlexLMX/gettyimages)

財政赤字は過去歴代政権下でも増加し続けてきた。レーガン政権下の8年間で186%アップの1兆8600億ドル、ジョージ・W・ブッシュ政権下で101%アップの5兆8490億ドル、オバマ政権下で74%アップの8兆5880ドルを記録している。

財務省試算によると、トランプ政権の場合、2021年1月末までの1期4年間の赤字は25%アップの5兆880億ドルに、そして同大統領が2期務めた場合は9兆1000億ドルに膨張するという。つまりオバマ前民主党政権時よりさらに赤字が拡大することになる。

特筆すべきことは、特殊事情によりやむを得ず大規模政府支出を余儀なくされた過去の大統領とは異なり、トランプ政権の場合は、“平時予算”にもかかわらず増加し続けている点だ。

レーガン政権の場合は、世界各地への軍事拡張に乗り出したソ連との対抗上、軍事支出拡大(34%増)、そしてカーター政権当時から低迷した経済再建のための大幅減税実施による減収、ブッシュ政権では「9・11世界同時多発テロ」以後のアフガン、イラク両戦争関連出費、オバマ政権下では、世界大恐慌以来といわれた2008年以後の深刻な世界同時不況脱出のための大規模な景気テコ入れ策、といったそれぞれ予期せぬ出費があったことを忘れてはならない。

「2期8年の任期中に国の借金をゼロにする」と大見得を切った

これに対し、トランプ政権では、国内ではオバマ前政権から続いてきた経済成長が順調に推移、対外面では、北朝鮮の核問題、緊迫化する米イラン関係などの不安定要因があるものの、喫緊の国家的大問題を抱えているわけではない。

それでも、トランプ氏は2016年大統領選で有権者向けに「2期8年の任期中に国の借金をゼロにする」と大見得を切って見せたにもかかわらず、財政赤字はゼロどころか前政権以上に増え続けているのが現状だ。

米財務省データによると、トランプ大統領就任後、最初の2018会計年度の財政赤字は前年度比17%増の7790億ドルとなった。

要因としては①法人税減税による30.9%の収入減②国防費5.6%増③社会保障費4.5%増、などが指摘された。

さらに2019会計年度では、前年度比26%増の9840億ドルの赤字を記録、過去7年間で最大となった。最大要因として国防費増、メディケア支出増が挙げられた。

そして前述したとおり、2020年会計度末の赤字は1兆ドル突破が確実となっている。

アメリカの累積赤字は、2020年会計年度予算教書が発表された昨年3月段階で世界最大規模の約22兆ドル(約2200兆円)に達しており、今後数年間も財政赤字は毎年1兆ドル超えが予想されているため、これまで以上にさらに拡大していくことになる。

ちなみに日本の累積赤字は、約1000兆円だ。約3・5倍の人口比から見ればまだ、アメリカは“社会福祉国”からは程遠い。

もともとアメリカでは建国以来、DIY(Do It Yourself)に象徴される「自助努力」がよしとされ、政府援助や社会サービスに依存する「ビッグ・ガバメント」(大きな政府)はどちらかと言えば敬遠されてきた。

しかし、政治の世界では、社会の不平等や落ちこぼれ問題が顕著になるにつれ、弱者救済に力点を置く民主党が政府規模の拡大を主張し始める一方、共和党はあくまで競争原理を重視する「スモール・ガバメント」の立場を標榜、両党間で政策論争を繰り広げてきた。この結果、「ビッグ・ガバメント=民主党」vs「スモール・ガバメント=共和党」という対立構図ができ上がり、今日に至っている。

ところが、内実をつぶさに見ると、上記のような両党の色分けは必ずしも実態を反映したものではない。

共和党も民主党に劣らず「ビッグ・ガバメント」志向

ジョージ・メイソン大学のベロニク・デルージ上級研究員は、連邦政府行政管理予算局(OMB)が毎年公表してきた「国民一人当たりの政府支出」統計に着目、歴代政権下での推移を追跡してきた。

それによると、終戦後の1948年1年間に一人当たり約2000ドルだった政府支出はその後、一貫して増え続け、2013年には5倍の1万ドルを突破、その後も今日に至るまで拡大の一途をたどっている。

しかも興味深いのは、共和党のレーガン、ジョージ・W・ブッシュ共和党政権当時のほうが、民主党のカーター、クリントン政権の時より一人当たりの支出額が上回っていた点だ。すなわち、党の表看板とは裏腹に、共和党が実際には民主党に劣らず「ビッグ・ガバメント」志向であることを示しているという。

共和党はトランプ政権下でも、オバマ民主党政権時よりさらに財政赤字拡大が明確になったことで、いよいよ同党の「小さな政府」は看板倒れの印象をぬぐいきれなくなった。

共和党を支持する州の政府依存度が高い

実際に、共和党の伝統的支持層が政府依存体質を強めつつあることを示すデータがある。

金融・ビジネス専門のデジタルメディア「MarketWatch」は昨年6月、全米各州別の「政府依存度ランキング」を発表した。連邦政府が1年間に各州に配分した助成金、1世帯当たりの社会保障プログラム依存率、各州の連邦政府職員数などをもとに試算した。

それによると、政府依存度トップ・テンのうち、1位=ミシシッピー州、2位=アラスカ州などのように、なんと上位8州が“red states”すなわち共和党支持州で占めているという。共和党強硬派で議会の指導的立場にあるミッチ・マコーネル上院院内総務の出身州ケンタッキー州は第5位だ。

これに対し、全米50州中、依存度が最も少ない下から10州のうち6州が、2016年大統領選ではヒラリー・クリントン民主党候補支持州だった。

こうしたことから、「MarketWatch」は「皮肉にも、カリフォルニア、マサチューセッツ、ニュージャージー、カリフォルニアといった民主党支持州が、共和党支持のレッド・ステーツの財政を支援してきた」と結んでいる。

そこで最近、共和党内部で浮上してきたのが、「大きな政府」を是とする「新保守主義New Conservatism」と呼ばれる考え方だ。

首都ワシントンに本部を置く保守系シンクタンクとして知られる「ケイトー研究所CatoInstitute」は昨年12月6日、「ビッグ・ガバメント保守主義が復活した」とする論評を発表した。そして、次のように述べている:

「1980年代のレーガン共和党政権時代はたしかに、スモール・ガバメントが主流だった。しかし今日、同じスローガンを掲げるだけでは、選挙に勝てなくなってきた。21世紀に入りグローバル競争が激化、台頭する中国相手にイノベーションやIT革命を意欲的に推進するとともに、わが国の知的財産権保護などのためには政府の役割拡大を期待せざるを得なくなってきた。われわれは“新保守主義 New Conservatism”すなわち『ビッグ・ガバメント保守主義』の時代に入ってきた……」

まさにトランプ政権は、この“新保守主義”を体現したものだ。そして今後もアメリカでは、政府保護や様々な形の社会保障サービスを求める有権者の声が高まっていくことは必至であり、将来的には日欧諸国並みの“社会福祉国”へと変質していくことも十分考えられよう。

トランプ大統領は、就任以前から固執してきた、国民健康保険充実をめざした「オバマケア」改廃については最近、自らのツイッターなどでもほとんど触れなくなった。それどころか今後、11月大統領選での再選に向け、さらなる財政悪化も覚悟の上で大規模インフラ投資といった「ビッグ・ガバメント」政策を打ち出していく可能性もある。

「小さな政府」のアメリカは、遠い過去となりつつある。

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