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“台風15・19号”災害派遣で活躍 自衛隊ヘリパイロットが忘れられない「あの光景」 陸上自衛隊航空操縦士 インタビュー#1 - 鼠入 昌史

 令和元年の日本列島も、相次ぐ災害に見舞われた。とりわけ、秋口に来襲した台風15号と台風19号。立て続けにやってきたふたつの台風は、東日本を中心に大きな被害を残した。そうした中で、人命救助や物資輸送などで活躍し、災害からの復旧を後押ししたのが自衛隊。多岐にわたる自衛隊の災害派遣による活動の中で、“空から”の支援に携わった隊員の話を聞いた。取材に応じてくれたのは、陸上自衛隊第1師団第1飛行隊の航空操縦士・吉田達雄さん。台風15号・19号ではどのような活動をしたのか、そして陸上自衛隊の“ヘリ部隊”の役割とはなにか――。

【写真】台風19号での災害派遣など、自衛隊ヘリパイロットの写真を見る(全11枚)

(全2回の1回目/#2へ続く)


陸上自衛隊第1師団第1飛行隊の航空操縦士・吉田達雄さん

◆◆◆

「台風19号では奥多摩に救援物資を運びました」

「今回の台風15号と19号では、第1飛行隊として航空偵察や物資輸送を実施しました。当初は人命救助も計画にあったのですが、途中で水位が下がってきたので、第1飛行隊では実施することはなかったです。航空偵察は、文字通り空中から被害状況を偵察して情報を収集する任務。目視はもちろんですが、写真や映像も撮影して情報資料を集め、必要な物資や派遣する隊員の数などを決める情報として扱ってもらいます。地上からの情報だけだとどうしても内容が限られてしまいますので。

 物資輸送は水や食料、燃料などを孤立した被災者に届ける任務です。水没したり土砂崩れなどで道路が通れなくなった場所には車両で物資を運ぶことができないので、我々が空から救援物資を運ぶことになります」

「台風15号では成田方面、19号では埼玉や神奈川、山梨まで偵察で飛びました。物資輸送では奥多摩方面にも運びました。灯油・ガソリン・軽油といった燃料と、食料だとカレーやおでんなどのレトルトパック。ヘリ1機におよそ500~600kg積むことができ、2機で4往復。着陸できない場所だったので、空中でホバリングしてホイスト装置を使ってロープで物資を降ろしました」

災害現場で「着陸するか、ホバリングするか」

 第1師団第1飛行隊が保有しているヘリコプターは米国ベル・エアクラフト社のUH-1J。安全に着地するためには少なくとも30m×30mほどの空き地が必要だという。ただ、孤立した山間部の被災地などにはそうした空き地がないケースも多い。

「事前に地上の連絡員が現地に足を運び、ヘリが着陸できる場所の情報を提供してくれるんです。ただ、航空の専門家ではないので、最終的に着陸するかどうかは我々操縦士が現場で判断することになります。災害では現場に飛来物も飛んできていることが多いので、これまでの経験も含めて降りるかどうかを決めます。もちろん着陸して物資を降ろすほうが確実で安全なのですが、ギリギリのスペースに無理をして着陸するよりは空中から降ろしたほうが良いのです。

 空中から物資を降ろす時には、先に隊員をロープで地上に降ろし、あとから物資を受け取る流れになります。操縦士は機長と副操縦士の2名乗っていますが、加えて後ろに整備の隊員が4名。普段は第1飛行隊の整備班の隊員としてヘリの整備をしているのですが、ホイスト装置で降下する訓練も受けており、物資輸送だけでなく人命救助でも力を発揮してくれています」

常に操縦士4名が出動に備える

 吉田さんの所属する第1師団第1飛行隊は、立川駐屯地に本拠地を置く。所属隊員は全体で約75名おり、吉田さんら操縦士たちによる飛行班のほかに整備班・通信班、そして隊全体を統括する隊本部から構成されている。操縦士の資格を持つ隊員は20名ほどいるそうだが、現在、実際に飛行班で操縦しているのは8名だ。

「先ほど言いましたが操縦士は1機2名で乗ります。平常時はヘリ2機が待機しているので4名が出動に備えていることになる。全体の半数ですね。それが交代で任務に就いて、いつでも飛べるような準備を整えています。いつ何が起きてもいいように。ただ、台風19号では事前に大きな被害が出ることも予想されましたので、全ての隊員が出勤して備えていました。できるだけ早く現地に向かい、被災状況を確認することがその後の救援や復旧の第一歩になりますから。台風が過ぎ去った翌朝の日の出とともに出動しました」

 自衛隊の災害派遣は、原則として被災自治体の派遣要請を受けてから。ただ、近年では被害が大きく派遣要請が予想されるケースでは自衛隊が自主的に被災地に出向き、自治体からの要請を受けると直ちに被災地で活動に入れるような体制を整えている場合も多いという。

「事前に地上の連絡員が各市町村役場や県庁などに入って情報を収集し、派遣要請への対応もスムーズにできるようにしています。台風19号でも、関東地方に台風が上陸する前には連絡員の派遣は全て終わっていたと思います。そうして彼らからの情報はもちろん、我々が航空偵察で掴んだ情報などをまとめて被災地への支援に活かしていきます」

東日本大震災での“忘れられない光景”

 台風15・19号での災害派遣では人命救助の任務はなかったという第1師団第1飛行隊。ただ、吉田さん自身はかつて所属していた部隊で東日本大震災における人命救助に従事した経験を持つ。

「2011年、東日本大震災当時は第10師団(司令部:愛知県所在)の飛行隊に所属していました。そこで発災直後に東北に向かい、2日後には宮城県の船岡駐屯地を拠点に活動を開始しました。活動範囲は、宮城県内、北は仙台空港あたりから南は山元町あたりまでですね。

 今回の台風と同じように航空偵察から始まり、そのあとは人命救助。ロープで隊員を降ろし要救助者を吊り上げるホイスト救助もしました。そして発災から数日経つと、行方不明者の捜索ですね。我々は地上からだと見えない沿岸部や海の上を捜索しますので、そうすると亡くなられた方が海に浮いていたりして……。その光景は強く印象に残っていますね」

「手元の地図と実際の地形が全く違う」

「東日本大震災は、本当に被害が甚大でした。飛んでいても手元の地図と実際の地形が全く違うんです。ちょうど東北自動車道を境に海側は津波がやってきてまったくの別世界になっていました。地図を見ていても、本当に目的の場所にいるのかどうかもわからなくて……。

 それに、救援のヘリもあっちこっちに飛んでいるんです。自衛隊の他に海上保安庁や警察、米軍のヘリもいる。さらに取材で飛んでいるメディアのヘリもいますから。言葉は悪いかもしれませんが、当初は統制も取れていないような状態で、無線の周波数も違うから他のヘリがどこに行こうとしているのかもわからない。いつも以上に周囲に気をつけて飛びました。今ではその教訓が生かされて、他の組織とも共通の周波数を使うようなルールができました」

「最近では林野火災が多いんですよ」

 過酷な場面も少なくない災害派遣。飛行隊のヘリは24時間即応待機。“何かあれば”すぐに飛び立って現場に向かう。と言っても、そうそう“何か”があるわけでもない。吉田さんはこれまでどんな経験をされてきたのだろうか。

「確かに何もない日のほうが多いんですが、最近では林野火災が多いんですよ。今年の春から立川の第1飛行隊で勤務しているのですが、春先は特に多いです。枯れた枝葉が日に照らされてものすごい熱量になり、それで燃えるそうです。そこで要請がかかると飛んでいって、消火剤を撒く。ただ、現場では消防の防災ヘリも飛んでくるので、錯綜することがあるんです。そこで私たちが全体の指揮を執る、交通統制のような業務をしています。小規模の火災であれば要請はないので、我々が出動するということは規模が大きい。報道されないものでも、思った以上に林野火災があるんです」

「あとは、以前に三重の第10飛行隊にいた時には緊急患者の搬送をしたことも。人里離れた山奥で、近くに大学病院のような大きな医療機関がないところで重篤な患者さんが発生しました。昼間でしたらドクターヘリが飛ぶんですが、夜間は飛べないので我々に要請がかかるんです。自衛隊のヘリは夜間も飛行できる装置がついているんです」

 木々に覆われた山間部の夜間飛行は、空と山の区別もつかず、危険度の高い任務だ。そうした状況でも、日中と変わらないように飛ぶことができるのは、陸上自衛隊のヘリ部隊ならではの“力”。さらには木の枝すれすれをいくような低空飛行なども、自衛隊特有の飛行技術だという。こうした飛行技術とそれを繰り返し訓練してきた豊富な経験が、災害派遣の現場で活かされているというわけだ。

写真=石川啓次/文藝春秋

(全2回の1回目/#2 自衛隊の本来任務は「国防か、災害派遣か」ヘリパイロットの想いへ続く)

(鼠入 昌史)

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