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私が市議選出馬を決めた47歳の一流企業社員を応援する理由

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「日本を変えたい」と市議選出馬を決意する

1972年総選挙で当選者の名前の上にバラの花を着ける自民党の田中角栄総裁(中央)(時事通信フォト)

投票する選挙権だけでなく、被選挙権も国民の権利だ(AFP=時事)

当選議員最年少が話題になるようになって久しい。2000年第42回衆議院議員総選挙最年少当選の社民党の原陽子衆議院議員・25歳(時事通信フォト)

1968年、全国区でトップ当選した自民党新人の石原慎太郎氏(左)は35歳だった(時事通信フォト)

 30~40代の就職氷河期世代は、多感な時期を常に同世代と争い、競って過ごしてきた。だが、どれだけ頑張っても親世代と違ってうまくいかず、競争ばかりしてきたためか努力が足りなかったと思ってしまう人が多い。その失敗は、自己責任だけではなくまだやり直せるという期待をこめて彼らを「しくじり世代」と名付けたのは、近著『ルポ 京アニを燃やした男』が話題の日野百草氏。今回は、「日本を変えたい」と市議会議員選挙出馬を決意した47歳男性についてレポートする。

 * * *
 関東近郊の私鉄、各駅停車駅構内で待ち合わせると、パリッと決めたスーツにネクタイとチーフ姿の男が待っていた。田中真次さん(仮名・47歳)の様相はすっかり変わっていた。私が知る田中さんはいつもラフな格好で、スーツやジャケットを好む私を揶揄する側だった。おしゃれでなかなかのイケメンでもある。細身長身がとてもうらやましい。

【写真】1972年総選挙での田中角栄氏

「県議会議員のお手伝いに行ってたんだ。党員も大変だよ」

 駅前の喫茶店、さっそく党員証も見せてもらった。なかなか見るものではないから興味深い。

 彼の噂は聞いていた。私にとっては業界関係なしの昔なじみだが、サラリーマン生活をやめて政治家を目指し始めたことはメールで聞かされていた。直接会うのは久しぶりだ。

「以前から政治には関心があったんだ。それは知っているだろ」

 1990年代後半、確かに彼と食事すると政治問題の話になった。よく覚えているのは1997年の第2次橋本改造内閣発足時、ロッキード事件で有罪判決を受けた過去を持つ故・佐藤孝行衆議院議員が入閣した時にえらく怒っていたことだ。「中曽根の陰謀」と当時語っていた。

 私も彼もお互い20代、まだインターネットは電飾ネオンのような個人ホームページが関の山の時代だった。このあと本格化するIT革命など知るよしもなし、才ある団塊ジュニアの若手起業家や技術者は自らの氷河期を挽回するかのように、この革命の「波」に乗った。この前年に堀江貴文(1972年生まれ)はオン・ザ・エッヂを創業、1997年になると青野慶久(1971年生まれ)はサイボウズを、佐野陽光(1973年生まれ)はクックパッドの前身となる会社を、槙野光昭(1973年生まれ)は後のカカクコムを創業した。徒手空拳の彼らに賭けた同世代のメンバー含め、1971年~74年生まれで新卒時には就職氷河期だった団塊ジュニアにとって、最初の挽回のチャンスだったと言えるだろう。転職時に「変な名前の怪しい会社」と皆から笑われた私の知り合いは、いまや執行役員である。

 この波に乗り成功する少数以外は負け組と呼ばれるような格差社会になるなんて、どれだけの日本人が予想したことか。私はオタク系のフリーライター、彼は老舗企業のサラリーマンで、今から思えば目端の利かぬ「波の外」の凡人だった。そう、今から思えば、我々にもチャンスはあった。なかったことにしてはいけない。

「じつはね、市議会議員になろうと思うんだ。いま地方議会はどこも定員割れでなり手がいない。無所属じゃ大変だけど、党によってはすぐ議員になれる」

 なるほどそうかもしれない。会社で40代は中堅であり、残るか去るかの選別対象だが、政治の世界で40代は若手どころかひよっこだ。落選が数人、下手すると全員当選どころか、なり手に四苦八苦している地方自治体なら、若い人は当選する可能性が高いし、現にそんな40代新人議員も多い。もっとも主要政党だとそれなりに厳しい審査もあるだろうが、彼は一流大学から一流企業、昔からとても頭が良くてリーダー然としている。それでいて案外抜けているところも魅力だ。目のつけどころを褒め、話を膨らませてみると、意外な名前が返ってきた。

「Mって知ってます?」

 私はそのMを知っていた。ネット界隈で古くからお騒がせの人物だが、懐かしい名だ。

「彼が市議会議員選挙で次点になったんです」

 言われてスマホで検索すると、たしかに次点に名前がある。

「Mが次点なんてびっくりだろ? ぶっちゃけ若けりゃ当選しちゃうんじゃないか、そう考えたんだ」

 確かにそうかもしれない。彼の言うMの市は過疎ではなくそれなりに大きな市だ。親が議員といった二世候補でもない。しかし、聞きかじりの知識からだが、市町村議員のなり手の少なさは議員報酬が安いことにあるのは不安ではないのかと聞いた。地方議員は報酬が低いだけでなく、必要経費も持ち出しになることが多いとも言われている。規模が小さい町村議会だと政務活動費もないらしい。報酬が高い市の選挙は自ずと主要都市に限られるため激戦となる。

「安いけど、独身だからなんとかなるよ」

 単身なら、まったく食えないということもなさそうだ。選挙費用も貯金があるし、親も応援してくれているという。息子が市議会議員になれば鼻も高いだろう。だがやっぱりいちばん聞きたいのは、市議会議員になって何がしたいかだ。それを質問したとたん、待ってましたとばかり、田中さんは口を開いた。

「日本を変えたいんだ」

 私は少し違和感を覚えた。別に市議会議員が日本国を思うのは構わないが。

「正直、市議会は踏み台なんだ。とにかく当選しそうな市なら構わない」

 個人の手段として否定することもないだろう。でも、細かい市政の話とか、突っ込まれると困るのでは?

「その辺は市政を批判するか、市政のわかりやすい部分を訴えれば問題ない。保育所や託児所の問題とか、開かれた議会とか、とくに子育てと介護は鉄板だ。要する子どもと老人、国政ともつながる話だろう?」

 そんなに簡単な話なのだろうか?

「意外とそんなもんだよ。他の候補者も変わりゃしない」

 確かに。地方行政の問題はそのまま国の問題にもつながる話だ。しかし実際はその市町村独特の問題や改善などが中心であり、こんなぼんやりした政策では訴求力が弱そうなものだ。とはいえ、若手であるならその意気やよしと受け取る有権者もいるだろうし、細かな公共事業や福祉政策の話より、わかりやすいと言えばわかりやすいかもしれない。もとより彼にとっては具体的政策は後付けで十分なのかもしれないが。

「日本を変えないと、ブサヨや特亜の連中に乗っ取られるよ。そんなことはキミも知ってるだろ?」

 ちなみに「ブサヨ」とは「ブサイク」な「左翼(さよく)」を、「特亜」は「特定アジア(亜細亜)」として中華人民共和国、大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を指すネットスラングだ。2000年代半ばから巨大匿名掲示板2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)で使われ、広まった。

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