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「まったく想像できなかった」古川真人さんが大学中退から6年後に、“島の物語”で芥川賞作家になるまで 『背高泡立草』芥川賞受賞インタビュー - 山内 宏泰

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 気負わず飾らぬ人、のようだ。

【写真】芥川賞受賞・古川真人さんの写真を見る

 既報の通り、第162回芥川賞を受賞した古川真人さんである。1月15日夜の受賞会見に臨んだあと、会場のホテル内で選考委員らと顔合わせ。シャンパンで乾杯するとほどなく、近隣で用意された祝賀会の席へ移動した。

「お酒はもともと好きで、ふだんはよく飲むんですが……」

 この日は0時を回るずいぶん前には、早くも帰途についた。というのも、

「周りからかけていただく言葉が一切、頭に入ってこなくなってきてしまったので。どうもお酒ではなく、たくさんの人と一気にお会いしたことに酔ったみたいでした」

慣れないネクタイを結んで壇上へ

 派手なふるまいが得意でなさそうなのは、受賞会見のやりとりでも垣間見られた。現在の心境を問われれば、

「アワアワしています。なんでこうなっちゃったんだろう、自分はこれからどうなるんだろう、というのが率直な気持ちで、うれしさはまだ湧いてきていません。ただ、作品が本になるたび喜んでくれる人がいて、その方々が受賞のことも喜んでくれるのだとしたら、よかったなと」

 そう控えめに語った。

 ふだんはラフな格好で過ごすので、会見に臨む直前に持参したネクタイを結ぼうとするもうまくいかず。同行していた編集者の助けを借り首元を整えて壇上へ出るも、

「革靴が痛いです。履き慣れていないので」

 とマイクを通して白状してしまった。語り口や物腰を含め、いたってマイペースなのである。

 会見翌日の午後に改めて話を聞くことができたのだけれど、時間が経つにつれ実感は増してきただろうか。

「いえ、やっぱりまだあまり。でもそういえば先ほど、ふだんはふざけ合うばかりの中学校の同級生から、ストレートな褒め言葉が書いてあるお祝いのメールをもらって、そのとき『ああ俺、ほんとに受賞しちゃったんだな』という気持ちがこみ上げてきました」

「おーい、来たな。上がんない、上がんない」と、敬子は裏口の戸を開けて入ってきた哲雄に、加代子と、それに奈美と知香に対して言ったのと同じ言葉を、やはり全く同じ口調で言いながら、店から居間に上がる、夜の寝る際にはガラス障子で締め切る間仕切りの縁に背を丸めて腰掛けていた。
(『背高泡立草』より)
   古川さんの出身地は福岡県だ。小学校から高校まで福岡市内の学校に通った。受賞作『背高泡立草』には、登場人物たちの会話に九州地方の方言をたっぷり入れ込んである。

 ただし主な舞台になっているのは、母方のルーツがあり、現在も祖母が住む長崎県平戸市の長崎県のとある島。玄界灘に浮かぶ小島ながら豊穣な歴史を持ち、いまも昔ながらの暮らしが根づく土地である。古川さんは小さいころからたびたび島を訪れ、親族と時間を過ごしてきた。

 つまりは自身のよく知る土地を土台にし、見聞きした体験をベースにしながら、作品は書かれている。そうした書き方は、じつはデビュー当時から変わらない。新潮新人賞を受賞したデビュー作『縫わんばならん』にはじまり『背高泡立草』へ至るまで、古川さんは島とそこに住む一族のことを書き継いできた。

シャンプーしていたときにふと浮かんだ「島の婆さんの話」

 各作品によって積み重ねられてきた壮大な作品世界が生まれるきっかけは、小説を志しながら悶々と過ごしていた20代半ばにあった。

「たしか24、5歳の頃でした。ある日、風呂入りながら考えていたんです。好きでよく読んでいた古い小説や海外文学には、大きな思想や信念、宗教的倫理観などに真っ向から取り組んでいる作品が多い。翻って自分はどうかといえば、そういう大きいテーマなんて持ち合わせていない……。

 じゃあ何を書いたらいいのか。思いあぐねながらシャンプーしていたときふと浮かんだのは、ああそういえば島で婆さんたちの話、よく聞いてたなということ。あそこで見聞きしたことを書いていったら、小説になるのじゃないかなと」

 そうして生まれてくることとなった「島の物語」は、発表されるたび大いに注目され、過去に芥川賞候補となること3度。今回の受賞は「4度目の正直」だった。

 一歩及ばなかった過去作と今作では、手応えが違っただろうか。

「いえ、今回は短編連作の形式にしてあるんですが、そういうかたちだとあまり芥川賞には好かれないだろうと信じ込んでいて、ノミネートされることすら想定していませんでした。

 ただ作品としては、気楽に好きなように書けたなという気持ちがあります。書き始める前には、島のことを片足に置きつつ、もう一方の足をどれだけ遠い場所まで伸ばしていけるかということをやってみたいと思っていたんです。それを長編として書くのは、いまの自分の力量では難しい。舞台となるそれぞれの土地のことを念入りに調べ上げないといけないでしょうから、これまで見知った島のことばかり書いてきた自分の手に余ります。

 でも短編をつないでいくかたちなら、満州や択捉での出来事を書くにしても、ある瞬間やせいぜいある1日を切り取って描いてしまえばいい。それならなんとかなるんじゃないかと踏みました」

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