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「人生100年時代」で重要なのは老後までにどんな人間関係を築いてきたか - 「賢人論。」第108回(前編)金美齢氏



台湾出身の金美齢氏は、並み居る知識人を舌鋒鋭く論破する気鋭の評論家として知られる。「朝まで生テレビ!」「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中」などの討論番組で、田原総一郎氏、田嶋陽子氏、堀江貴文氏らと交わした激論は今でも語りぐさだ。金氏のテレビ初出演は意外に遅く、59歳のとき。以来四半世紀を経た今も、85歳の現役評論家として活躍し続けている。自身が後期高齢者でもある金氏は、「人生100年時代」を迎えた日本社会をどのように見ているのだろうか。お話を伺った。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

「来る者は拒まず」の晩ご飯をきっかけに、59歳で評論家としてデビュー

みんなの介護 金さんがテレビで評論家として活躍するようになったのは、50代後半からだと伺っています。それまでの金さんは、1959年に早稲田大学第一文学部英文科に留学するために来日し、1964年、当時東京大学大学院の留学生で、後に東京理科大名誉教授となる周英明さんと結婚。2人のお子さんの子育てをしながら、英国ケンブリッジ大学客員研究員や早稲田大学講師などを務めていました。

テレビと無縁だった金さんが出演するようになったきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。

 私がテレビ出演するようになったのは59歳のとき。ずいぶん遅いテレビデビューでした。きっかけは、長女が某テレビ局に就職したことですね。

わが家はもともと、「来る者は拒まず」というオープンな家庭で、私たち夫婦や、長女、長男の友達がよく訪ねてきては、ご飯を食べて帰るのがずっと通例になっていました。

これは、台湾の家庭ではごく普通の風習でもあります。客人には、作りおきのおかずである「常備菜」を何種類か、温かいご飯と一緒に供します。特別豪華な御馳走を振る舞うわけではないので、訪ねてきたほうも「じゃあ、いただきます」と気兼ねなく食事できるんですね。

そういう家庭だったので、テレビ局に入社した娘も、「ママ、みんなまだ晩ご飯食べてないんだけど、ウチに何かある?」と電話してから、同僚や上司の方をしばしば自宅に連れてくるようになりました。

私も手料理で歓待し、みんなで楽しくお喋りしながら食卓を囲んだものです。

そうやって、みんなでわいわい食事をするうちに、娘の上司であるワイドショーのプロデューサーの方が、「金さんは喋りが面白いから、ウチの番組にコメンテーターとして出演しませんか?」と声を掛けてくださったのです。

みんなの介護 夕食の手料理とお喋りでテレビ出演が決まるとは、すごい展開ですね。

 私がコメンテーターとしてワイドショーに出演することに、長女は反対しました。「テレビは人を消費するところだから、ママは絶対に傷つく」と言うのです。

でも私は、大学講師の仕事を通して、自分の言葉を大勢の人に伝えることに面白みを見出していました。また、テレビという未知の世界への好奇心もありましたね。

結局、あれから四半世紀以上もテレビの世界とかかわっているのですから、私とテレビの相性は良かったのだと思います。



「政府が悪い」「社会が悪い」と言っているだけでは、そこから学べることは何もない

みんなの介護 わが国では国民の長寿化が着実に進行していて、「人生100年時代」が現実のものとなりつつあります。国民の寿命が延びることは本来、ことほぐべきことのはずですが、2019年6月に金融庁が「老後資産は2,000万円足りなくなる」と公表してから、長寿であることの弊害も大きく取り上げられるようになりました。

私たちはこれから、人生100年時代をどう生きていけばいいのか。金さんはどのようにお考えですか。

 おっしゃるとおり、「人生100年時代」は必ずしもいい時代とは限りませんね。100歳まで生きられたとしても、100歳まで健康でいられるか保証はどこにもありませんから。

とはいえ、日本が世界有数の長寿大国であり、これから人生100年時代を迎えつつあることは厳然たる事実です。だとすれば、国民一人ひとりがその事実にきちんと向き合っていくしかありません。

老いはある日突然、やってくるわけではありません。人生100年時代に向けて毎日をどう生きていくかは、一人ひとりの自己責任でしかないと私は思います。自分の老後は、自分の人生の総決算なのですから。

日本人の良くないところは、ひとたび何か問題が起きれば、何でもかんでも責任を政府に押しつけようとすること。先頃の「老後資金2,000万円問題」にしても、「自分たちの老後の保障はどうしてくれるんだ!」と騒ぐのではなく、まず自分たちにどんな準備ができるのか、できる範囲で考えるべきでしょう。

そのうえで、どうしても老後資金が足りないという人が出てきた場合に、何らかのセーフティーネットで対応すればいい。

私は、マスメディアの姿勢も良くないと思います。あの金融庁の問題も、最初に騒ぎ始めたのはメディアですよね。もちろん、あの問題をきっかけに、多くの国民が自分の老後について真剣に考え始めたとすれば、メディアもそれなりに役割を果たしたと思いますが。

みんなの介護 なるほど。「人生100年時代」の老後については、でき得る限り自己責任で対応すべき、ということですね。

 私が申し上げているのは、老後資金をいくら貯めるとか、必ずしもお金の問題だけではありません。

むしろ、「自分が年老いていくまでに、どんな人間関係を築いてきたか」のほうが重要かもしれませんね。もっと端的に言えば、「どんな家族関係を築いてきたか」。

10年ほど前、NHKが「無縁社会」についてシリーズで放映して、大きな話題になりましたね。私も番組を見ましたが、「これは少々危うい」と思いました。というのも、番組に登場する「孤立無援」になった人が、それまでにどんな家族関係を築いてきたのか、ほとんど語られていなかったからです。

妻や子どもがいたとすれば、家族となぜ疎遠になってしまったのか。その点に触れることなく、「政府が悪い」「社会が悪い」「この人がかわいそう」と言い募るだけでは、そこから私たちが学べることは何もないし、単なるお涙頂戴で終わってしまうと思ったのです。

娘夫婦に息子夫婦、そして5人の孫たち。これこそが、私の人生で築いてきた財産

みんなの介護 金さんのお言葉を借りると、老後は自分の人生の総決算であり、たとえば介護が必要になったりしたとき、「自分の身近に誰がいてくれるか?」が重要だということですね。

 そういうことです。なぜなら、年老いてから自分の周りにどんな人たちが残っているかは、半分以上、自分の責任だと思うからです。

私の場合、夫の周英明は2006年に他界しましたが、娘夫婦と息子夫婦がいて、5人の孫がいる。この家族こそ、私が85年かけて築き上げてきた財産だと思う。今でもみんな、仲がいいんですよ。この9人に、私の秘書を加えると、私のすぐ身近にいる人間は10人になる。

この10人はアテにしていいと考えているので、もしも私に何かあったら、1人が10日に1回ずつ、私の様子を見に来てもらえるんじゃないかと期待しています。

みんなの介護 金さんにとって、やはり最も大切なものは家族なんですね。

 というより、私が家族を支えているし、家族がいるから私はハッピーなのだと思う。

家族は人生を豊かにしてくれるものですが、単に仲がいいだけではいけません。人間は誰でも平等ですが、しかし立場の違いというものがあります。

家族の中にも当然ヒエラルキーがあって、その頂点にいるのが祖母であり、最年長者である私です。頂点にいるからこそ、全員が幸せになるように目配り、気配りしなければなりません。

教育の専門家の中には最近、「大人が子どもの目線まで降りていって…」などという人がいますが、私は、大人が子どもの目線まで降りていくべきではないと思っています。

大人と子どもの間には、厳然とした上下関係が存在していると思うからです。生まれたりの子どもは、大人がいなければ死んでしまう。大人は常に子どもを育てていく責任があるし、子どもは大人を見上げることで成長していけるのですから。

みんなの介護 噂で聞いたのですが、金さんはご家族に「ボス」と呼ばれているとか。

 はい。5人の孫たちには、私を「ボス」と呼ばせています(笑)。

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