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【特別対談】名越健郎×春名幹男:「米露公文書」で解き明かす日本外交「秘史」(下) - 名越健郎 / 春名幹男

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春名幹男:名越さんがご著書(『秘密資金の戦後政党史 米露公文書に刻まれた「依存」の系譜』)で書いていますが、ソ連がロシアになって以降、一時期は機密文書をだいぶ公開していたけれど、それを今はひっこめたというのも残念ですね。


名越健郎:そうですね。やはりその時々の政権、政治情勢が影響します。9・11(2001年に発生した同時多発テロ)のあとブッシュ政権の時も、情報公開が後退しました。ウラジーミル・プーチンはやはり秘密主義で、国家機密の範囲が広がりました。文書の解禁もブレーキがかかりました。

春名:そうですね。公開はだんだん抑えたと思いますね。

名越:プーチン時代でも、公開が進んだ分野もあるんです。帝政時代のものとか、情報機関の活動の一部、たとえば、ゾルゲ事件(注・太平洋戦争中、ドイツ紙記者として滞日していたリヒャルト・ゾルゲがソ連のスパイとして摘発された事件)などについても、情報機関のアーキビストが近年、機密文書を基に分厚い本を出しています。

 でもそれは政権にとって都合のいいものが多い。愛国主義に反するような文書は出せない。社会党や共産党への資金援助についての文書は恥になりますから、そういうのは、英語でいう「リクラシファイ(reclassify)」ですかね。

春名:リクラシファイしているんですよ。訳せば「再機密化」、ということでしょうか。

 日本政府に言われてアメリカが再機密化したという例が、1つあったと聞きました。核持ち込みに関する、大平正芳外相とライシャワー大使の会談記録です(注・1963年4月に行われた。核兵器が艦船に積載されて日本領海や港湾にいる場合は、これを「持ち込み」としないことを確認したもの)。大使公邸で朝食を摂りながら会談しているのですが、この文書がリクラシファイされている。これはかなりショッキングでしたね。

名越:日本側がアメリカに申し入れたわけですか。文書公開問題では、日本外務省が攻勢に出て、米側が守勢ですね。

沖縄に核ミサイル配備はあるか

名越:話は飛びますが、INF(中距離核戦力)全廃条約が廃棄されて、アメリカがまたアジアに中距離ミサイルを配備すると言っていますよね。

春名:そうですね。

名越:中国の王毅外相が年末、韓国に行って「中距離ミサイルを配備しちゃだめだ」とクギを差しました。韓国が拒否すれば、配備先は日本しかないのではないでしょうか。

春名:昔は、ナイキ・ハーキュリーズといったミサイルが配備されていたこともありましたが、今も日本国内ではものすごい抵抗があるでしょうね。

名越:日本の新聞はあまり騒がないですね。

春名:トランプ政権は、とにかく中距離核を持ちたいわけです。

 巡航ミサイルのトマホークに、「TLAM-N」という核弾頭用対地攻撃型のタイプがあります。これはバラク・オバマ前大統領が退役させたのですが、その時に実は日本政府が反対しているんです。特に、今の秋葉剛男という外務事務次官(当時は在米日本大使館公使)が先頭に立って反対していた。

名越健郎さん

名越:中距離ミサイルは空軍基地に配備するケースが多いようなので、韓国が配備を拒否した場合、沖縄の嘉手納基地あたりが候補になるのでしょうか。グアムだとちょっと遠くなりますからね。

 でも仮に核ミサイルを配備するとなると、核密約も含めて非核三原則が全部ご破算になるわけですね。これは今後大きな問題になると思います。核を避けて、通常弾頭になるかもしれません。

春名:私が個人的に配備先として考えるのは、辺野古弾薬庫ですね。

 沖縄の核密約があるわけですね、有事には沖縄に核を持ち込むことができるという。それで、県内の4カ所について、持ち込みのスタンバイをしておくように書いてあるんです。その4カ所というのは那覇軍港、嘉手納基地、辺野古弾薬庫、那覇のナイキ・ハーキュリーズ基地なんです。辺野古は、核兵器が受け取れるようにスタンバイしているはずなんですよ。

名越:今は、普天間基地移転のために海上を埋め立て中ですが。

春名:陸上の施設ですね。核兵器は非常におっかないので、地下に非常に頑丈な施設を作ることになっている。おそらく辺野古の弾薬庫施設の中にあるんだと思いますよ。

名越:沖縄の施政権返還の前からですか。

春名:そうです。

沖縄「核密約文書」は私文書?

春名:その密約文書の存在については、ぼくらも調査中だったのですが、2009年12月に『読売新聞』がスクープしたわけです。それは、有事の際の沖縄への核兵器の持ち込みについては、佐藤栄作が了解したというもので、ホワイトハウスの執務室の横にある小さい書斎で、佐藤首相はサインしちゃったんです。その書斎はのちに、ビル・クリントンとモニカ・ルインスキがいちゃいちゃしたあの部屋です。

佐藤栄作元首相(1901~1975)

 1969年11月、ホワイトハウスで日米首脳会談が行われました。その際、ニクソン大統領が佐藤栄作をその部屋に連れて行くわけです。するとそこにキッシンジャーが待っていて、紙を2枚出し、両方にサインさせる。1枚は佐藤首相が持ち帰り、もう1枚はホワイトハウスが保管するということで、文書を交わしたんです。

 持ち帰った文書は、佐藤栄作がずっと首相官邸に置いていたわけです。ところが田中角栄が総理になった1972年7月に、自宅に持って帰り、以後は自宅に置いておいた。佐藤は1975年に、築地の料亭で倒れて亡くなるのですが、その後は次男の佐藤信二(政治家。運輸相、通産相を歴任)が引き継いだ。それを『読売新聞』が抜いたんです。

 現在は佐藤信二の娘婿である、阿達雅志という参議院議員が保管しています。しかし密約の調査の時には、佐藤信二がまだ元気だった。で、この密約文書を外務省に渡そうとしたんですね。ところが外務省は、「これは私文書です。密約はありません」と、絶対に認めずにあくまで私文書なんだと言い張る。だからいまだに阿達雅志が持っているんです。

 これは私文書なのか、というのはビッグクエスチョンで、外務省にこれを突き付けたいと思いますね。アメリカ側は公的文書のつもりでいるわけですから、これは私文書だと言って突っぱねるわけにはいかんだろうと思うんです。民主的な手続きで首相に選ばれた佐藤総理が「プライムミニスター」として、ニクソンが「プレジデント」としてサインしているんですよ。

名越:春名さんが委員をされていた、「いわゆる『密約』問題に関する有識者委員会」は、民主党政権の時ですよね。

春名:そうなんですよ。

名越:外務大臣は岡田克也でした。当時の民主党政権が、自民党政権の旧悪を強調するために密約の調査に乗り出した印象を受けました。民主党政権の数少ない善政として、事業仕分けと情報公開が挙げられます。両方とも安倍政権にやってもらいたいですね。

春名:こうした外交文書は、戦前のものからそれなりに残しているようですが、全部紙で大変ですよ。外務省の地下の倉庫に行ったことありますか?

名越:ないです。

春名:本省の地下なんですが、これがすごいんですよ。それで、もし火事が起きたら倉庫内に炭酸ガスが一気に出る、と言っていましたね。そうすると酸素がなくなるので、鎮火して文書を守るというシステムになっているようです。

 では文書を廃棄するときにはどうするのか。それはまずシュレッダーにかけて、その屑をさらに溶かすのだそうです。

 というのは、イランのアメリカ大使館が1979年11月4日、学生たちに占拠されたという事件がありましたが、事前にその兆候があったので、大使館では文書をシュレッダーにかけていたそうなんです。特にCIAテヘラン支局の文書は全部シュレッダーにかけたんだけど、イラン人はぼろぼろの紙屑を全部つなぎ合わせ、文書の内容をイラン国内で本にして出版したというんです。これはすごいなと思いましたね。シュレッダーではだめなんだな、と。

名越:日本外務省は、課長クラスの裁量で廃棄できるらしいですけどね。

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