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阪神大震災から25年 「情報を受け取ったら“災害弱者”にも届けてほしい」被災現場にいる人の役割とは

 2019年9月、関東を中心に甚大な被害を出した台風15号。被害が広範囲に及ぶ中、小さな町からのSOSがTwitterに投稿され、反響を集めた。あるローカル局では放送の枠を越え、熱い思いとともに被災者支援情報をツイートし続けた。災害時のSNS活用に注目が集まった2019年。そして、阪神・淡路大震災から25年が経ち考える、「ネットは人を救えるのか?」――。

 「千葉県鋸南町の台風被害の報道をしてください。ほとんどの家の屋根がとばされて、断水と停電で、ライフラインが途絶えています。助けが必要です」

 台風15号が通過した翌日、多くの自治体で停電のため電話がつながらず、マスコミ各社でさえどの地域でどのくらいの被害が出ているのか、把握することができていなかった。そんな中、千葉県鋸南町に住む女性が撮影した動画を家族がTwitterに投稿すると、瞬く間に拡散し、鋸南町の現状が一気に知れ渡った。AbemaNewsもこのツイートをきっかけに鋸南町を取材し、被害状況や被災地が何を必要としているかを伝えた。

 先月24日、年の瀬の鋸南町を訪れると、屋根にブルーシートがかかったままの家が多くあった。風の影響で大きく壊れたビニールハウスはほぼ手付かずの状況で、3カ月以上が経った今でも爪痕は大きく残っている。

 町の農産品などを販売している道の駅「保田小学校」。直販所だった建物は台風で大きな被害を受け、一時営業ができない状態となった。現在は場所を移して販売を再開しているが、SNSで被災地からの訴えが広がったことは復興に役立ったのだろうか。

 直売所「きょなん楽市」担当の中山正喜さんは「今までこういった大きな災害を受けたことがなくて、みんな“どうしたらいいのかな”と分からないところに、ある方がSNSで広めてくれた。ボランティアの方がこんなに来てくれるとは思わなかった」と振り返る。

 一方、「SNSで広まって困ったことは?」との質問に「感謝している部分がもちろん大きいですが、直売所も含め鋸南町の道が崩れたという情報によって“道の駅まで行けないのではないか”と想像されて、(お客さまが)なかなかいらっしゃらなかった」と中山さん。現在は、道の駅がInstagramなどで旬の農作物やイベント情報の発信を行い、少しずつ客足は戻って来ているという。

 暴風によって大きな被害を受けた鋸南町の鉄工所「新勝工業」。被災当時の取材では、工場や休憩所の天井が抜けていた。台風15号が去ってから2週間後に操業を再開できたものの、現在もブルーシートで覆われたままの場所が目立つ。休憩所の天井は全て外したといい、黒川要一郎社長は「休憩所としては普通に使っていますが、ここも暖房が効かず(暖房の風が)みんな逃げちゃう。(修理のメドは)全然立ってないです。いつになるかは分かりません」と漏らす。

 黒川さんは、高齢者の多い鋸南町で災害時にSNSをどのように活用すればいいか迷いがあるという。「(SNSで広がる前は)『鋸南町』という字を読めない人もたくさんいたでしょう。でも、結局早めの情報が必要だと思います。その情報をどこにあげるのかということになりますよね。ネット活用といっても、私たちもネットに対してそんなに詳しいわけではないからどうしたらいいか」と明かした。

■SNSの呼びかけから救助につながった例も

 ここ最近出てきている、被災地や被災者自らがSNSで発信する動き。防災の専門家として数々の復興事業に取り組んできた社会起業家の藤沢烈氏は「災害直後は行政の支援が限られてしまう。大量の被災者が分散して存在するので、被害を受けていても行政の手が届かないということが多数ある。そういった場面でSNSを通じて自らが発信して助けを求めるということは、とても有効だと考えていただきたい」と話す。

 去年10月の台風19号では、被災地の発信によって救助に繋がった例があった。長野県防災はTwitterアカウントを通じて、「#台風19号長野県被害 台風による被害情報をご提供ください!道路の破損、倒木、水があふれた…などなんでも結構です。(中略)情報はtwitterへ、#台風19号長野県被害をつけてください」と呼びかけた。すると翌日、「助けて」「家族が取り残されています」といったリプライが寄せられ、その情報をもとに50件以上の救助に成功した。行政の運用指針で基本的にはSNSで返信をしないと決まっているが、状況の聞き取りを行い、情報を消防や警察、自衛隊に共有した。

 長野県防災はリプライに対し「人数」「年齢」「位置情報」「どういう状況か」という4つの情報を盛り込むよう呼びかけた。被災者がSOSをネット上で発信する際に、押さえておきたいポイントはどのようなものか。

 藤沢氏は、長野県防災のTwitterは災害時の対応として「鏡のようなアカウント」だと指摘する。「東日本大震災の時、気仙沼の400人ほどがいた公民館の方がSOS発信をしたところ、当時の猪瀬直樹東京都副知事がTwitterで見て、東京消防庁からヘリを飛ばして救助にあたったという事例がある。猪瀬氏になぜ判断できたのかを尋ねると『非常に具体的だった。当事者でないと分からない情報が入っていたので、これはフェイクではないと感じて指示を出した』とおっしゃっていた」という話を引き合いに、「5W2H(いつ・どこで・誰が・なぜ・何を・どのように・いくら)で、状況を細かく書けば書くほど、受け取る側がこれは本当だろうと感じて支援に動ける。なるべく“助けて”だけではなく5W2Hで発信することが大事になる」と説明する。

 長野県防災Twitterの担当者によると、集まった情報の中にデマは1件もなかったという。詳細な状況を把握することで、救助要請が本物だと分かったそうだ。SNSを通じた救助については「電話回線が繋がらない時に有効なツールがネット。電話回線が繋がる際は、基本的には110番や119番などの通報を優先してほしいが、バックアップとしては非常に有効である」としている。

■「被災現場にいて情報を受け取れる方は、周囲にも届ける役割がある」

 救助要請以外にも、被災者からの発信が助けになることがあるという。それは救援物資について。藤沢氏は「例えば物資が必要だというシーンで、Twitterで募った時に物資が大量に届いてしまうという問題が起きる。一方、Amazonの“ほしい物リスト”では、被災者がほしい物リストに必要な物資を書いておくと送られるのは必要な分だけで、それ以上受け付けない仕組みになっている。千葉市がその仕組みを使って有効に物資を届けたという事例もある」と話す。

 災害時の物流について、AbemaNewsの辻歩キャスターは自身が取材した台風15号の体験から「甚大な被害は出たものの、物流は生きていたという部分はある。実際に現地に入って被害状況を取材する中でも、宅配便のトラックは普通に来て、Amazonで支援物資が届くという事例も多かった。ほしい物リストというのは新しい仕組みなので、積極的な活用が今後必要だと考えられる」とコメント。一方で、「鋸南町をはじめとして全国で被害を受けやすい高齢者が多い地域では、ネットの情報が届きにくい場所までネット発信の情報を届けていくことも必要」と懸念点をあげる。

 これに藤沢氏は「これまで災害で亡くなられた方の60%以上が高齢者。あるいは障害をお持ちの方はなかなか避難しにくい状況で、健常者に比べると2倍以上の死亡率になっている現実がある。そういった方々、また外国人も含めて“災害弱者”といい、よりインターネットの情報が届きづらい現実がある。災害弱者の方々にいかにネット上の情報を届けて行くかが大きな課題だ」と賛同。

 その情報を届けるためには被災現場にいる人の力も大切だとし、「情報を外で受け取った方もそうだが、被災した現場にいて情報を受け取れる方も非常に幸運な状況。その情報は、周囲の方にも届けるある種の役割があるのだと感じていただきたい。行政も名簿を作って事前にトレーニングをしたり、ホームページで発信している情報を紙にして届けたりある程度は行うけれども、災害弱者の方にまで全ての情報が行き渡らない。現場で情報を受け取れた方は言葉で伝えたり、あるいは紙にして高齢の方に伝えたりといったことも担っていただきたい」と訴えた。
(AbemaTV/『AbemaNewsスペシャル 災害2019「ネットは人を救えるのか?」』より)
映像:鋸南町に住む女性が撮影した“SOS動画”

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